鈴木邦男の愛国問答

 「連合赤軍と新撰組はどこが似てるんですか?」と質問された。5月25日(日)の「飛松塾 in 姫路」の時だ。「じゃ、植垣さん、答えて下さいよ」と言った。植垣さんは元連合赤軍兵士で27年も獄中にいた人だ。「何言ってるんですか。それは鈴木さんが言ってることでしょう」と言われ、僕が説明した。でも、なぜそんな質問が出るんだろう。と思っていたら、この日の案内チラシにこう書かれていた。

 〈連合赤軍は新選組だ!

  “あさま山荘事件の真実を追求”〉

 そうか、これが今日のテーマだったのか。センセーショナルなタイトルだ。それに初めての人には何がなんだか分からない。今年、僕は『連合赤軍は新選組だ!』(彩流社)という本を出した。本の題名を、そのま「第2回飛松塾」のテーマにしたのだ。飛松五男さんは元兵庫県警の刑事だ。「たかじんのそこまで言って委員会」はじめ、テレビによく出ている。僕も「たかじん」で会って、それから一緒にイベントに出たりしている。変わった刑事だ。いや、元刑事だ。昔、敵対していた左翼や右翼に対しては、いつまでも敵意を持ってる人が多い。それなのに飛松さんはそれが全くない。人間が出来ている。心が広い。赤軍派や連合赤軍に対しても、「あの時代、命をかけてやった。それは大したもんだ」と認めている。又、その話を真剣に聞く。全国の警察官に聞かせたいという。自分が出るテレビや討論会は沢山あるが、自分の思うがままの討論会をやりたいと思い、「飛松塾in姫路」をやっている。第1回は黒田官兵衛について。去年の12月11日(水)に、地元の作家・柳谷郁子さん、そして僕、飛松さんの3人で話し合った。姫路は飛松さんの家があるし、黒田官兵衛の本拠地だ。官兵衛は、謀略・外交の天才だ。その官兵衛が今、生きてたらどうするか。アメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮に対してどんな外交をするのか。どう動くのかについて話し合った。

 そして、5月25日は2回目で、〈連合赤軍〉だ。会場に入ったら僕の『歴史に学ぶな』(dZERO)を読んでる人が3人ほどいた。「あれっ、もう出てるんだっけ?」と思った。「大阪では22日に本屋に並んでました」と言っていた。『連合赤軍は新撰組だ』という「歴史に学ぶ」本を出しておいて、今度は『歴史に学ぶな』だ。ちょっと矛盾するかもしれない。しかし、本を読み、自分の頭で考えよう。歴史小説にだまされるな。○○史観にだまされるな…ということだ。大体、〈歴史観〉はコロコロと変わる。時代が変われば「英雄」も「犯罪者」になる。歴史本や小説を読んで、それを鵜呑みにしては危ない。そんなことを書いた。それに、歴史を勉強し、「歴史に学ぶ」ことなど出来ないのではないか。そういう不満があった。それで、こんな題になった。

 格言というものは長い間に、「変質」する。あるいは、より「格言」的な言葉へと変えられてゆく。ドイツのビスマルクは、こう言った。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

 両親は自分の狭い体験から学んで、子供に「勉強しろ、勉強しろ」と言う。「私たちの時代はこうだったから…」と、自分の体験から考えて、あれこれと文句を言う。「そんな小言はいらない。大きな歴史から我々は学ぶべきだ」。これを聞いた人はそう思い、自分の都合よく解釈してきた。

 だが、ビスマルクがいつ、どのような状況の中で考えついたのか、よく分からない。「ビスマルクはこんなことを言ってない」という人もいる。又、「自分の体験」だけでなく、「他人の体験」からも学ぶべきだと言ったのだという人もいる。たぶん、こっちの方が本当のように思える。「愚者」と「賢者」、「経験」と「歴史」。その二つの対照がいいのだろう。それで格言になったと思う。

 それに昔から疑問に思っていたが、体験もしていない遠い遠い「歴史」から本当に学ぶことが出来るのか。そのことを考えていた。「あの時、信長はこうやったんだ」「あの時切り捨てたのがよかった」なんて思っても、参考になる場面はない。戦国時代の論理を今使ったら、皆、犯罪者になってしまう。この本にも書いたが、「カレ氏にしたい人物」では、織田信長、土方歳三、坂本龍馬がダントツで人気があるそうだ。でも、こんな人をカレ氏にしたら、すぐに斬り殺されてしまう。こんな形で歴史を見てはいけないだろう。それに、「体験」から学ぶのが、そんなに恥ずかしいことなのか。

