三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第14回

「戦場(いくさば)にとどめを刺す」~沖縄県知事選にかける思い~

 沖縄県知事選挙一色である。
 拡声器からの声が風に乗って四方から聞こえ、町中にあらゆるポスターや横断幕、チラシが貼られ、また剥がされたり、汚されたりと、いつもの散歩道の風景も目まぐるしく変化していく。



 県都那覇が誇る巨大な野球スタジアムを選挙応援イベントの参加者14000人が覆い尽くすなど、これまで考えられなかったことがおきている。保革イデオロギーを超えて沖縄のアイデンティティーで繫がる「島ぐるみ闘争」を目指す翁長雄志候補は、確かにこの島が経験したことのない新しい風を巻き起こしている。彼の行くところに熱狂があり、彼の言葉に固唾を飲んで聞き入る聴衆の横顔を見ると、今までこじ開けることができなかった新しい窓を、今度こそ県民の総力で開けられるのではないかと総毛立つような感覚にとらわれる。

 翁長候補を追う現職の仲井真候補の陣営も、応援弁士の数も多く迫力では負けていない。しかし鉢巻をしめて居並ぶ支持者の眼差しの中には、翁長候補に向けられたような希望、羨望や祈るような必死さは感じられない。彼の言葉一つひとつに集中する大衆のエネルギーも感じられない。2人の候補者が作り出す場の空気は、全然違う。

 県民との約束を破って辺野古の埋め立てを承認してしまった現知事と、辺野古の基地建設を認めない県民の悲願を達成するために生まれた、初のオール沖縄の候補。当初、この勝負は闘うまでもないと思えた。ところが、先週の地元紙の調査ではその差は10ポイント程度という予想外の結果が出た。翁長候補ならダブルスコアで勝てるはずだという初期の強気な読みは、どうやら楽観論に過ぎたようだ。

 地元紙の全面広告にあるように、基地問題を抱えていない離島地域と沖縄本島南部の市町村は保守のリーダーが多い。現職の作戦は、基地問題一点に特化している印象の翁長候補の弱点である離島、南部域を早々に固めるというもの。それが功を奏している。安全保障体制を維持する国策として国が躍起になって襲いかかっている辺野古の基地建設に対して、この17年、誰が知事になっても市長になっても変えられなかったという無力感は、確かにある。この話題自体ウンザリだという嫌悪感が無関心層に広がっていることは、「島ぐるみ闘争」と盛り上がっている側には見えにくいかも知れない。県内移設に8割が反対しながら、それが知事選の投票行動と一致しない背景を、分析し直す必要がありそうだ。

 それでも、である。今回の選挙が沖縄の歴史を塗り替えるものになるであろうことは論を待たない。

 生まれ育った生活の場が戦場(いくさば)になり、愛する人達を殺され、先祖の土地まで基地に奪われた沖縄。戦後、「本土復帰」まで植民地同然の27年間の辛酸をなめながら、ベトナムの爆撃基地として戦争の島であり続けた沖縄。日本に復帰すれば日本国憲法に守られると信じて闘ってきたものの、未だに土地は戻らず、財産権も平和的生存権も手中に収めることができない沖縄。さらにオスプレイ100機が飛ぶ計画に向けて新しい基地の建設を強行する沖縄。
 あの戦争から、ずっと「戦場」であり続け、嘆きの声止まぬ沖縄。

 「戦後70年、もう、終わりにしたい」「ずっと戦場(であることから解放されないばかりか、今は辺野古崎が防衛局と海上保安庁の船に制圧されている。まるで戦争だ」。
 あの沖縄戦から今日まで、戦場であり続けたこの島の運命を今度こそ断ち切りたい。その思いを詠んだ「琉歌(八、八、八、六)」が、ゲート前のテントに張ってある。

今年 しむ月や(くとぅし しむちちや)=今年の11月にこそ

戦場ぬとどみ(いくさばぬ とぅどぅみ)=戦場にとどめを刺して終わらせよう

沖縄ぬ思い(うちなーぬ うむい)=沖縄の思いを

世界に語ら(しけに かたら)=広く世界に知らせましょう

 「戦場にとどめを刺す」。「今度こそ終わらせる」。この歌を詠んだ有銘政夫さんは、80年近い人生のうち70年が戦場だったわけだ。そういうお年寄りの皆さんの今回の知事選にかける熱意は並大抵ではない。少なくとも、向こう4年間の知事を選ぶ選挙ではなく、自分たちが舐めた70年に及ぶ辛酸の日々を子や孫の世代に絶対に受け継がせてはならないという闘いなのだ。
 果たして、この苦しみの連鎖にとどめを刺すことができるのか。16日の投票日までギリギリの攻防が続く。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第14回 「戦場(いくさば)にとどめを刺す」~沖縄県知事選にかける思い~」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    ついに沖縄県知事選挙が告示されました。辺野古基地移設容認派も反対派もそれぞれの事情や考えがあることは、これまで三上さんのコラムで伝えてもらいました。誰もが「平和な島、沖縄」を求めています。しかし、勝敗がはっきりする「選挙」は、時に人々を二分してもしまいます。沖縄県民の最善の選択を見守りたいと思います。

  2. 田中洌 より:

    遠く、埼玉のはずれより心からご健闘を祈りたい。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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