三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

ヘリパッド建設やオスプレイ強行配備に反対する沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いた『標的の村』、そして美しい海を埋め立てて巨大な軍港を備えた新基地が造られようとしている辺野古での人々の戦いを描いた『戦場ぬ止み』など、ドキュメンタリー映画を通じて、沖縄の現状を伝えてきた映画監督三上智恵さん。今も現場でカメラを回し続けている三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。不定期連載でお届けします。

第59回

ヒツジの皮をかぶってやってきた防衛副大臣~宮古島ミサイル配備は戦争への導火線~

 9月2日、突然宮古島に若宮健嗣防衛副大臣がやってきた。

 その前日、防衛省の来年度予算が概算要求で過去最大の5兆1685億円になったこと、そのうち宮古島への陸上自衛隊配備にかかる費用として351億円が当てられるという、目玉が飛び出るような金額が報道されたばかりだった。351億といえば、伊良部大橋の建設総額と変わらない莫大な費用。今年度宮古島に充てられた予算108億円を一気に3倍に増やして、こんな小さな宮古島に一体どんな自衛隊施設を作ろうというのか。頭がくらくらする。

 そしてこの磐石の予算を背景に、政府は有無を言わせぬ勢いで南西諸島の要塞化を着実に前進させようと、副大臣が直接宮古島に乗り込んできた。これは予算の説明だけではなく、なにか重大発表でもあるのかと、急遽宮古島に飛んだ。

 朝10時から自衛隊配備に反対する宮古島の島民たちが市役所に集まってきた。彼らは市長と防衛省が市民不在で自衛隊配備を進めていることに危機感を募らせている。「千代田カントリークラブ」を買収する予定の候補地は、野原(のばる)と千代田という2つの集落に隣接しているが、両自治会は反対決議を挙げて市議会に計画撤回を要請している。ところが、その当事者たちの強い反対の声などなかったかのごとく、6月に突如、下地敏彦宮古島市長は「宮古島への自衛隊配備は了解、でも大福牧場の予定地は水源にかかるから認めない」という言い方で、事実上、陸上自衛隊の配備計画そのものの受け入れ表明をしてしまった形になっていた。

 受け入れ自体、歓迎する防衛省ではあるが、隊員の宿舎が中心になる「千代田カントリー」よりむしろ、ミサイル部隊の主要施設である弾薬庫や実弾演習場、着上陸訓練場など海に面した広い面積を確保できる「大福牧場」の候補地にこだわっていた。しかしここは命の水がめである地下水に影響する場所であるだけに、住民説明会では自衛隊を歓迎する市民からも「水源地だからやめて欲しい」と不満が噴出していた。それでも防衛省はかたくなに「候補地はほかに考えていない」と変更を突っぱねていたため、事態は膠着していた。

 これを受けて宮古島の人々は、大福牧場が手づまりになったら、次は東海岸の南部か、もしくは橋が掛かって便利になった伊良部島と地続きの下地島が、いよいよ本命として候補に上がってくるのではないかと、新たな候補地の提示を警戒していた。そんな矢先の副大臣訪問。しかしその内容は肩透かしを食らったようなものだった。

 副大臣は、「陸上自衛隊警戒部隊の配置につきまして、宮古島市長には受け入れを表明していただき、大変意義深いものがございます。防衛省としても感謝しております」と切り出した。「また、市議会におきまして候補地のひとつ、大福牧場への開設は認めないと発言があり、そこへの整備はしない。千代田カントリークラブを中心に整備をさせていただくことにいたしました」と、あっさり、あんなにこだわっていた大福牧場の予定地断念を伝えた。

 であれば、新たな候補地を提示してくるかと身を乗り出したが、続けて副大臣は千代田計画の配置案を初めて提示しながら、「警備部隊、地対艦誘導弾部隊、地対空誘導弾部隊の隊員のための隊庁舎、車両整備工場、倉庫、福利厚生施設、グラウンド、宿舎…」とソフトな施設を列挙し始めた。たしかに、そんなものしか書かれていない図面だ。そして「ヘリパッドですとか、地対艦誘導弾、地対空誘導弾を保管する火薬庫を整備する計画はございません」と言い切った。

 800人規模のミサイル部隊を配備するために351億円を来年度この島で使おうという防衛省が「火薬庫をおきません」「ヘリパッドも造りません」という。そんな話があるはずがない。一体何を考えているのか?

