森永卓郎の戦争と平和講座

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 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の爆発事故は、日本はおろか、世界中を不安に陥れ、そして人や経済に様々な被害を及ぼした。これで、日本に新しい原子力発電所を作ることは、もう二度とできなくなるだろう。

 このコラムを読んでいらっしゃる方の多くが、もともと原子力推進に反対されていると思うので、今回はあえて、「短期的にみれば、原子力発電所を再稼働させる必要があるかもしれない」という話をしたいと思う。

 震災の後、3月14日から東京電力がスタートさせた計画停電は、いまだに大きな損害を与え続けている。通勤電車が間引きされているため殺人的なラッシュが生まれ、電車がいつくるか分からないので移動の時間が読めなくなり、車に切り替える人が増えて道路は渋滞し、物流が停滞する。そして、停電でモノ作りの現場が、フル稼働できなくなっている。こんな状態で、地震からの復興ができるはずがない。電力は経済や生活の基盤なのだ。

 ところが、電力供給の先行きには暗雲が立ち込めている。現在は電力需要が一番低くなる時期なので、東京電力管内の電力需要は、3000万キロワット程度だが、これから夏場にかけてエアコンの需要が出てくるので、夏のピーク時の需要は、現在の2倍程度に増える。不需要期のいまでさえ電力が足りないのだから、夏のピーク時に電力が足りなくなる可能性は非常に高いと言えるだろう。それまでにあらゆる電源供給の増加策を採ったうえで、私は最後の選択として、休止や定期点検中の原発を再稼働する必要が出てくるのではないかと考えている。ただし、その前にやらなければならないことがある。

 第一に、完全な情報公開だ。計画停電が始まった3月14日、東京電力の発表では、電力使用のピークとなる午後6~7時の需要が3400万キロワットと見込まれるのに対して、供給力は3300万キロワットにとどまり、100万キロワットの供給力不足が生じるということだった。ところがフタを開けてみたら、需要は2800万キロワットにとどまり、500万キロワットも供給余力が残っていた。もちろん、これだけ電力が余ったのは、国民が節電に協力したからだが、節電がこれだけできるのだったら、最初から計画停電などやらなければよかった。計画停電の可能性があるというだけで、電車や工場が止まり、道に車があふれるからだ。計画停電をしなくても、本当に大規模停電になりそうなくらい電力需給が逼迫したら、テレビやラジオ、ネットなどを通じて、「みなさん電気をいますぐ切って下さい」と呼びかければよい。国民は一斉にスイッチを切るだろう。それで停電は防げる。そうした仕組みを取るためにも、まず、東京電力はリアルタイムでその時の供給能力と需要を国民に知らせるべきだ。本当の危機がきているのが分かれば、多くの国民が、普段以上に節電するだろう。

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 もう一つ情報公開が求められるのは、いまの電力供給能力の根拠を示すことだ。いまの東京電力の供給能力は3000万キロワット台しかないというのだが、普段の供給能力は6000万キロワット以上あるはずだ。そうでなければ夏のピーク需要に応えられない。それが、今回の地震でストップした原子力発電所と火力発電所だけで、ピーク時需要の半分にまで供給能力が減るものなのだろうか。柏崎刈羽の原発事故のあと、東電は管内の原発を一斉に止めたが、電力不足は起きなかった。国民の不安をなくすためにも、発電所ごとの内訳を含む供給能力を示し、同時に復旧計画を踏まえた将来見通しを発表すべきだ。

 第二に、可能な限りの供給能力拡大策を採ることだ。現在、西日本から電力の融通を受けているのは100万キロワットで、これが限界だという。東西で電源の周波数が異なるため、周波数変換装置を介さないと送電ができないのだが、現状、装置の能力が100万キロワットしかないからだ。しかし、日本には世界に冠たる重電メーカーがいくつもある。本気を出せば装置の増設はできるだろう。また、火力発電所を短期で立ち上げるのはむずかしくても、風力発電所や太陽光発電所などの自然エネルギーの発電所を立ち上げることは、不可能ではないはずだ。

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 第三に節電を徹底することだ。今回の原発事故では、住宅だけでなく、駅や高速道路などの照明が消されるなど、あらゆる場所で節電が行われた。そうしたもののなかでは、いざ消してみたら、さほどの不便にはつながらなかったというものが多い。だから、そうしたものは、当分の間、節電を続ければよい。もちろん、鉄道などは元通りに戻さなくてはならない。しかし、東京電力が大口需要先として鉄道業に売っている電力は、全体の2%に過ぎない。だから、節電のために鉄道を止めるなどということはしなくてよいのだ。

 こうした対策をきちんとやったうえで、それでも、もし本当に夏場の電力が足りなくなるというのであれば、徹底的な安全確認のうえ原子力発電所を再稼働させればよいと思う。

 一部には、今回の計画停電は、原子力発電所の再稼働を働きかけるために、あえてやっているのだという説もある。それが正しいかどうかは、残念ながら詳細なデータがないので、いまのところ分からない。

 ただ、仮に原発を再稼働させるにしても、中長期的に日本の電力をどのようにまかなうのかという議論をいますぐ始めればよいと思う。幸いにして、日本の新エネルギー技術はどんどん進化していて、効率も高まっている。そうした技術を活用するなかで、原発をゆるやかに安楽死させていけばよいのではないだろうか。

 

  

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森永卓郎

もりなが たくろう:経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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