小さなスイッチの切り替えが、
大きく状況を変える
編集部
「希望のあるシステム」というお話ですが、枝元さんは全国各地で頑張っている生産者や、町おこしの取り組みをしている人たちを訪ねておられますよね。以前お越しいただいた「マガ9学校」では、〈グローバリゼーションに対抗するローカリゼーションに希望を感じるようになった〉ともおっしゃっていました。最後に、その具体例を何か、教えていただけますか?
枝元
たとえば、三重県の尾鷲市に、「夢古道おわせ」という施設があるんです。今は地下から汲み上げた海洋深層水を沸かしたお風呂なんかも人気なんだけど、もともとは地元の商工会議所の人たちが、外から人に来てもらえるよう、ごはんを食べるところをつくろう、と立ち上げたのがきっかけ。
そのときに面白いのがプロの料理人を呼んでくるんじゃなくて、地元の女性たちに「ごはん作りをしませんか」と声をかけたこと。それも、海側と山側、あと畑をやってる地域と、3カ所の女性たちのグループに呼びかけて。今は、その3組がそれぞれ法人格を取って、ちゃんと「夢古道おわせ」と契約をかわして、1週間交代で厨房を担当してるんです。ずうっとじゃないし昼11時から2時までの営業だから、彼女たちにも負担になり過ぎなくてちょうどいいのだそうです。
食堂はバイキング形式で、地元でしかとれないお魚とかも並ぶけど、おかあさんたちが作る料理だから、普通にカレーとか焼きそばとかも出てくる(笑)。でも、地元の新鮮な素材を使ってるから、すっごくおいしいんですよ。一度畑を見せてもらいに行ったことがあるけど、ほんとに熊とか猿とかが出るようなところの畑で、隅っこには切り干し大根が干してありました。
編集部
お客さんはどのくらい来るんですか?
枝元
休日には200組くらい、と聞きました。ランチバイキングが1200円だから安くはないんだけど、ロケーションも最高だし、とにかくおいしいから。近所にあんな店があったら、私もうごはんなんか作らないかも、と思うくらい(笑)。
女性たちにとっても、みんなが食べてくれて「おいしい」と言ってくれてお金にもなるんだから、プライドも生まれてくるしやりがいになるよね。かといって、時間に追われて自分の生活を犠牲にしなければならないわけでもない。みんな、すごく楽しそうに働いてました。最近は、間伐材の利用などにも取り組んでいるので、それを加工する人たちの仕事も生まれてきた、と聞きました。
編集部
ちょっとしたアイデアなんですね。
枝元
そう。よく地方は元気がないとかいわれるけど、実際に行ってみるとこういう話はいっぱいあるんですよ。仕事がないしモノをつくっても売れないし、若い人の仕事全然ないし、だから帰って来れないし、後継者いないし…といってあきらめるんじゃなくて、違う良さを探す、違う形で仕事をつくっていく。「そんなの仕事にならないよ」と言われてたものこそが、実は大きな収益を生み出したりもする。「チームむかご」も『ビッグイシュー』もそうだと思うけど、考え方のスイッチを一つ切り替えるだけで、変わっていくことができるんじゃないかと思うんです。
編集部
むかごも、「今まで捨ててたもの」を「売る」という切り替え。『ビッグイシュー』も、ホームレスの人に「お金やモノをあげる」んじゃなくて「仕事をつくる」という切り替えですね。
枝元
それも、考えてるだけじゃなくて具体的なことを始めてみることですよね。まずは自分で動く、具体的な取り組みをする。そこからいろんなことが見えてきたり、新しい人とつながれたり…そういうことからしか、今私たちは変わっていけないんじゃないかと思うんです。
「にこまるプロジェクト」でも新たに、被災地各地のにこまるクッキー製造所にカフェ機能をプラスしていくという、「プラスカフェ」プロジェクトが進行中なんです。一番の目的は地元の人たちの働き場所と居場所をつくること。そして、オープンの暁には、メンバー制でフードチケット付きの寄付を募ろうと思っています。都市に住む私たちが3・11のことを忘れないように、そして被災した人や地域とつながりを持てるように。いつか被災地を訪ねたら、そこに自分がかかわったカフェがあって、「いらっしゃい」と言ってもらっていろんな話ができる。そんな場所があったらいいんじゃないかな、と思っているんです。
(構成/仲藤里美 写真/塚田壽子)
ツイッターなどを拝見していても、
本当にパワフルに全国を飛び回っていらっしゃる枝元さん。
「まずは自分が動きはじめること」という言葉が、説得力を持って響きます。
ともすれば心折れてしまいそうなことばかりですが、
そんな中でも希望は忘れずにいたい。
そう思わせていただいたインタビューでした。
枝元さん、ありがとうございました!