 これを受けて下地市長は「ヘリポートや弾薬庫のようなものは一切ないと説明があり、一安心です」と歓迎した。すっかり安心しきったような表情の市長は、そのあとの会見で「火薬庫を作らないというんだから、ミサイルは持ってこないでしょ?」と発言した。

 すっとぼけているのか、純真無垢なのかはわからないが、素手でやってくる自衛隊員のために351億円もかけてここに800人収容の宮古島リゾートを作るとでもいうのか? どんな猿芝居につき合わされているのか。なめられているのは市長なのか、我々報道陣なのか、沖縄県民なのか。

 若宮副大臣はそのあとの会見で、大福牧場に変わる予定地について繰り返し記者から質問されるも「検討してない」「何も決まってない」とかわし続けた。さすがに「ミサイル配備をしないのか?」という質問に対しては「それはさせていただきます」と白状しているが、「皆さんが心配しているものは、何も造る計画がありませんよ」というヒツジ作戦で通そうとした。

 「本当にヘリパッドを造らないんですか」「ないです」
 「オスプレイ配備は防衛白書に出てますけど?」「ないです!」

 地下に「指揮所」を作る計画について私が質問した時、一度はそんな予定はないといったものの、追求すると「司令部は作る」、それもこの千代田に置くということだった。手の内を明かすことになるので書き込んでいないということだった。

 まさにそういうことだ。国防に関する情報に触れるものは、敵に手の内を明かすことになる。だから公にできない。自衛隊駐屯地に何を造るのか、たとえ周辺住民が教えてと泣いて頼んだって、軍の機密を漏らすわけにはいかないのだ。今まで情報を出しすぎたくらいだ。火薬庫も司令部も地下の集積場も何もかも、前広に世の中に提示する必要など全くない。敵に知られるうえに反対運動の攻撃にあうのが関の山だ。そう高をくくったのだろう。

 この日唯一わかったことは、防衛省はヒツジ作戦に転じたということだ。こわい施設は造りませんよ、怖い物はもって来ませんよ、でも皆さんが台風や地震の災害にあったときには我々、頼もしいですよ、というヒツジの皮をかぶって宮古島に入り込むと決めたのだ。今は警戒している宮古島の人々も、いったんヒツジだと思って引き受けてさえくれれば、あとはフェンスの中でヒツジの皮を徐々に脱いでオオカミの姿を現してこようとも、特定秘密保護法がある限り尻尾をつかむことは容易ではないし、とんでもない計画が発覚したとして、その時に騒いでもときすでに遅し。島の人々の力で彼らを制御することはおよそ不可能だ。島民の運命は駐留軍隊と一蓮托生、71年前の悪夢の再現でしかない。

 馬鹿にされたもんだ。相当、舐められたものだ。防衛白書に書いてあることも島民は読んでないだろうということか。防衛大綱、中期防、防衛白書と日本政府が公に発表している資料を読めば、南西諸島に展開される島嶼防衛計画の概要は誰にでもわかる。そんなことは理解できないだろう、計画にないといえば信じるだろうと、かなりおめでたい人たちだと決め付けられたも同然だ。メディアも含めて愚弄されたと自覚したほうがいい。

 今回の予算で、20年度に沖縄本島へ03式中距離地対空ミサイルの改良型1式を配備するため177億円を計上しているが、南西諸島に配備するミサイルの飛距離を伸ばすということがどういうことを意味するのか。尖閣諸島や中国本土が射程圏内に入るものを島々に置くということが我々沖縄県民の命とどう直結するのか。そんなことを私たちは考えてみたこともないとでも思っているのか。

