この人に聞きたい

自民党圧勝の結果に終わった参院選。さらに「改憲」が現実味を帯びてきた状況に、中国、韓国メディアなどではすでに、「憲法改正の動きの加速」を懸念する報道が始まっているともいいます。日本が9条を失うとはどういうことなのか? 世界が日本を見る目は、それによってどう変化するのか? 2008年に2万人以上を集めて開かれた「9条世界会議」事務局長を務め、NGOピースボートの共同代表として、世界各地の人たちの声を聞いてきた川崎哲さんにお話を伺いました。

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川崎哲(かわさき・あきら)
1968年東京生まれ。ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)共同代表。「アボリション2000」調整委員。2008年から広島・長崎の被爆者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」プロジェクトを実施。2009~10年、日豪両政府主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」でNGOアドバイザーを務めた。著書『核拡散』(岩波新書)で日本平和学会第1回平和研究奨励賞を受賞。雑誌『世界』(岩波書店)をはじめ国内外のメディアに寄稿多数。恵泉女学園大学非常勤講師。日本平和学会会員、日本軍縮学会会員・編集委員。
災害支援を入り口に、
東アジアに「平和の共同体」を

編集部
 前回、「9条の理念を世界に広げていく」ことの重要性についてお話しいただきました。具体的には、どのような道筋があるのでしょうか?

川崎
  一つは東アジア地域で平和のための共同体を作ることです。東アジアは世界で唯一、冷戦構造を残している地域です。今年7月には朝鮮戦争の休戦協定から60周年を迎えましたが、いまだに朝鮮半島は分断されています。中国と台湾の対立という問題もあります。日本と中国も、日本と朝鮮半島も、歴史問題で和解をしきれていません。これまでの歴史がひずみを抱えたまま、政治的・軍事的緊張が続いています。この状況を乗り越え、新たな共同体を作ることが必要です。
 ヨーロッパには欧州連合(EU)があり、安全保障協力の仕組みもありますね。フランスとドイツはかつては戦争を繰り返してきましたが、それを乗り越えて手を取り合いました。それが経済共同体になり、安全保障の共同体へと発展を遂げてきています。ドイツは戦後の出発点として、まず戦争における自らの誤りを認めました。自らを省みることで各国の信頼を得て、フランスとの関係も改善しています。今年1月には駐日ドイツ大使とフランス大使が共同で、独仏協力条約から50周年を記念して、「和解が互いの利益」とする論説文を「朝日新聞」に寄せています。
 6月に来日したオランド仏大統領は日本の国会で演説し、東アジアの緊張に「憂慮」を示し、「苦しい過去の後遺症に終止符を打つ」ことを呼びかけました。ヨーロッパでは「昨日まで先祖代々の敵だった」が、今日では「団結し連帯」しているというのです。同じことを、東アジアでできないはずはありません。9条をシンボルにした平和共同体を東アジアに作る努力をすべきです。

編集部
  そのためにはまず、どんなことから始めればいいのでしょうか?

川崎
 災害支援を入り口に、協力体制を広げていくことができます。2008年に中国・四川省で大地震が起きた際、日本からの救援活動に対して地元の人々はとても感激してくれて、中国における対日感情が大きく改善しました。東日本大震災の際には、アメリカの「トモダチ作戦」がマスコミに大きく報道されていましたが、中国をはじめ多くのアジアの国々も多大な支援をしてくれていたことを忘れてはなりません。東アジア地域の安全保障の協力体制は、このような災害時の相互支援の態勢を体系化していくことから築いていけると思います。
 災害が起きた後の対処ばかりではありません。津波、台風、環境汚染や感染症など、国同士で情報と経験を共有し、共同で予防し、対策を講じるべき問題が数多くあります。
 さらに私は、原発について「東アジア原子力規制委員会」を作るべきと思いますね。ひとたび事故が起これば、放射能による汚染は国境を超え、海にも広がっていくのです。韓国や中国で原発事故が起きれば、日本への影響は必至です。しかし、韓国や中国の安全基準に対して、日本の私たちが口出しすることはできないのが現状です。日本、中国、朝鮮半島、そして台湾における原発は、いずれも地域全体への脅威であるといえます。だからこそ、地域共通の安全性と規制の基準を、高度な技術や制度を駆使してあてはめる必要があります。そのような原子力分野での協力関係が生まれれば、北朝鮮の非核化にもプラスになるでしょう。
 これらは、軍事面での安全保障協力とは異なる、「人間の安全保障」の地域協力といえます。

編集部
 その中で「シンボル」になるのが日本の憲法9条なのですね。

川崎
 軍事力に対して軍事力で対抗しようとしても問題は悪化するだけです。古い冷戦がまだ残っているところに新しい冷戦を上乗せするようなものです。日本が9条を捨てれば、それは日本が軍事化へと舵をきったというメッセージとなり、地域全体の軍事化を助長します。むしろ「武力を用いずに平和を作る国」であることを積極的にアピールすることで、地域の信頼と平和に貢献できるのです。

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川崎哲さんに聞いた(その2) 世界は、すでに9条を選び始めている」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    憲法9条を守るべきという意見に対してはときに、
    「現実を見ていない」という批判が寄せられることがあります。
    原発をめぐる議論にも似た構図ですが、
    果たして「安全を守るために軍事力を高める」という選択をすることが、
    本当に「現実を見ている」ことなのでしょうか?
    「国益」を考えればこそ、多面的な視点から見つめ直してみる必要があります。

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