沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。
第29回
標的の島
驚愕の宮古島要塞化計画
安倍政権の暴走を憂い、各地で安保法制に反対する動きが活発化し、沖縄に住む私たちが抱えてきた危機感を共有してくれる人たちが全国的に増えている。
「辺野古の基地を止めることと、安保法制を止めて戦争する国にしないことと全く一緒ですね!」と声をかけられる。ずいぶん話がし易くなった。
何度も確認するが、建設中の辺野古の基地は、滑走路しかなかった普天間基地の「代替施設」などではない。沖縄のメディアが、政府の言う「普天間代替施設」という言葉を使わなくなり、「辺野古の新基地」と呼ぶようになった背景には、政府が明らかにしない辺野古の基地の本質について調査報道してきた積み重ねがある。核兵器や科学兵器もあったとされる辺野古弾薬庫。それに直結する二本の滑走路と、何よりも「軍港機能」を備えたかつて無い総合運用が可能な基地だ。完成すれば、強襲揚陸艦が大浦湾に入り、オスプレイを乗せ、水陸両用戦車を艦内に搭載して「ならず者国家」にむけ出撃していく戦略上の最重要拠点になるのだ。しかも辺野古の基地には陸上自衛隊も常駐する方針だ。目下陸上自衛隊は自前の海兵隊の養成に躍起になっている。日本版の海兵隊「水陸機動団」を新設し、その教育・育成はアメリカ海兵隊が担当している。軍事訓練上の日米の一体化はこの10年で格段に進んでいる。日米、日米韓、様々な合同訓練はそのたびに沖縄ではニュースになるが、本土の人はあまり聴いたことがないという。20年ここで報道してきた経験からすれば、このままでは自衛隊は、同盟ではなくアメリカ軍の下部組織になるのではないかと心配になる。
怖いのは、この一連の変化はアジアの周辺諸国にどう映るだろうかという点だ。日本人は「中国の軍事費が跳ね上がった。襲われるのではないか」と、こればっかり危惧しているようだが、自国の防衛費も年々膨れあがり、過去最高の5兆円に迫る勢いで伸びていることをご存じだろうか(平成25年度予算4兆9801億円)。そして今、初めての日米両方の軍隊が出撃拠点にする軍港を、これまた初めて日本のお金で沖縄に造っているのだ。今まで沖縄にあった基地は、敗戦後アメリカ軍が無理矢理造ったという言い訳も成り立つ。でも、今回は日本の意志で、日本の予算で、弾薬庫と軍港と滑走路が一体になった軍事拠点の建設に過去最高額の軍事費を背景に乗り出しているのだ。これは周辺国からすれば立派な挑発になるのではないのか。
しかし日本国民はこの現実をあまり直視しようとしていない。政府が誤魔化している通り「あれは都会よりも海の上が安全だから移すのだ」「沖縄の負担軽減のために移設には税金を使っても仕方ない」という論理に寄り添っていたいようだ。そのほうが怖い想像をしないで済むし、楽なのだろう。それでも、今我が国の自衛隊が何を購入し、どんな展開を考えているのか、それが私たちの暮らしを守るものなのか、あるいは国内の誰かの命を防波堤にする危険な計画なのか、知って考える責任が私たちにはある。
まずは自衛隊内の海兵隊的な機能に関するものから見てみる。来年、陸上自衛隊は水陸両用車AAV7を52両も購入する予定だ。アメリカ海兵隊の水陸両用車と共に敵陣への着上陸を目指すものだ。そして今普天間基地には24機のオスプレイが配備されているが、これに負けじと自衛隊は17機購入する。しかも1機あたり米軍より5~7倍高い値段で買うと言うのに、それを追及しない国民もどうかしていると思う。そのオスプレイは高温の排気を真下に向けて排出するので、従来の母艦では甲板が溶けてしまう。そのため米軍の強襲揚陸艦ボノムリシャールはオスプレイ用に特殊な鉄板にリニューアルして佐世保港に配備された。案の定、大浦湾の軍港はちょうどボノムリシャールが着岸できる長さを持っている。しかしこの軍港を使うのはボノムリシャールだけではない。自衛隊最大の護衛艦「いずも」「ひゅうが」「おおすみ」はオスプレイを搭載できるように大幅に改造して高温に耐える全通甲板の母艦となる。その改装費用も計上されている。
