「きっと戦争は起きない」は根拠なき安全神話
編集部
憲法を変えたからといって、それがすぐさま「戦争になる」ということではない、という声もあります。
川崎
改憲を支持している人たちは、どこかで「本当に戦争になんてなるわけがない」と思っているのではないでしょうか。しかし、それは根拠のない「安全神話」に過ぎません。これだけ領土問題が緊張している中、もしも憲法を変えて自衛隊を国防軍にするなどの行動を取れば、ますます緊張感は高まります。ふとしたことがきっかけで衝突が起こり、それが本格的な戦争に発展する可能性は十分にありますよ。
敗戦から70年近くたって、政治の意思決定者の中にも戦争を知る人が少なくなっています。戦争の中での人々の悲痛や苦しみが忘れ去られ、「戦争」がまるで情報や記号のように軽々しく語られています。橋下徹・維新の会共同代表の「慰安婦」発言は、それを象徴するものだといえます。
編集部
しかし、「北朝鮮の脅威」「テロの脅威」などが声高に言われる中、「軍事力なしでどうやって安全を守るのか」という不安も、多くの人が抱くところかと思います。
川崎
ピースボートでの経験上実感しているのは、身を守るために本質的に必要なことは人脈と交渉力だということです。ピースボートの活動では、必ずしも治安がよくない国や地域に行くこともあります。難民キャンプや、災害のあとの混乱した状況にある国などです。そうした時、一番頼りになるのは、案内してくれる現地の友人です。このエリアは危険だ、そっちは行ってもいいと地元の事情を教えてくれたり、あなたには私が付き添うから安心してくれと言ってくれる仲間がいるかどうかこそ、安全の基盤です。ピースボートが30年も続けてこられたのは、世界中に信頼できる友人たちがいるからです。
国際関係もそれと似たところがあります。軍事力よりも人脈と交渉力。例えば、イラク戦争の際に日本人が人質となった時、私は日本政府の関係者とも直接話をしましたが、政府は実行犯がどんなグループなのか本当に分からなかったようです。政府には現地での人脈も乏しかったし、交渉する相手すら見つけられなかったのだと思います。最近アルジェリアで日本人が拘束され殺害された事件がありました。こうした危機的状況を回避するのは、ひとえに人脈と交渉力です。よく「9条は丸腰だから危険だ」と言われることがありますが、知らないところに武器を持っていくのが一番危ない。グローバル社会においては、世界中に信頼できる人脈を作ることが何より大切です。
編集部
軍事力よりも人と人とのつながりが、平和や安全をもたらすのですね。
川崎
そうです。軍事力で平和を作り出せないことは、ほかならぬアメリカがすでに証明しています。9・11(アメリカ同時多発テロ事件)の際、アメリカは1万発もの核兵器を持っていながら、自国を守ることができませんでした。いつでも、どの国にでも核兵器を発射できる態勢を整えていても、国の中枢に飛行機が突っ込んでくれば太刀打ちできないわけです。さらにその後、アメリカは「対テロ戦」だといってアフガンで、イラクで戦争を起こしましたが、それで何か解決しましたか? アフガンでは自爆テロが多発し、イラクは混乱状態。自国・相手国ともに多くの犠牲者を生みました。
そう考えると、国を守るために軍備を強化すべきだとか、日米同盟を強化してアメリカの核兵器で守ってもらおうなどという考え方は、現実にそぐわなくなってきているのです。私たちがイラク戦争の経験から学ぶべきは、強い軍事力を持っても本当の意味での安全は得られないということ。軍事力ではない方法で平和を作る方向に、考え方を大きく転換するべきだということです。
開票速報番組でのインタビューで、
「憲法改正を進めていく」とも明言していた安倍首相。
川崎さんにお話を伺ったのは参院選の前ですが、
9条改定が世界に与える「メッセージ」についての提言は、
さらに大きな意味を持つことになりそうです。
9条を捨てて軍事力を持つことが、果たして本当に「安全」に、
そして国際社会における日本の地位を向上させることにつながるのか?
「軍事力=強さ」の思い込みを捨てて、今こそ検証しなおすときです。