憲法はまだ、沖縄では
きちんと適用さえされていない
編集部
その沖縄からは「日本国憲法なんて、これまで我々には関係なかったし、これからだって米軍基地が押し付けられている限り関係ないだろう」という声が挙がっています。やっぱり、沖縄から見える日本国憲法の姿って、我々本土の人間が認識するものとは違って見えますか?
三上
そりゃあねえ…(苦笑)。27年間のアメリカ統治時代の苦しみは、日本国憲法さえあれば全部終わるんだ、というイメージで、沖縄の人たちはずっと片思いしてきたわけですからね。
「憲法手帳」というのがあって、保革を問わず、沖縄の議員さんたちはいつも胸ポケットにその手帳を入れている、という話がありました。それほど、沖縄の人たちは焼け付くように日本国憲法の下への復帰を望んでいたということなんです。
でも、片思いのままにもう40年も過ぎてしまいました。憲法で保障されていることが、日本国内でさえきちんと行われていないという実態はあったかもしれませんが、でも沖縄では、教育の自由さえなかったわけですからね。日本の歴史を教えていいのかどうかさえ、アメリカの顔色を伺ってでなければ判断できなかった。教育基本法さえなかったんです。
思想信条の自由、表現の自由、教育の自由、何もなかったんですよ。日本に復帰した今、その自由を手に入れたかと言われれば、やっぱり実感はない。
日本人は憲法の下で、基本的人権は国家によって保障されるし、武器は持たないと言っている。しかし、沖縄は武器だらけです。戦争に巻き込まれた状態のままで、教育も平和的生存権も人格権も、そして何より財産権も保障なんかされていない。沖縄県民の財産権は、今も米軍基地というもので蹂躙されている。
『標的の村』も、最初の30分番組のときには、これが大きなテーマでした。もともとの自分たちの土地に入ったら、米兵に銃で追いかけ回されて、日本へ復帰したら「日本国の法律によって罰せられる」という看板で土地から追い出されたという状態は、今も続いています。
しかも、少女暴行事件のあとの97年には、軍用地特措法が改定されて、どんなに首長が反対したって「あんたの土地が必要だよ」と日本政府に言われたら取り上げられてしまう。だから、財産権なんて、いまだかつて沖縄では保障されたことなんかないんですからね。
(C)琉球朝日放送
編集部
それは、日本政府に対してだけではなく、「内地」で普通に暮らす一般の日本人に対しても鋭い批判になっています。
三上
何も日本人総体を批判するつもりはないんです。
でもね、日本国憲法で権利が保障されていない復帰前の沖縄から見ると、保障されている日本国の人はほんとうに羨ましかっただろうし、憧れという簡単な言葉ではなく、のどから手が出るほど日本国憲法がほしかったんです。ところが、日本国憲法がある日本国へ復帰すれば、その憲法によって沖縄県民の生活も一変するだろうと思っていたにもかかわらず、まったく何も変わらなかった。そのことへの恨み、というより哀しみは強いですね。
しかも、今度の参院選で、憲法を変えようという勢力が大勝してしまった。沖縄では今も、憲法を沖縄できちんと機能させよう、という運動を頑張ってやっているというのに、その憲法が沖縄できちんと適用される前に、「もう憲法が変えられちゃうんだってよ」と、沖縄の人たちは自嘲気味に、でも普通に言っていますよ。
編集部
適用されなかったからこそ、その意味がよく分かる。もらえなかったからこそ、その価値が見える。日本国憲法とは、沖縄にとってそんなものだったのかもしれませんね。日本国民に、憲法はきちんと機能しているかといえば、最近はことに怪しくなってきてもいますが。
三上
そういう意味では「日本国憲法を変えてしまうというのなら、まずその前に一度、沖縄でその憲法をきちんと施行してみてからにしてください」と、私は言いたいですね。
編集部
この映画もつきつめれば、「日本国憲法の保障がない沖縄」という現実を照射した作品といえるかもしれませんね。
ただ、そんな言葉の軽さではとうてい表現できない現実です。東村の明るい陽光と木々の葉のそよぎ、住民たちの普通の生活などが極めて美しく描かれているだけに、それらを踏みにじる理不尽さに体が震えました。
今日は、ありがとうございました。映画の成功を期待します。
三上
こちらこそありがとうございました。
映画は8月10日(土)から、東京・東中野の「ポレポレ東中野」を皮切りに、順次全国でロードショーです。沖縄の現実を、少しでもお伝えできればと思っています。
ぜひ、よろしくお願いいたします。
(構成/鈴木耕 写真/吉崎貴幸)
(C)琉球朝日放送
8月10日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
公式サイト http://www.hyoteki.com/
【イベント情報】
8月10日(土) ★公開初日
12:40の回上映前or後(未定): 三上智恵監督ほか、琉球朝日放送スタッフによる舞台挨拶
8月11日(日)
12:40の回上映後:三上智恵監督によるティーチイン(質疑応答)
オスプレイ追加配備に反対する人たちが、
再び普天間基地ゲートでの抗議行動を続けていた5日、
同じ沖縄の米軍基地キャンプ・シュワブで、
米軍ヘリが墜落しました。
県内紙・沖縄タイムスは翌日、
「危険放置 もはや限界だ」と題する社説を掲載。
その言葉は、沖縄の多くの人たちの心の叫びなのかもしれません。
『標的の村』、ぜひ見て、知って、そして考えて行動したい映画です。
三上さん、ありがとうございました。
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もっと知りたい人は、「辺野古浜通信」
「やんばる 東村 高江の現状」などのページもぜひ。