次期戦闘機F-35Aの取得には4機で693億円かかるという。42機購入予定だから7200億を超える。航空自衛隊の戦闘機による衛星誘導爆弾JDAMや、AGM158といった空から地上を狙うミサイルが導入されるのだが、これは外国に撃ち込むのではなく、日本の離島が他国軍に占拠された場合を想定したお買い物だという。
ここまで武装強化を進める日本を、諸外国は脅威に思うのではないか。「空対地ミサイルは自国にしか使いません」という言説が信じられるだろうか? しかし、その問題は今回は脇に置いて、今回は沖縄県民としての危惧に話を進めていきたい。
それでは、空対地ミサイルの国内使用とはどういうことなのか。それは南西諸島が敵軍に占拠されたときに空から撃ち込む想定以外には、使用するケースは考えられない。
2年前、離島が占拠され、それを奪還するという想定でミサイル基地や自衛隊の部隊を宮古と八重山にも配備するという計画を聴いたときには、まさかそんな沖縄戦の再来をあえて招聘するような計画を世の中が許すはずはないと思った。計画だけで終わって欲しいと願った。ところが今年5月、宮古島を訪れた佐藤防衛副大臣があっさりと配備計画を伝えた。それでも宮古島の人々はあまりのことでピンと来なかったし、地元の議会も災害時の安全などを理由に誘致に傾いた。これが完全なる「宮古島要塞化計画」であり、島の運命を大きく変えてしまう恐ろしい計画だということに、多くの人がまだ気付いていない。
800人規模の陸上自衛隊の部隊が入ってくるというのに、地元ではまだ防衛省の正式な住民説明会は開かれていない。ところが「自衛隊協力隊」という民間団体が野原、千代田、宮国、上野など9つの区長に話をしたとし、宮古島の市長は「説明は済んでいる」として島民に概略を説明したり、議論したりする機会を与えようとはしない。地元の議員たちが少ない資料を基に作図した配置図を元に、私も現場を回ってみた。主な建設場所は牧場の他、手つかずの自然が残っている島の東海岸一帯と、島中央部の借金を抱えたゴルフ場である。いずれも、防衛費で高く買って欲しい地権者側の事情が垣間見える訳ありの土地である。しかしそんな地元の利権につけ込む常套手段をここで云々する気はない。一体何が造られようとしているのか。その実態を知った上で、土地代や振興策などと天秤にかけていいものなのかどうかをまず判断してもらいたい。
まずは地対艦ミサイル、地対空ミサイルが置かれる。弾薬庫と、実弾射撃訓練場が併設される。沖縄本島でも実弾射撃訓練場は騒音と流れ弾の問題が頻発しているだけに最も住民の抵抗が激しい。現場に立ってみてその平坦さに驚く。山に向かって撃つ場所も見当たらない。流弾は避けられないのではないか。そしてホバークラフトや水陸両用戦車が海から乗り上げる訓練をする着上陸訓練場。映像でご覧戴きたいのだが、高野漁港と真謝漁港のあたりの砂浜は観光客も来ない、ウミガメの産卵も見られる天然のビーチ。そこでキャンプシュワブのような何十台もの水陸戦車が行き来するのかと思うとめまいがする。
最も衝撃を受けたのは、「指揮所」を地下に造るという計画だ。それは、南西諸島防衛の司令部として奄美から八重山まで配置した自衛隊の指揮を執る本部の機能を持ち、宮古島の地下に置かれるというのだ。
つまり、例えば中国の船団が台湾を囲むような事態になって南西諸島近くを航行したいと思えば、自分たちを攻撃する地対艦ミサイルの基地がある島をまず攻撃するだろう。その後、ミサイル部隊を殲滅するために上陸する。そして占拠されたら自衛隊は空から空対地ミサイルを撃ち込み、水陸両用戦車で逆上陸を試みる。司令部は、地下に置かなければならないのはそういう想定だからだ。さて、その中で宮古島の住民はどこにいたら生きていられるのですか?
