鈴木邦男の愛国問答

 2017年はまだ始まったばかりなのに、やけに騒々しい。国内もそうだが、世界中がうるさい。アメリカのトランプ大統領の派手な言動で世界中が巻き込まれ、戦々恐々だ。ヘイトスピーチも日本の比じゃない。「中国人は嫌い、朝鮮人は死ね」と言ってデモをしている日本のヘイトスピーチとは違う。トランプは実行力がある。権力がある。「アメリカ一番」の力を持っている人間だけに怖い。普通、あそこまで権力の座にのぼりつめたら、(格好だけでも)謙虚なフリをする。その方が得策だろう。そう教える人はいないのか。いたとしても、そんな意見は聞かないのだろう。新聞だって、あまり読んでいない様子だし。

 記者会見の時は、ビックリした。手を挙げている記者に向かって「お前には質問させない」「お前のところは嘘ばかり書く」と批判する。いや、これは暴言だ。自分の国のマスコミを相手に、こんなに熱くなって喧嘩している大統領なんて、アメリカ初だろう。いや、「世界初」だろう。

 日本でも、昔こんなことをした首相がいたな、と思い出した。佐藤栄作首相だ。辞める時の記者会見で、「新聞記者は全員出ていって下さい」と言った。じゃ、記者会見は成り立たない。いや、テレビ局が残ればいい。そう言うのだ。新聞はそのまま書くわけではない。自分の意見・考えを入れて書く。それが皆、批判ばかりだと首相は言う。じゃ、テレビだけにしたらいい。自分の言っていることがそのまま伝わる。

 しかし、こんな「厚遇」「えこひいき」をされて、テレビは嬉しかったのだろうか。「新聞とは違い、我々テレビは客観的であり、平等だと認識されたのだ」と思ったのか。しかし、そんな人はいなかったと思う。何かやましさを感じたのではないか。「我々テレビだけが評価され、新聞はすべて罵倒されている。これはおかしい」と思ったはずだ。だから、「そんなことはおかしい。我々も良心に従って行動しよう」と言い、会場の外に出た。カメラのみが残って、人間はいない。無人の状態で佐藤首相は喋った。

 この時は首相が辞める会見をしたのだ。もうこれで終わりだ。最後に、自分を批判していた新聞のことを批判しよう。どうせもう辞めるんだし、後のことを心配することはない。いくら批判されても平気だ、というヤケッぱちな気持ちだったのだろう。でも日本の新聞、テレビはしっかりしていた。骨がある。

 ところが、トランプはこれからの大統領だ。そんな時によくやったもんだ。「これで終わってもいい。もうどうなってもいい」という佐藤首相とは違う。これは不思議だ。じゃ、何をやっても大丈夫、国民は自分を支持してくれる、という自信があったからか。でも、支持率は歴代大統領では最低だという。又、外では反トランプのデモが過激に行われている。そんなに嫌だったら、なぜ選挙で落とさなかったのか。それも納得がいかない。日本の保守派の新聞を見ていたら、「日本も‟日本第一”でいけ!」と書いていた。くだらない。そんなことしか言えないのかと思う。今年は正月から暗い。

 一時の勢いでEU脱退を決めたイギリスも、「アメリカ第一」とうかれるトランプを選んだアメリカも、今は反省しているのだろう。しまった、もっとマトモな選択もあったのに…と。今頃、後悔しても遅い。日本もそうならないように、一人ひとりがじっくり考えなくてはダメだ。一時の勢いや気持ちのいいスローガンにだまされてはダメだ。

 

  

※コメントは承認制です。
第215回「日本第一」にだまされるな」 に4件のコメント

  1. magazine9 より:

    年始は執筆に追われていたと、先週のコラムにもありましたが、内田樹さんとの対談本『慨世の遠吠え2 呪いの時代を越えて』(鹿砦社)が、2月10日に発売予定です。また、3月には憲法についての書き下ろし本など、続々の書籍の発売予定があるそうです。あわせてご注目ください。

  2. まあそういうマイナー政党もあるけれど、今ツッコむべきは、都民ファーストなのでは?あれ怪しいでしょ!

  3. PUNKちぇべ より:

    「自分の権利を拡大するために他人の権利を脅かす」のが当たり前で、「自分の権利を守るために他人の権利も守る」のは左巻きといわれる世の中になってしまいました。衣食足りぬ状況がここまで礼節を失わせるとは…。トランプ大統領がネトサポ作ったり、電波停止をチラつかせて気に食わないキャスターを降板させたり、著名人や新聞社を金や会食で懐柔して手先にしたり、市民運動をあの手この手で弾圧したり、反政権教師の密告掲示板を作ったりし始めたら、アメリカだけでなく世界が大混乱に陥ってしまいます。そこまで狂っていないよう、願うばかりです…。

  4. 多賀恭一 より:

    オバマ「アメリカは世界の警察官ではない。」
    トランプ「アメリカ第一(世界なんかどうでも良い)」
    言うまでも無い、アメリカの覇権は終わったのだ。
    戦乱の時代が来る。
    望まないのに、日本の核武装は避けられない。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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