 飛松塾で話をしたが、僕は「自分がやれなかった事」をした人は尊敬している。それが右翼でも左翼でも同じだ。又、そんな体験を聞いてみたい。特に連合赤軍事件やオウム真理教事件だ。あの地獄、あの極限状況の中において、何があったのか。又、どうして生還できたのか。これは何度でも聞いてみたい。又、人間は、集団は、どのようにして〈狂気〉になるのか。狂気の集団になるのか。それは、なぜ国家は戦争をするのか、といった大きなテーマにも通じることだからだ。

 植垣さんは、飛松塾で言っていた。自分たちの地獄の体験を通し、あっ、中国革命ではこんなことがあったのか、ロシア革命の一側面も分かった、と言っていた。その植垣さんの話から僕らは、中国、ロシアの革命を見ることが出来る。本を読んだだけでは分からないことを、知ることが出来る。決して「体験から学ぶ」のは愚者ではない。「歴史から学ぶ」のは、かえって危ない。今の保守化する若者たちを見たらいい。戦争も知らない、学生運動も知らない。そして、「学生運動は悪だった」「日本は正しい戦争をしたんだ」「日本はイザとなったら正義のために戦うべきだ」などと、軽く「歴史から学んでいる」。それも自分の頭で、勝手に解釈して学んでいるのだ。戦争の体験のある人が、キチンと語らなくてはならない。〈体験〉を持ってる人が勇気をもって語り、そこから〈歴史〉を語るべきだ、と思う。

 

  

※コメントは承認制です。
第151回 「歴史」より「体験」から学べ」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    一般の若者のみならず、政治家の口からも軽々しく(としか思えない…)「毅然とした態度を」「戦争も辞さず」といった言葉が出てくるようになったのは、戦争体験を持つ政治家たちが次々と現役を退いてからではないか、という指摘もあります。「歴史に学ぶ」と大上段に構える前に、私たちはちゃんと手の届く「先人の経験」に学んでいるのか? まずはそこを考えたいです。

  2. 鈴木さんは連合赤軍は良い事をしたとまではいかないまでも、「連合赤軍から学ぶべき事がある」といったことを訴えたかったから本を出したわけでしょう。戦争体験についても同じことで、そこに耳を傾ければ「戦争は悲惨だった」という都合のいい意見をいってくれる人だけじゃなく、小林よしのりさんの本に良く出て来るおっさんたちみたいに「日本軍は良い事もした」「神風特攻隊の青年は純粋に国の事を思って死んでいったんだ」「死んで行った兵士の名誉を汚すな〜!」という人も同数出てきて、水掛け論に終わるしかないと思うんですよ。戦争体験の話を聞くのが無意味とはいわないけれど、その辺の限界も認識しておくべきだと思います。

  3. ひとみ より:

    「戦争も辞さず」はまだしも「毅然とした態度を」は問題なのでしょうか?
    むしろ毅然とした態度をとらなかったから今の状況があるのでないでしょうか?

  4. くろとり より:

    なぜ、学生運動が悪でないと? 後から見れば彼ら学生運動家が求めていたことが過ちであった事は明白です。
    また、言論の自由が保障された自由主義社会において警察官をテロで殺害したり、挙句の果てに曲がりなりにも一緒に学生運動を行った仲間を内ゲバで虐殺するなどどう見ても正気の沙汰ではないのですが。そんな連合赤軍と新撰組がなぜ同じなのかどう考えても理解できません。

  5. くろとり より:

    「体験に学べ」ですが、体験だけでは学べないものもあるのではないでしょうか。
    歴史というのは過去の人の行動であり、その結果の成功と失敗です。それを研究する事で一人の人間が一生で経験できる以上の経験ができるのです。
    そういう意味で言うと歴史も先人の体験であり、経験なのです。
    歴史の学び方に問題がある場合もあるかもれませんがあくまで学び方の問題であり、歴史に学ぶことを否定することではないと思います。

  6. 多賀恭一 より:

    歴史から学ぶとは、他者の失敗から学ぶということ。
    経験からしか学べないのは、自分の失敗からしか学べないということ。
    「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とは、そう言う意味だ。
    因みに、
    歴史上の成功から学ぶのは、歴史から学んだとは言わない。
    成功のほとんどは、運が良かったという面が大きすぎるからだ。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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