世界で「9条を選び始めた」人たちがいる
編集部
しかし、それは一国だけでできることではないように思います。そうした考え方は、世界的にどのくらい浸透しているものでしょう?
川崎
たしかに、9条は日本一国が持っているだけでは機能しません。しかし、すでに支持者は世界に広がっています。2008年に世界各地からゲストを招いて開催した「9条世界会議」は、日本の9条に関する法的論争をするためではなく、今の時代にどうやって軍事力によらずに平和を作るのかを語る場として開催したものです。その時のキャッチコピーは「世界は9条を選び始めた」でした。世界中が9条を「選びきった」とまでは言いませんが、軍事力に頼らずに平和をつくっていく道筋を選択する人たちは確かに増えています。
例えば、北アイルランド。9条世界会議のゲストの1人マイレッド・マグワイアさん(北アイルランド出身の平和活動家でノーベル平和賞受賞者)は、スピーチでこう言いました。「暴力で紛争は解決できません。北アイルランドがそうでした。でも、対話を始めたら解決に向かいました」と。彼女は、長く北アイルランドで続いてきた独立をめぐるカトリックとプロテスタントの対立による武力紛争で家族を失っています。友人のベティ・ウィリアムズさんとともに「ピース・ピープル」という組織を立ち上げ、その問題の平和的解決に取り組んだことからノーベル平和賞を受賞しました。実際の経験の中から、紛争を解決するのは軍事力ではなく非武装・非暴力であることを選んだのです。これはそのまま、9条の理念だともいえるでしょう。
編集部
その理念を、もっと世界中に広げていけたらいいですね。
川崎
はい、私は9条を海外に広げ、世界規模で「武力によらない平和」を目指す必要があるとずっと述べてきました。9条というと、とかく「米占領軍による押しつけだったかどうか」といった歴史論争や、自衛隊の違憲性といった法的論争になりがちです。しかし、そうした議論をいったん横におき、今日の世界でどうやって平和を作るかということを正面から考えたとき、日本の9条はまさに「使える」ものであることが見えてくるのです。
北朝鮮のミサイルに備えたいという気持ちはわかりますが、迎撃ミサイルを配備しても、向こうはさらに強く出るだけです。本当に問題を解決しようと思ったら、もっと長い目で見て、外交力と人脈で危機を抑えながら、平和のための地域的なメカニズムを作るしかありません。日本が憲法前文にあるように「国際社会で名誉ある地位を占め」るためには、9条を世界に広げて非軍事の国際協力を展開することが大切だと思います。
その2へつづきます
(構成/越膳綾子 写真/仲藤里美)
開票速報番組でのインタビューで、
「憲法改正を進めていく」とも明言していた安倍首相。
川崎さんにお話を伺ったのは参院選の前ですが、
9条改定が世界に与える「メッセージ」についての提言は、
さらに大きな意味を持つことになりそうです。
9条を捨てて軍事力を持つことが、果たして本当に「安全」に、
そして国際社会における日本の地位を向上させることにつながるのか?
「軍事力=強さ」の思い込みを捨てて、今こそ検証しなおすときです。