本当は石原都政の14年間を振り返ろうと思っていたのだが、そんな悠長なことを言っていられる状態ではなくなってしまった。11月16日に衆議院が解散され、解散直後に日本維新の会と太陽の党が合流して、石原氏を代表とする日本維新の会が発足したからだ。しかもその維新の会は、国民の強い支持を集めている。
毎日新聞が11月17と18日に行った世論調査によると、衆院比例代表の投票先は、自民17%、維新13%、民主12%となったが、この調査では太陽の党は維新と分けて把握されている。4%を獲得した太陽を加えると、合流後の維新を投票先とする人は17%となり、自民と並んでいるのだ。
維新の会と太陽の党の合流は、形式上は太陽の党を維新が吸収合併する形となっているが、実質は太陽側に橋下氏が大幅にすり寄っている。その象徴が、脱原発だ。維新は、もともと「2030年代までに脱原発」としていたが、太陽との合流にあたって「厳格な安全基準を作り、基準を満たすものだけを再稼働する」と大幅に立場を変えた。これでは、基準を上手に作れば、ほとんどの原発を再稼働させることさえ可能になる。維新の新しい代表となった石原慎太郎氏の意向に日本維新の会が譲歩したのだ。
なぜ、そうなったのかを理解するためには、太陽の党の本質を考えなければならない。太陽の党の母体となった「たちあがれ日本」の英文表記は、Sunrise Party だ。11月4日付けの”Asahi Weekly”には、次のような記事がある
Ishihara, who has been an irascible presence in the national conversation for decades, will reportedly co-opt members of the tiny rightwing Sunrise Party for his new venture.
英字新聞は、普通だとなかなか言えないことをさらりと書いてしまうことがあるが、これもその例の一つだ。ここに書かれているのは、「たちあがれ日本」というのは、小さな「右翼」政党だということだ。日本では右翼の人に右翼だと言うと叱られてしまうが、私は”Asahi Weekly”の言う通りだと思う。
その右翼政党が、橋下市長を説得して、なぜ原発再稼働に踏み切ったのか。これまでの世論調査では、脱原発には国民の8割が賛成している。つまり、原発再稼働は選挙に不利に働くのに、なぜ石原氏と太陽の党は、再稼働にこだわったのか。
もちろん原発再稼働で電気料金の値上げを防ぎ、国際競争力を確保するという目的はあっただろう。しかし、石原氏の目的は経済的な理由だけではないはずだ。
石原氏のこれまでの主張は、「日本が世界に対して強い発言力を確保するためには、核武装することが必要だ」というものだ。そして、「現実問題として核武装が不可能なら、少なくともやる気になればいつでも核兵器を製造できる状態にしておくことが抑止力につながる」という主張もしてきた。それを実現するためには、プルトニウムを生成し続ける原発を稼働させておかなければならないのだ。
橋下氏は、以前から石原氏を心から敬愛し、日本のリーダーにふさわしいのは石原氏だと言い続けてきた。だから、橋下氏が石原氏の思想を知らないということは考えられない。そして実は、橋下氏自身も、大阪府知事になる以前は、日本は核武装をすべきだという意見をテレビ番組で示していた。政治家になって、それを封印したのだ。
私は、橋下氏は保険をかけたのではないかと考えている。もし、自分自身が「核武装」などと発言したら、そこで政治生命を絶たれてしまうリスクが大きい。その点、石原氏なら単なる持論の披露ということで許されてしまうかもしれないから、とりあえず石原氏に原発再稼働を任せておいて、世論の出方をみる。自分自身は、風をみながら、次の総選挙で権力を握ればよいと考えたのではないだろうか。
国民のほぼすべては、日本が核武装をしてもよいとは考えていないだろう。しかし、選挙の結果次第では、石原氏が総理大臣になって、核武装にひた走るという可能性も否定できなくなってしまった。選挙で自民と公明の2党が合計で過半数を獲得できない場合は、連立を求める必要がでてくる。自民党の安倍総裁は民主党と組みたくないから、日本維新の会に打診する。その際、日本維新の会が総理のポストを要求することも十分考えられるのだ。
選挙まで1ヶ月足らず。私はいま日本の平和が戦後最大の危機にさらされているのだと思う。1人でも多くの人に、この危機を知らせないといけないと私は思っている。しかし、残念ながら、いまの私の発言力は「右翼」の人々に比べて、あまりに小さい。