今後どのような発展モデルを選択するのか
編集部
「軍事力に頼らない国である」ことを、弱みと捉えるのでなく強みとしてアピールしていく、ということでしょうか。
川崎
そうです。世界の国々には、それぞれにその国らしい「売り」や「カラー」がありますよ。例えばイギリスは、アフリカなど途上国の貧困対策に力を入れていることを積極アピールしてきました。2005年、白いリストバンドを身に付けて「世界の貧困問題はほっとけない」という意思を示す「ホワイトバンド」が話題になりましたが、イギリス政府はその運動を応援していました。2008年のG8洞爺湖サミットのときには、これに対抗してNGOが世界の貧困問題等を考える「市民サミット」を開いたのですが、そのときイギリス大使館から突然電話がかかってきて「ぜひNGOの皆さんと意見交換したい」と言われたのでびっくりしました(笑)。
イギリスの場合、アフリカや中東、アジアを植民地支配してきた歴史がありますから、その贖罪意識が背景にあるのかもしれません。貧困対策という綺麗なかけ声の下で、必ずしも良いことだけをやっているともいえません。でも、「貧困をなくす」というはっきりとしたメッセージを世界に発信することが、国のステータスを高めていることは間違いありません。
またドイツは、国策として脱原発を決めましたね。実際には、今も日本以上に原発が稼働していて、脱原発の達成までにはさまざまな課題があります。それでもドイツが掲げる「脱原発」の旗幟は鮮明で、他の国々に対しても「原発は見直したほうがいい」という働きかけをしているほどです。昨年「脱原発世界会議」を開催したときには、ドイツ大使館から電話がかかってきて「ぜひ出席したい」というのです。こういう外交を外国の市民団体に対してまで行うのですから、大したものです。世界に向けて、大きなアピール力があります。
編集部
それと同じように、日本は「平和」を「売り」にしていけばいいということですね。
川崎
「戦争のない世界を目指すことが日本の歴史的使命だから9条を守る、国際協力の場でも、9条があるからこそできることをやる」と言えば、世界の国々は力を貸してくれることはずです。日本政府は、もっとそれを自覚したほうがいいと思います。「マガジン9」というウェブサイトを、政府が運営していてもいいくらい(笑)。
日本は先進国の中で、経済における軍需産業の占める割合がきわめて小さい国です。朝鮮戦争やベトナム戦争の「特需」で経済成長したという事実もありますが、それでも基本的には、軍事に頼らない発展を遂げてきた数少ない国といえます。これから経済成長していくいわゆる新興国にも、そのような日本型発展モデルを参考にしてもらえばいい。9条があったからこその軍事に頼らない発展モデルを世界に「輸出」することも、日本の役割なのではないでしょうか。
編集部
平和と、経済発展とは両立可能だということを示すことにもなりますね。
川崎
これからの将来、先進国の経済規模は横ばいか緩やかに低下していくことははっきりとしています。子や孫に残す社会が、戦車やミサイルを作ったり売ったりして発展していく、そんなものでいいのか。そうではなく平和で環境に優しい社会――持続可能な社会、あるいは9条的な社会という言い方もできると思いますが、そちらのほうがいいのか。選択する時期に来ています。
昔の富国強兵の時代のように、巨大な軍隊を持ってどこかの国で戦争が起きれば出かけて行って参戦する。あるいは武器・弾薬を輸出する。そういう経済モデルが本当に「強い」といえるのか。発展性があるといえるのでしょうか? 私には、そう思えません。かつて「戦争に勝てば平和になれる」と思い込まされていた時代は、国民全体の目標が戦争での勝利でした。でも今は国民は、戦争の悲惨さを知っています。戦争がもたらすのは破滅です。軍需産業による「発展」には、将来性はありません。戦争に勝つことよりも、戦争を起こさないことを目的にする方向に、発展モデルは変わってきています。より未来のある社会のあり方を選び始めている人が増えてきているのです。
すでにGDPやGNPではなくGNH(国民総幸福量)を指標とする考え方も支持を得ていますよね。国の強さはミサイルの数ではないことは、誰もが気がついているはずです。
憲法9条を守るべきという意見に対してはときに、
「現実を見ていない」という批判が寄せられることがあります。
原発をめぐる議論にも似た構図ですが、
果たして「安全を守るために軍事力を高める」という選択をすることが、
本当に「現実を見ている」ことなのでしょうか?
「国益」を考えればこそ、多面的な視点から見つめ直してみる必要があります。