「日本生まれの革命思想」を育てよう
編集部
ひるがえって、日本はどうでしょうか。
辻井
ひどいですね。まずメディアがひどい。小沢の事件のあと、私は新聞を気をつけて見ていたんですけど、「二大政党論は間違いだった」という反省の弁はどこからも出てこなかったですね。
それから、「軍備を持って独立しなきゃならん、軍備を持たずに今の状態がいいなんていうのは自虐史観だ」なんて言ってる人もいる。でも、そういう人に「憲法を変えて、じゃあアメリカと対決する気はあるの?」と聞いたら、誰もそんな気はないんですよ。
そういう点において、私は日本は明治以後、二重三重の原因で堕落したと思っています。
編集部
とおっしゃいますと?
辻井
ひとつは、権力を中央に集中して憲法をつくり、外国に対してはいかにも民主的な開かれた法治国家のように体裁をつくろいながら、明治憲法下では、保安条例、新聞条例などの条例をつくって、むしろ憲法の制定前よりひどい人権状況をつくり上げていったこと。それでいて、対外的には「我々は立憲国家である」と嘘をついたわけですね。
もう一つの大きな間違いは、「日本には思想なんてものはなかった」という考えがまかり通ったこと。思想はドイツでもギリシャでも、西欧からもらってこなきゃいけないものだとされ、日本の中で生まれてくる民主主義や革命の思想は、「くだらないもの」として切り捨てられた。ですから芸術文化の状況は明治維新以後、江戸時代よりはるかに落ちて、悪くなっています。
そうした流れによって、日本の政治家には、自分が言っていることと生活感覚が離れていても平気で、何も問題に思わない人が増えてしまった。これは思想に対する冒涜ですよ。
残念だけれど、それを平気でやっているのは、特に革新系の人に多いかもしれないですね。私はよく、革新政党の影響力が強い「9条の会」に行ったときなんかに、「日本の政治度をだめにしている一つの要因は革新系にある」という話をすることにしているんですが(笑)。
編集部
具体的には、どういうことですか?
辻井
たとえば、大学でジェンダーについての講義をした偉い先生が、うちへ帰ると奥さんに「おーい、お茶」とか。あるいは、僕が共産党にいたときの体験でも、「共産党こそ個人の自由をきちっと守るはずだ」と思っていたら、徳田球一の(注1)「家父長制」があったりね。それで、これはおかしいということで、除名されちゃったんですけれども(笑)。
だから、私たちは今、そろそろ日本生まれの革命思想を、一生懸命大きくしていく努力をしなくちゃいけないんだと思います。安藤昌益(注2)とか、思想を持った人は日本にもちゃんといたんですから。
注1 徳田球一(1894〜1953) 沖縄出身の政治家。日本共産党の結成に参加し、治安維持法違反で逮捕されて戦前・戦中の18年を獄中で過ごした。戦後は日本共産党初代書記長となり、衆議院議員を務める。その死後、「徳田天皇」と揶揄されるような「家父長的」支配体制が批判を受けた。
注2 安藤昌益(1703〜1762) 江戸時代の医、思想家。著書『自然真営道』などを通じて、あらゆる階級性を否定し、すべての人が農業を基本とした労働に携わる、徹底した平等社会の構築を主張した。
編集部
安藤昌益の、「自然真営道」とか…。
辻井
自然真営道は、たしかに原始共産主義的な性格を持っていますが、そうするとすぐに「あれはトロツキストだ」なんて言われ方をする。そんな外国製のレッテルを張る前に、もうちょっとプラスの面を探してみるべきなんじゃないかと思いますね。
その2へつづきます
「大衆の自立」というテーマは、「自立して買い物をする大衆」を促し、
またライフスタイルにまで影響を与えた、
西武百貨店やパルコの一連の広告を思い出します。
次回は、マスコミ9条の会の呼びかけ人を務める辻井さんに、
9条への思いなどをお聞きしていきます。