「でも、中国が攻めてくるならどこかで止めなければならないし、申し訳ないけどやむを得ないのではないか」と考える方々に、念を押しておきたい。上記の状況は決して中国が日本に宣戦布告もなにもしていない段階で起きるということなのだ。
以前にもここで書いたが、米国の戦略・予算評価センター(CSBA)が2010 年に構想を発表した「エア・シー・バトル」構想、これは対ソビエト時代の「エア・ランド・バトル構想」が空から見た陸上領域の戦闘に焦点を当てていたのに対し「エア・シー・バトル構想」は5つの領域(空、陸、海、宇宙、サイバー空間)で優位を創出する統合作戦を指す。その構想の中で自衛隊はアメリカ軍と共に「第1列島線」―日本から台湾・フィリピンに至る概念上の海域から中国軍を出さずにコントロールするという考えなのだ。
米国としては、中国とは今のところ友好にお互いの経済発展を支え合う関係性にあって、核兵器を含む全面戦争に至る何歩も前の段階で軍事的な衝突を収めたいと思っている。つまり、西太平洋地域の安全のためには大規模な通常戦争に至る以前の「中間的戦略」という概念が必要で、その提案として「オフショア・コントロール構想」や「海上制限戦争戦略」を提示している。どういうことかというと、たとえ中国が軍事的な動きを見せたとしても、「第1 列島線の内側での潜水艦攻撃や機雷敷設を通じて中国の海上交通を遮断して、それらの島嶼を防衛し、その領域の外側の空域及び海域を支配する」という計画だ。つまり台湾有事であっても中国が軍事的に動けば、大規模な通常戦争の脅威を回避するために中間ステップとしての「海上制限戦争」に入るという構えなのだ。
局地的な紛争に押さえ込み、国際協力で早期に火消しを計る。これは犠牲を極力排除できるし、悪いアイディアではない。米国本国にいたらそう思うかも知れない。しかし局地的な制限戦争の舞台にされた方はたまらない。米中の軍事衝突の力試しの土俵として、自分の島を提供していいと誰が言ったのか。そこは当のアメリカも危惧している。この作戦を遂行するには「同盟国に自国の国土から中国に対する攻撃を許可することを要求することになる。そこに困難がある」と分析している論文がある。その不安こそ、まさに「集団的自衛権」を確約させることでクリアできる。安倍総理は米国国民の前でそれを約束してくれた、アメリカにとって実に頼もしいリーダーなのだ。
しかも、繰り返すがこの制限戦争に入るに当たって、中国が日本に宣戦布告はしていない段階でことは始まっていく公算が高い。アメリカが「ならず者国家が危険な動きをした。危険が迫っている。宮古島のミサイルを撃て」と言えば、集団的自衛権で自衛隊が撃つという始まりを迎えてしまう。それは相手にとっては日米両軍からの宣戦布告と同義語だ。
「アメリカが西太平洋地域の安全のために、第1列島線の内部の制限戦争を想定して訓練をする」。安保条約を維持する日本は今のところそれに協力する以外にない。しかしそれは少なくとも我々沖縄県民の安全とは真逆の方向である。我々の命と生活を守るのなら、アメリカの安全戦略に付き合っていたらこっちが危ないのだ。日本全体も、今まさに考える岐路にある。自分たちの安全を守ることとアメリカの安全を守ることの整合性がとれなくなった場合に、一体どちらを選ぶのですか?
我々は既にアメリカと命運を共にする泥舟に乗っているも同然だ。こんな大事なことをちゃんと考えてくれる政府を作り、沈まない船に乗り換えるために、日本に住む大人たちは今相当頑張らないといけない。
「えっ、ここまで大掛かりな計画なの!?」と驚きましたが、さらに驚いたのは、映像のなかで高齢の女性が「ここに自衛隊が来るの?」ときょとんしていた様子です。自分たちの暮らしのすぐ横で実弾射撃訓練が行われる、フェンスの向こうで何が行われているのか知ることができない、そして有事の際には「真っ先に犠牲になる」――そうしたことがちゃんと知らされないまま計画が進められていることに、何より憤りを感じます。政府や地権者よりも、そこで暮らす住民の理解を求め、意向が尊重されるべきではないでしょうか。沖縄だけでなく、日本各地にもきちんと知らせて議論すべきです。安保法制だけではなく、辺野古だけではなく、原発だけでなく、私たちは国の政策決定のプロセスそのものを変えていかないといけないのだと思いました。
三上知恵映画監督さん
標的の島・驚愕の宮古島要塞化計画レポート、慄然とし、暗澹たるものがあります。
まず奄美・沖縄・宮古島・石垣島・与那国島からはじまる日米軍事要塞化は、最終的には日本列島の軍事大国化に到る日米合作の国家戦略なのですね。またしても沖縄捨て石。今回は日本単独ではなく日米の政官軍産複合体がたくらむ構図。国家的債務1000兆円の世界一の借金官僚王国、ニッポンが軍事大国に走りはじめる。この先にあるのは、軍事優先、国家財政破綻、年金のさらなる縮減、社会保障の切り捨て、そして大増税となります。多くの人びとが困窮し、戦争敵を求め、戦場に追いやられる。日米集団戦争商売人たちにヤマト国も沖縄も壊されていく、実感しました。
ここはなんとかレジスタンスの輪を大きくしなくてはなりません。極右自民党を政権から引きずり下ろす。創価学会公明党を改心させる。次世代・維新残党・民主党右派を落選させる。非戦平和を希求する政治潮流を整える。米国内の平和勢力とリベラルと連帯構築をしていく。戦いの見本は辺野古にあることを我々は知っています。レポートありがとうございます。
79歳の大学生で法学部法律学科で学んでいます。これまで沖縄の各種選挙の支援にいきました。沖縄の皆さんの基地ある故の苦しみにも負けず日米政府に対する闘いに心から敬意と連帯の挨拶をおくります。私たちもともに闘います。