癒しの島・沖縄の深層 記事

 とうとう「建白書」という名の抗議要請文を携えて、代理を含めた沖縄の38市町村長、41市町村議会議長、29人の県議が上京。国会議員を含む約4000人が日比谷野外音楽堂での抗議集会に集まり、その後は銀座に向けてデモンストレーションを展開した。
 異例の「建白書」の方は、翌日に官邸で菅官房長官に渡され、アリバイづくりの安倍総理も5分ほど立ちあった。抗議文は山本一太沖縄担当大臣や小野寺防衛大臣、岸田外相らにも手渡された。しかし、沖縄側のオスプレイ配備撤回や普天間基地の県外移設といった怒りに満ちた要請は、安倍総理や小野寺防衛大臣の耳にはまったく届かなかったようだ。相変わらず、沖縄の基地負担軽減をオウム返しのように繰り返すだけで、米国側と本格的に交渉する意欲も気概もまったく感じられなかった。その日、沖縄県の地方交付金や一括交付金の増額が提示されたが、政府としては沖縄には金をくばっておけば、事足りると思っているのだろう。

 しかし、今回の「建白書」はこれまでの沖縄側の政府に対する抗議行動とは内容が大きく変わっていることに政府は気づいていないようだ。今回は沖縄の超党派によるすべての自治体が足並みをそろえたもので、日米両政府が画策する普天間基地の辺野古移設の可能性は限りなくゼロということになる。確かに、以前の沖縄では辺野古移設派と県外移設派が対立している部分もあったため、辺野古新基地建設も最終的には押し切れる可能性を残していた。しかし、政権交代を成し遂げた鳩山由紀夫総理によって普天間基地の県外移設が打ち出されたことで、沖縄は県知事から地元選出の自民党議員まで、県外移設が総意となった。
 それでも日米両政府が新基地建設を強行突破しようとすれば、沖縄側の反発や抗議行動は予測不能な事態にまで熾烈化するに違いない。新基地建設に地元の理解がなければ、建設そのものはいうまでもなく、基地の管理・維持に関しても多大な影響が出てくるのは不可避である。
 当欄への寄稿も久々である。日米両政府にいささかうんざりして、自民党の勝利で発信する気力も萎えたためだ。あれほど沖縄県民が反対したMV22オスプレイが強行配備され、今では我が物顔で沖縄本島全域を飛び回っている。配備前に日米の間で交わされた合意文書も完全に無視され、市街地でのヘリモードの飛行や夜10時以降の夜間飛行も米軍側の思い通りとなっている。このオスプレイは、普天間基地から沖縄以外の本土やグアム、フィリピン、タイ、韓国まで訓練飛行に出かけている。米軍側は最初からの計画通りだったはずだ。

 こうした流れは、オスプレイ配備前から想定された事であり、昨年12月の解散総選挙で自民・公明による政権交代が実現したことで、オスプレイ配備撤回を対米交渉する政治勢力も消えてしまった。日本も沖縄も、民主党による政権交代以前の対米追従路線に完全に逆戻りすることが目に見えていたからだ。
 野田佳彦前総理が在職中にオスプレイ配備に関して問われた時、「日本側がどうこういう問題ではない」と平然とした顔で絶望的なコメントを出した。日ごろから沖縄県民のためにという言葉を何度も繰り返していたが、腹の中では米国の為に沖縄県民の意向を最初から無視し、適当にごまかすしかないと考えていたのだろう。民主党政権に期待した有権者や沖縄県民の思いに最後通牒を突きつけたようなものである。政治家の嘘つきとごまかしの手口は熟知しているつもりだが、あまりにも人の心を踏みにじる言動には怒りが収まらない。
 MV22オスプレイだけが問題にされているが、嘉手納に常駐する米国海軍は空軍仕様のCV22オスプレイの移駐も決めた。いうまでもなく、地元は大反対だ。危険度ではMV22オスプレイ以上ともいわれる欠陥機だからだ。米国はいずれ、オスプレイを日本の自衛隊にも売り込み、沖縄の空を日米両政府の軍用ヘリが日常的に飛び交うシーンも出現するはずだ。
 日米外相会談では辺野古移設推進を決め、普天間基地の補修費も計上されることになった。日本の防衛省も防衛大綱を見直し、自衛隊の装備の強化や予算の増加も打ち出している。それも、通常国会を開く前にどんどん決めていく。有権者にすれば、巨額の税金を投入する経済政策を次々と打ち出す新政権政権に白紙委任したつもりはないと言いたい。

 最近、沖縄が置かれた実態を理解するために最適な本が発売される。元琉球新報論説委員長から沖縄国際大学の教授に転身した前泊博盛氏が書いた『日米地位協定入門』(創元社)である。リードには「本当は憲法より大切な」とか「戦後日本の最大の闇に迫る!」とある。
 先に述べた野田総理の本音を解き明かすには、敗戦後の日本と米国の関係にまで立ち返らなければ、真実は見えない。最近の日本の国策ともいえる原発再稼働、オスプレイ強行配備、TPP参加、消費税増税、憲法改正も裏で有無を言わせぬ圧力をかけているのは米国そのものだ。米国からいまだに自立できていない日本が、まず手を付けるべき事案は、日米差別の元凶である「日米地位協定」を白紙撤回することだ。そのうえで、原点に立ち戻って新たな日米関係を起案することから始めなければ、沖縄の不当な歴史的差別は永遠に解消されない。そのことをわかりやすく、簡潔に教えてくれる、おススメの一冊である。

 

  

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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