政治を動かすのは世論。
そこにどう働きかけるか
編集部
政府の中枢で、貧困問題が議論されるようになった。それは、中枢にいる人たちが「今までのやり方じゃもう社会がもたない」ということに気付き始めたということですか。
湯浅
というよりは、彼らが「次の選挙で勝って政権を維持するためには、こういうことをやらなきゃいけない」と思い始めたということです。本当に「変えなくては」と思っているかどうかは、実はどうでもいい。今までのやり方と違って見せないといけない、そういうことを言わなきゃいけないというふうに彼らが世論を読んだ、そのことが重要なわけです。
だから、今政治の変化という話をしましたけど、それは一つの象徴に過ぎないんですよ。政治家というのは「選挙で落ちたらただの人」なので、世論の動向にすごく敏感ですよね。特に、自民党は世論の雰囲気を非常に敏感に感じ取るところですから、彼らが動いたというのは、世論にそういう雰囲気があったということ。この間、北九州市での餓死事件とか、グッドウィルのデータ装備費問題とか、派遣村とか、いろんなことがある中で、雨宮処凛さんとか、私も含めてたくさんの人たちが声をあげながら、自己責任論との「綱引き」をしてきた。その象徴的かつわかりやすい結果が、たとえば経済財政諮問会議の変化に表れているということなんです。
政治家たちを変える、変わってもらうというのは、目的ではなくてあくまでも結果。大事なのは社会的な世論形成だと思うんです。
編集部
まずは世論が先にあって、政治はそのあとからついてくるものだと。
湯浅
そういう感覚ですね。もちろん、政治と世論、相互のフィードバックはありますから一概には言えませんが、私は最終的に大事なのは世論だと思っています。世論が自己責任論的でなくなれば、どこの政党が政権を取っても政策は自己責任論的じゃなくなるだろう、という考え方ですね。
逆に、世論が自己責任論的だったら、たとえば民主党政権になっても何も変わらないでしょう。その視点に立って、世論に働きかけるのが社会運動というものだと思います。もちろん政治家に直接働きかけることもありますけど、私の言っていることは自分1人の意見じゃないという、その「バック」をどのくらい持てるかで、相手に話を聞かせられるかどうかが決まってしまうということもある。その意味でも、やっぱり世論は大事なんだと思います。
編集部
ただ、「世論」というのは、ときに流されたり、扇動されたりしやすいものだという一面もあるのでは?
湯浅
もちろん私も、世論をある固定的なものだとは考えていないし、常に健全なものだとも思いません。でも、だからこそ繰り返し繰り返し働きかけていくしかないんだと思います。
たとえば、先日大学で講義をしたときに、「ワーキングプアという言葉を知っていますか」と学生に聞いてみたら、ほとんど知らない人はいませんでした。でも、5年前に聞いたら知らない人のほうが圧倒的多数だったと思います。そんなふうに、貧困問題にしてもここ数年での浸透度合いというのはびっくりするものがあります。そういうことを考えても、やっぱりずっと言い続けて、説得してというのは大事なんだと思うんですよね。
繰り返し働きかけて、世論を変えることで政治を変える。
それは、どんな分野の「運動」においても必要な視点といえそうです。
次回、9条や平和を守るための「運動」について、
湯浅さんが思うこと、感じていることをさらにお聞きしていきます。