三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第13回

置き去りにされた米軍基地のアスベスト問題に、一石を投じる魂の歌

 キャンプシュワブのゲート前で抗議行動が本格化した7月は、機動隊の数も徐々に増え、座りこみ・衝突・排除という肉弾戦も常態化していた。しかし、民間の警備会社が最前線に投入されたことや、8月14日からは海の攻防が激しくなったため、ゲート前の座りこみテントは「縮小」こそしていないものの、一定の秩序のもと、体当たりの攻防を展開している海上行動を背後から支える役割を担っていた。
 ところが、先週から再び機動隊が出動する騒ぎに逆戻りした。それは、10月29日から健康に甚大な被害を及ぼす工事を基地内で強行する計画であることが発覚したからだ。
 
 呼吸器に致命的な影響を与える飛散型のアスベスト。それが古いアメリカ軍施設では大量に使われている。今後、辺野古の基地建設に伴ってそれらを次々に解体していくことになるのだが、そのうちの飛散性の最も高いものを29日に解体することがわかった。粉塵の飛散を完全に防ぐのは不可能と言われる中で、地域や労働者の健康をどう守るのか。これまでも沖縄では「基地内のこと」として危険性を知りつつもずさんに扱われ被害を出してきた経緯がある。今回回収したアスベストを運び入れる処理場も、一部は県内と言ったり、すべて九州に運ぶと言ってみたり二転三転。どのように処理するのか、不安だから説明して欲しいと再三申し入れをしているにもかかわらず、たった一度の説明会もなく、ゲート前で回答を求めても「手続きに問題はない。予定通り進める。説明会は開催しない」の一点張りだった。
 
 反戦おばあとしてすっかり有名になった島袋文子さんは、他の辺野古区民や作家の目取真俊さんらと市民グループ「ティダの会」を結成している。先日も「アスベスト使用施設の解体は、周辺の住民に広く被害が及ぶ」として、どういう安全策を考えているのか会として防衛局に説明を求めた。 
 ところがこのころ、辺野古に事務所を置く沖縄防衛局名護支部の職員たちは、辺野古区の行政委員など地域のリーダーたちを何度も食事に誘っていた。そしてそんな彼ら数人を集めて「アスベスト処理に関する住民説明は内輪で済ませた」と回答した。なんとも人を馬鹿にした話である。質問を出したティダの会には何ら回答もせずに、地域の有力者を抱き込んで黙らせるというあからさまな手法は、他の区民への健康被害を顧みない、住民への説明責任を放棄したやり方で許されるものではない。
 
 原発事故を思わせるような防護服を着けて行うアスベスト処理。空気中に飛散したら深刻な被害が想定されるが、国はそれを知っているからこそ、容認派が多い辺野古のリーダーたちを真っ先に抱き込み、苦情や反対運動を抑え込もうとしているのだが、それでは区民も、基地建設に反対して日々集まってくる100人200人の健康だって守りきれない。
 
 なにを聞いても回答もない。安全に処理するというなら資料を見せろといっても「情報公開の手続きをして下さい」と繰り返す防衛局員に対し、我慢も限界と人々はゲート前に座り込んだ。当然、大型車も軍用車両も通行不可能になり、機動隊が久々に住民を威嚇し、ごぼう抜きで排除する事態になってしまった。この記事が掲載される29日は工事開始の日であり、もっと大きな騒ぎになるだろう。
 
 そんな緊迫したゲートではあるが、月曜日のゲート前行動の締めくくりで、神奈川県を本拠地にするミュージシャン「the yetis」(イエティー)から、歌のプレゼントがあった。今回の動画はそのくだりである。
 
 ゲート前の人々は連日体を張っている。緊張感で疲労も隠せない。しかし、土曜日には辺野古での県民の抵抗を記録した藤本幸久・影山あさ子監督のドキュメンタリー映画『圧殺の海』が沖縄の劇場で先行公開された。早速それを見てきたという参加者も多く、皆一様に「凄かった。勇気づけられた」と目を輝かせて話してくれる。そしてそのエンディングで異彩を放っているのが、今回紹介した彼女たちの歌、「丘」なのである。
 
 ボーカルの山田里美さんは、座りこみテントで一人静かに泣いていたので、私が7月に声をかけた女性だった。華奢な体で、美形で、大きな目に涙を溜めていたのが印象に残っていた。歌を歌うと話していたのにどんな曲を歌うのかを、私はすぐに確認せずに過ごしてしまったが、さすが藤本監督。早くから彼女に注目していたのだ。
 
 私も完成したばかりの『圧殺の海』を見せて頂いた。海上の闘いのリアルな表現には圧倒された。怒りが全編から溢れてくる映画だった。そして不条理、暴力、悲しみに被われたスクリーンの最後に流れてくるこの歌で、90分間に蓄積した処理できない感情がすうっと心のひだに染みこんでいくような感覚になった。歌の力はすごいものだ。
 
 ゲート前で警察が「座って歌を聴くのもだめ」だと制した場面で、あんなに線の細い里美さんが「歌います」ときっぱり言い切った。さらに警察に向かって「歌いますから座って聞いていて下さい」と堂々と言ってのけたのには驚いた。「なにもできない」と泣いていた時とは打って変わって、この場所で、市民だけでなく警察や防衛局員や米兵にも、天にも届けたい歌を手にした歌い手というのは、またさらにすごいものだと心が熱くなった。
 
 10年以上北海道から辺野古に通い続ける、執念の藤本幸久監督、海保のボートに足で抵抗しながらカメラを回し続けた影山あさ子監督、カヌー隊の一員のように海上行動隊の信頼があつい栗原良介カメラマン、この3人だからこそ紡ぎ出すことができた抵抗運動完全密着ドキュメンタリー『圧殺の海』を、今こそ全国の人に見てもらいたい。辺野古闘争4か月を90分に凝縮し、風速50メートルで体で浴びるような作品である。この時期に公開される意義も含めて、全力で敬意とエールを送りたく、エンディングの曲を私の撮影で恐縮ではあるが、この場で紹介させて下さい。


 
※この映像は、映画本編とは別に撮影・編集共に三上の家内手工業の産物なので、映像品質の面で魅力が十分伝わらなかったらごめんなさい・・・。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第13回 置き去りにされた米軍基地のアスベスト問題に、一石を投じる魂の歌」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    「静かな時限爆弾」ともいわれるアスベスト。今月初めには、大阪・泉南地域でアスベスト被害に遭った元労働者やその家族らが起こした裁判で、初めて国の責任を認める最高裁判決が出されましたが、そのアスベストの問題が辺野古にも影を落としていたこと、初めて知りました。
     そしてドキュメンタリー映画『圧殺の海』ですが、沖縄以外では11月24・25・30日、新横浜のスペースオルタで上映が決まっているとのこと(こちら参照)。お近くの方は是非!

  2. S.GISUKE より:

    11月1日、東京平和映画祭にて『海にすわる』及び三上監督の講演を拝聴しました。辺野古や高江の状況が全く報道されない。このアスベスト処理の件も報道されていない。このコラムはまさに「本土メディアが伝えない」情報の発信、大変貴重だと思います。三上監督の新作も期待しております(僅ですがカンパさせていただきました)。『圧殺の海』も見に行きたいです。同時に、自分も「本土メディアが伝えない今」を本土の人たちに知ってもらえる方法を考えたいです。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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