松本哉ののびのび大作戦

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 この連載でも何度か書いて来た「NO LIMIT 東京自治区」。9月11日から17日まで一週間かけて行われた、東アジア圏を中心とする世界のアンダーグラウンドなマヌケたちの一大集結イベントだ。何も考えずに、「やろうやろう!」と、突き進んで来たので、一時はどうなることかと思ったが、フタを開けてみれば大成功! 海外の各都市各地域からやって来たのは約180人にも上り、期間中に開催されたイベントは51イベント! 一週間で51イベントってどうやって成り立ってるんだ!!! …ってぐらい、混沌、いや、バラエティに富んでいた。内容も、続々と現れる無数の企画者によって企画されてくるので、すごい真面目に語り合うトークショーやドキュメンタリー映画上映から、完全にふざけたマヌケイベントまで色々あったし、メインのライブイベントも各国のバンドから日本国内のバンドまで、出演ミュージシャンは延べ40組。お客さんもたくさん集まり、平日ですら人が入りきらずライブハウスからあふれるほど! そして何より、各イベントが終わった後、ごく自然の流れで発生する無国籍飲み会も本当にやばかった! もう、完全に誰がどこの国の人かサッパリわからない上、みんな各地で音楽やアートをやってたり、謎の店やスペースを運営してたり、社会運動にかかわってたり、あるいはその界隈で呑んだくれてる奴だったり、各地のオルタナティブカルチャーの担い手だったりする。みんな初遭遇だったり、噂には聞いてたけど本当に会ってビックリしてたり、もう話は尽きない。ありえない交流が連日のように各所で行われていた。まあ、色々ありすぎて紹介しきれないほどなので、近いうちにこのイベントの詳細を書籍化して発表するつもり(乞うご期待!!)。

 ま、でもせっかくなのでひとつぐらい紹介してみよう。本当に久しぶりにデモを開催したので、今回はそれを。開催中に2回デモが行われたんだけど、高円寺界隈の人たちで主催したのは最終日17日の昼間に新宿で行われた「世界大バカ集結記念! 鎖国反対パレード」。今回の「NO LIMIT 東京自治区」の重要なコンセプトは、アジア圏のマヌケ達による独立自治宣言。自分たちのやり方で遊びや生活を作り出している各国のアンダーグラウンドの奴らが集結し、誰がなんと言おうと自分たちの文化圏を勝手に作っていくということ。そう、いまの世界各国のバカな政治とか、なんでも金に換算したがるくだらない価値観に愛想をつかして、こっちはこっちで国境を越えて色々勝手にやっていこうってことだ。しかし、最近は世界的に移民排斥などやたらと排他的になりがちだ。それは、テロや戦争が絶えないということもあるし、世界的に従来の資本主義が行き詰まって経済がメチャクチャになったりして守りに入ってるのも原因の一つかもしれない。しかし、そんなので国境の壁を高くしてたんじゃ、いよいよつまらないことになってくる。そんな鎖国みたいなことになって来て、すぐ近隣諸国にいる最高に面白い大バカな仲間たちとの間に壁ができたんでは一大事だ。我々金のない世界のマヌケ達に必要なことは結託することだ。
 と、いうことで開催されたのが、世界のマヌケたちの集結を記念する一大パレード、鎖国反対デモ!!! いや〜、久々にデモを開催。うーん、なんだか懐かしい。17日の当日は夜に新宿でライブイベントがあるので、デモも新宿に決定。デモコースは西新宿の柏木公園から新宿西口と南口の駅前を通り、歌舞伎町前を通って西新宿に向かうという楽しそうなコース。さあ、久々にとんでもない奴らが騒ぎまくるデモ! というか、今回一応「鎖国反対」と一応文句は言ってるものの、実際は何かに反対して怒っているというより、東アジア圏の大バカな地下文化シーンの奴らが集まったことを記念するパレードのような感じ!!!! これは大変なパレードになるに違いない!!!!!

 17日の昼過ぎにデモは出発! 例によってデモの先頭は荷台がステージとなっているトラック。アジア圏の大バカたちが開き直る時がついにきた!!!!! で、トラックの上でスタンバイしていたのが、ドイツのパンクバンドLambs(アジアでもなんでもないじゃねーか!)。早速ライブが始まり、デモ開始早々、路上は大混乱に!! ただ、役人や警察を含めて日本社会は未だに白人に弱い。と、いうことで、予想外の事態が発生した時には、普段だったら色々と文句をつけ始める警察も、暴れる白人を前にしてどうしていいかわからず、とりあえず事態を静観。おかげで、良き前例ができてデモ自体の自由度が飛躍的にアップ。非常に自由なデモになった(「白人作戦」成功)。そして、沖縄や台湾のバンドなど、次々と、ライブは続き、新宿を一周。トラックの上から群衆に向かってダイブする奴もいれば、最後に登場した高円寺のバンド「パンクロッカー労働組合」などはドサクサに紛れて警官の帽子を奪って勝手にかぶってライブを始める始末!! う〜ん、メチャクチャだ!!!
 200〜300人ほどいた参加者の中に海外から来た人がたくさん! 中国から来た人なんかは本国では自由にデモなんかほとんどできないから、「これがデモか!」と、大喜び(ちょっと特殊なデモだけど…)。一方で反原発や中台自由貿易反対などでデモ慣れしてる台湾人たちはデモ中にコンビニを見つけたらすかさず走ってビールを買って来てみんなに配ったり、完全に慣れてる感じ。さらに、それぞれの国の人が各国語でいろんなことをマイクで話したり、いよいよ混沌度は増していく! 台湾のバンドがトラックのステージ上で中国語でバカな話をし始め、それをなんだなんだと聞く沿道の中国人観光客など、面白い光景がたくさんあった。まさに世界のマヌケ文化圏の奴らが集結する記念パレードって感じ。いや〜、大成功〜!!
 そして、デモ終了後はすぐに新宿Antiknockというライブハウスにみんなで移動し、ライブ開始! 日本含め各国のミュージシャンが出演し、みんなで遊びまくりライブ終了とともに一週間続いた「NO LIMIT 東京自治区」は幕を閉じる。このライブでもデモ同様、世界各地の奴らがごちゃ混ぜになって遊びまくるので、みんなが死ぬほど仲良くなる。政治の世界では勝手に政府同士がケンカとかしがちだけど、この場ではそんな政治茶番劇は無縁のものだ。中国人がステージからダイブして、台湾人が受け止めるという美しい光景もあった(笑)。とりあえずここには国境もクソもなく、ただ自分たちが各地で作って来ている文化圏のつながりがあった。そして、トリを飾った台湾のバンド「無妄合作社」が最後の曲の時「団結した人民は、決して負けない」と、カタコトの日本語で話し「不屈の民」を演奏して大合唱になるという、すごい感動的なフィナーレだった。いやいや、奴らも選曲わかってるな〜

