まずは「身近なところ」からの取り組みを
編集部
さて、現在の民主党政権の政策についても、最後に少し伺いたいと思います。森さんは群馬県・八ッ場ダムの建設中止問題などにもかかわられていましたが、民主党は政権交代が実現した2009年衆院選挙のキャッチフレーズだった「コンクリートから人へ」を、今回の参院選のマニフェストからも外してしまいましたね。
森
あれは外すべきではなかった、と思いますね。せっかくいいフレーズなのに。地方の建設業も体質が変わらなくてはいけません。その他にも、現金での子ども手当より保育所、育成室などの整備の方が大事だと思うし、納得のいかない政策はいくつもあります。でも、 「天下りをなくす」は徹底的にやってほしい。ここで民主党を見捨ててまた自民党政権に戻ってはほしくない。あれは男権的、世襲的、権威的、強者追随の政治でしたから。あきれつつもなんとか(民主党政権を)支えよう、という感じでしょうか。
編集部
鳩山前首相退陣の大きな原因の一つになった、沖縄・普天間基地の「移転」問題についてはいかがですか。
森
鳩山さんがはじめて沖縄の痛みに寄り添おうとした、その言葉は重いです。私は基地は全部なくして、アメリカには出て行ってもらいたい、と素直に思っています。「核の傘」とかいうけど、抑止力なんてないでしょう。安保を離脱すれば、9条で戦争はしないと言っている、それどころか二度も原爆を落とされてる、無防備な国に突然どこかが核攻撃してくるなんてこと、現実的にはあり得ないと思いますよ。そんなことした国は国際的に孤立するだろうし。そもそも日本にいる米軍は、日本人を守るために日本にいるわけじゃないですからね。
編集部
ただ、この問題をめぐる一連の流れを見ていると、米軍基地を日本に置いておきたい、あるいは核の傘に日本を入れておかないと困るという人が、アメリカではなくて日本の中にもたくさんいるんだなと感じずにいられませんでした。
森
メディアもひどすぎますね。編集委員クラスの人が「こんなことをしてたら日本はアメリカに信用されなくなる」と脅すとか、CIAの手先みたいなことを書いてたり。アメリカのえらい人に友達がいるっていうのを自慢にしてるみたいだった。だからやっぱり、オルタナティブジャーナリズムが必要なんだと思います。アメリカでは新聞がどんどんつぶれて、優れたジャーナリストが市民メディアを作りはじめていますし、ビルマではビデオジャーナリストたちが命がけで映像を撮影して軍事政権を告発している。前回お話しした私たち「映像ドキュメント」でも、普天間のことをずっと追いかけてはいるんですけど…。
ただ、その一方で、実はそういう「大きな問題」だけをやっていて、体面上呼びかけ人になるけど何もしない学者とかを、私は信用していないんですよね。
編集部
というと?
森
もちろん、そうした規模の大きい問題に声をあげることも必要です。でも、まずは自分の身近なところから変えていくことが重要なんじゃないか。自分の周りにも悩んでいる、苦しんでいる人はたくさんいます。
政治問題でなくとも、例えばこの四半世紀、環境を悪化させる開発には反対しよう、子どもたちを共同して地域で育てあおう、時代を経た建物を守ろう、活用しよう、という動きはずいぶん広がった。私たちもそうした動きに関わってきましたが、それが結果的に、エコロジーの問題などについてもプラスに働いたわけでしょう。
それと同じように、例えば普天間の問題についてデモをやるとか声明を出したりとかするだけじゃなくて−−もちろんそれも必要なんだけど、同時に自分の町の身近な問題に取り組むことも重要なんじゃないか。それに、すぐ全国組織を作ってトップになりたがる人もいますが、全国組織の維持にエネルギーを取られて地域がおろそかになることも多いです。地域の活動が結果的には、国際的、あるいは全国政治の問題を考えるネットワークになる。そういう形の運動がなかったら、なかなか「普通」の人たちのところまでメッセージは届かないんじゃないか。そう思っているんです。
「自分に身近な問題」に、粘り強く、
丁寧に取り組んできた森さんならではの視点。
直接にはつながらないように思えても、
まずは身近なところを変えていこうとする力が、
結果的には「大きな問題」をも動かしていくのでしょう。
森さん、ありがとうございました!