この人に聞きたい

2008年から現在にいたるまで、不況の嵐が吹き荒れた日本経済と社会。経済人としての経験も長い辻井さんは、この事態をどのように見ていたでしょうか? そして未来はどうなるのでしょうか?

つじい・たかし)
詩人・作家。本名は堤清二。1927年生まれ。元セゾングループ代表。1955年に詩集『不確かな朝』を刊行、以来数多くの作品を発表。これまでに室生犀星詩人賞、高見順賞、読売文学賞詩歌俳句賞、平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞などを受賞。憲法再生フォーラム代表、マスコミ九条の会呼びかけ人。近著に詩集『自伝詩のためのエスキース』(第27回現代詩人賞受賞)、小説『遠い花火』、随筆評論集『新祖国論』、講演録集『憲法に生かす思想の言葉』などがある。
なぜ「第三極」は生まれないのか

編集部
 前回、辻井さんは「自民と民主の二大政党制というのは架空の議論にすぎなかった、なぜなら二つの政党は結局は同根だからだ」とおっしゃっていました。
 では、その「同根」ではない政党、第三極はなぜ生まれてこないのでしょうか。たしかに社民党や共産党といった政党はありますが…。

辻井
 国会に議員が5人とか8人とか、数字でいえば勢力としては問題にならないんですよね。共産党なんか、言っていることを聞けば一番まともだと思うんだけど、何でまともなことを言っている政党の議席数がそんなに少ないのか、と思います。
 やっぱり大きいのは、小選挙区制の問題ですよね。私はあの導入のとき、一所懸命反対したんです。今小選挙区制をとったら、下手な独裁者が出てきて、また危険な道に入る。しかも、アメリカに従属した独裁国家なんて、日本人にとってきわめて悲劇であり喜劇でもある、と。

編集部
 でも、あのときはほとんどどの政党からも、大きな反対の声は上がりませんでしたね。たとえば共産党も、当時の社会党との駆け引きみたいなところがあったのか、比例代表制との並立だからそっちのほうで得票できるという読みがあったのか、はっきりした反対の姿勢は示さなかったと記憶しています。(*読者からの指摘があり事実関係を調べたところ、共産党は小選挙区制には、一貫して反対を表明していました。事実関係を間違えたことをお詫びします。)

辻井
 そうだとしたら、それは自分の党利を考えて国の将来を考えていないということですよね。
 そういえば私のところにも、毎年8月が近づくと、原水禁と原水協の両方から集会の案内状が来るんです。

編集部
 両方ですか。

辻井
 両方来ますね。原水協が共産党系、原水禁が社民党系でしょう。「今どき何を考えてるんだ、こんな核問題なんていう、誰にでもわかりやすいところで一本化できなくて、統一戦線もへったくれもないだろう」と思うんですが。それぞれに「一本化はできないのか」という話をしても「おっしゃることはわかります、でもいろいろいきさつがあって」という返事しか返ってこない。
 たとえば日本が中国大陸に侵略したときには、中国共産党と国民党は国共合作したじゃないか、と言うんですけどね。今もう日本が駄目になる時なのに、何を考えているんだ、と思います。両方とも、レベルが低すぎる。

編集部
 そこがどうしても手を結べない、というのはありますね。それが実現しなければ、第三極というのはなかなか難しいだろうな、と思います。

辻井
 ただ、僕はあんまりがっかりもしていないんですよ。というのは、今回の世界恐慌で、みんな経済的に、追いつめられるところまで追いつめられてしまいます。生活の問題としてなんとかしなきゃならないことが山積みになっている。そうすると、ごちゃごちゃ言って仲間割れしていること自体が大衆から非難される、そういう状況が出てきていると思います。
 昨年も、『蟹工船』が60万部売れたとか、共産党の党員が2万人近く増えたとかいう話がありました。あれは僕はいいニュースだと思ってるんですよ。なぜかといったら、増えた2万人はおそらくマルクスの『資本論』もレーニンの『国家と革命』も読んでない。だけど、共産党の言ってることは正しいと思うから入った。そういう人が体質を変える力になるといいと思うんです。

編集部
 昨年の暮れには「派遣村」が注目を集めましたが、あれを組織した人たちというのも、従来の「運動」のイメージとはだいぶ違うんですよね。湯浅誠さんとか雨宮処凛さんとか、そういう人たちがリーダーになって、辻井さんのおっしゃる「日本生まれの新しい革命思想」を少しずつ作っていくのかな、という気がしますね。

辻井
 あれは新しい“革新”の在り方を示唆する動きだったと思います。世の中に、エネルギーがなくなってしまったのではないことを示していました。

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辻井喬さんに聞いた(その2)世界多極化の時代に、
日本があるべき姿とは?
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    世界恐慌の末に、世界は多極化の時代に入り、
    日本は、どの国とも仲良くできる中規模の通商国家、交易国家として残るといい。
    しかしそうなるための条件が9条の保持だという、辻井さんの言葉には、大きな希望が持てます。

    これまでのアメリカべったりの政治や外交とは決別し、
    新しい日本の在り方を世界に示すためにも、一国平和主義に陥らないためにも、
    今こそ憲法と9条の理念をきちんと世界にアピールしていく時ではないでしょうか? 
    辻井さん、ありがとうございました。

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