 ここ4〜5年、各地に渡り、交流をしたり一緒に飲んだり共同でイベントをやったり色々やって来た。自分としては実際に足を運んで友達になっていくので、どんどん世界中に本当に信頼できる仲間がたくさんできるんだけど、それを日本に帰ってから「こんな面白い人たちがいるよ!」と紹介してみんなに伝えても、いまいちピンときてくれない人が多かった。なんとか各地の地下文化交流を活発化させようと、各国の人を集めるイベントもなんども開催した。2012年には東京で「NO NUKE NO BORDER RIOT」、香港で各国のオルタナティブスペースの運営者が集まる「東アジアマヌケサミット」を開催したこともあった。しかし、どうしてもイベントが一日限りだったり、主要人物だけが集まったりで、繋がりはたくさんできて来たものの、本格的な交流っていうところまではまだ行ってなかった。ところが、今回一週間やったのがすごい良くて、毎日のように顔を合わせていると「おお、こんな面白い奴がいたのか!」とか「おまえ、そんな大バカなやつだったのか!」などと、日頃東京から出ない人たちも海外の友達を作りまくっていく。東京に集結した各国の奴ら同士も一週間以上東京に来てる連帯感からどんどん仲良くなっていく。それに海外からの人たちは一週間以上遊びまくったおかげで、日本や東京を本当に好きになってくれる。もちろん、その日本や東京といっても日本政府や東京の観光地や繁華街など表面的なものではなく、オルタナティブ文化圏、マヌケ文化圏、東京に住む大バカな仲間などを有するって意味の東京を好きになってくれているはずだ。約180人の海外組も、みんな帰るときに「帰りたくない!」と、名残惜しそうにしてたり、泣きながら帰っていく人もいたり、楽しくて最後まで遊びすぎて飛行機に乗り遅れる人までいた(180人中12人も乗り遅れた! バカすぎる!!)。
 今までは、「もし自分が何かで死んじゃったらこの交流圏、途切れたりするんじゃないか?」という危惧も少しあった。しかし今回、各国の地下文化圏同士も繋がったり、各地でスペースを運営してる人同士も繋がったり、各地の社会運動圏のこともお互い教えあったりできた。しかも知り合うだけじゃなくてみんなが飲み友達になった! すでに、台湾のバンドマン達がみんなで韓国に行こうという話が出てたり、いろんな交流がすでに始まっている。うわ〜、これはもう放っといても面白いことにしかならない予感! 誰も止めることができない無限交流のヤバいサイクルがついに回り始めた!! ついに始まってしまった!!! さあ、こうなったら拍車かけていくしかないね~。皆さんもこれを機に世界マヌケ革命の船出に一枚噛むしかない!!!!!!!
 

白人作戦

無国籍デモ

高円寺駅前は連日謎の交流会に

ドイツのバンド「Kackschlacht(意味は「ウンコ合戦」)」。
完全に小学生のネーミングセンスだ!

デモ申請の書類に記入する台湾人。
日本人と思ってひたすら日本語で話しかける新宿署の人

【スケジュール】

▼10月16日(日)17:00~

NO LIMIT 報告会&アジア大バカ結託集会

Book Society(韓国ソウル)

▼11月6日(日)16:00~

『世界マヌケ反乱の手引書〜ふざけた場所の作り方』
出版記念トークイベント

紀伊國屋書店新宿本店 8階イベントスペース
出演:松本哉(素人の乱)、柄谷行人(賢者)、井野朋也(ベルク)

世界マヌケ反乱の手引書: ふざけた場所の作り方 (単行本)

『世界マヌケ反乱の手引書~ふざけた場所の作り方』発売中です!
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※コメントは承認制です。
第95回「世界大バカ集結記念! 鎖国反対パレード」開催! ついに無限交流のサイクルが回り始めた!」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    国がどうとか、政治がどうとかは置いておいて、仲良くなった相手の住んでいる場所のことは、やっぱりなんだか好きになっちゃうのが人間ってもの。読んでいるだけでもワクワクしてくるような一大イベントを経て、「マヌケ文化圏」はますます絶好調、ここからさらに何が起こるのか、見逃すわけにはいきません。「一参加者」としてその様子を目撃していた雨宮処凛さんのコラムもあわせてお読みください。
    それにしても、みんな飛行機乗り遅れすぎ…(その後どうしたのかちょっぴり気になります)。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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