 先月、私たちは中国の「環球時報」の社説に戦慄した。そこには、「日本の新型地対艦ミサイルが配備される宮古島は、必ず中国の戦略的照準対象になる」とはっきり書かれていたからだ。現在、中国が私たちのいる南西諸島、そこに駐留する米軍基地に向けてミサイルを配置している事実はない。そんなことをしたらとんでもない騒ぎになるだろう。それなのに、今私たちはこの南西諸島に、あからさまに仮想敵国を中国と名指しせんばかりのミサイル配置を進めようとしているのだ。私たちは標的になどなりたくない。真っ先に攻撃対象になるリスクを断固拒否します。とんでもない。でも、日本のメディアは南西諸島が押し付けられていくこの残酷なリスクについて、沈黙している。だから防衛省は東急ハンズに売っているようなお安いヒツジのコスプレ道具をかぶってでも「バレやしない」と決め込んで、宮古島の門をくぐろうとしている。

 「環球時報」はこうも書いている。「この島(宮古島)の軍事基地は開戦時に最初に抜き取るべき『クギ』になる」と。そうなのだ。飛距離を伸ばした物騒なミサイルではあるが、そんなものは中国がこの島に何かを撃ち込む事態=開戦になったときには、陸上選手がスタートラインに立ったときにスパイクの前にたまたまころがっているような「クギ」に過ぎないのだ。今年アメリカのシンクタンクが発表したシミュレーションでは、中国が日本と開戦したら、日本列島は5日で陥落するとあった。宮古島ごときに何本クギを置いても、そんなものは防波堤にもなんにもならない。それよりも、目の前にクギを掴んでいる拳を振り上げて威嚇されたときのことを考えてほしい。そうされた側が、相手の敵意を見てどう行動するのか。そのクギを目の前にかざす行為が引き出す変化のほうが、格段に大きい。

 賢明な国民には、今本当にそのことを真剣に考えて欲しい。自衛隊は存在意義をかけて「南西諸島防衛」にまい進しようとしている。国を守りたい気持ちに偽りがあるとは言わないが、けれどもそれが本当に「抑止力だ」と呼べるものかどうか。国民一人ひとりが、わからないといわずに考えてくれないと大変なことになるのだ。

 なぜ宮古島が、石垣島が、意味もなくリスクを負い、真っ先に攻撃対象にされる恐怖と今後永遠に向き合い続けなければならないのか。攻撃される理由をわざわざ提供するようなミサイル配備は、日本の安全を守るどころか、わざわざ導火線を設置するようなものだ。開戦に直結する導火線を、我々の税金で作るというのか。沖縄関係防衛費概算要求は1780億円(26%増)。狂気の沙汰である。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

『標的の島 (仮)』(2016年完成予定・17年劇場公開予定)

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作『標的の島』(仮)の製作を本年の2016年内の完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。

◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。

※公式HPもしくは、エンドロールへの掲載を希望される方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座:00190-4-673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎銀行からの振込の場合は、
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番 :019
預金種目:当座
店名:〇一九 店(ゼロイチキユウ店)
口座番号:0673027
加入者名:沖縄記録映画製作を応援する会

◎詳しくは、こちらをご確認下さい。

 

  

※コメントは承認制です。
第59回ヒツジの皮をかぶってやってきた防衛副大臣~宮古島ミサイル配備は戦争への導火線~」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    「抑止力」という勇ましいイメージの代わりに、目の前にリアルな戦争の恐怖を再び押し付けられようとしている沖縄。高江での緊迫した状況もSNSなどで伝わってきますが(大手メディアでの報道はほとんどないですが)、沖縄での住人に対する国や警察の態度には、憤りを覚えずにはいられません。防衛費に湯水のごとく使われる金額は、もっとほかに使うべきところがあるのではないでしょうか。私たちにも主権者として、この問題を広めて声を上げていく責任があります。

  2. お園 より:

    本当にその通りです。

    しかし、真実の報道がなされていません。

    国民はメディアの情報に踊らされたり、うのみにせず、
    自ら考えなくては!!。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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