この人に聞きたい

「人は食べて生きていく」ということを、
いつも肝に銘じている

編集部
 さらに、一昨年の東日本大震災の後、被災者の方たちが作ったクッキーを被災地以外の人たちに向けて販売するという「にこまるプロジェクト」も開始されました。

枝元
 震災があった後、私ほんとに「どうしていいかわからない」状態でした。怖いし、テレビを見るだけで何も手につかなくて。そんなときに、家でアシスタントの子たちと一緒に、おむすびとか作って食べたら、とても気持ちが落ち着いたんです。みんなで食べること、食べ物を作ることって、すごく落ち着くんだな、と改めて思って。

 それで、被災地にも何か手作りの食べ物を届けたい、と思っていたときに、あるNGOが被災地に物資を届けるというのをツイッターで見て。「やった!」と思って(笑)、周りの人たちと一緒に、クッキーとか日持ちのするおかずとかを作って持って行ってもらうことにしたんです。ツイッターとかでも呼びかけたら、来てくれた人がいっぱいいた。やっぱりみんな不安で1人じゃいられなかったんだと思う。私自身も、支援だとかいうよりは、みんなと一緒に手を動かしていたい、「何もできない」無力感から救われたい、という一心だったような気がします。

編集部
 それが「にこまるクッキー」のはじまり。最初は「クッキーを作って被災地へ送る」活動だったんですね。

枝元
 そう。でも、1ヵ月くらい経って状況がやや落ち着いて、被災地の食糧事情も少し安定してきたのを機に、やり方を変えることにしたんです。私たちがそうやって「手を使う」ことで落ち着いたのなら、被災地ではもっとそうじゃないか、と思ったんですね。避難所にいたら何もすることがないし、だったら被災者の人たちに手を使って、自分たちで食べ物を作ってもらおう、それを私たちが買い支えよう、と。それが徐々に広がって、今の「にこまるプロジェクト」の形になっていきました。

編集部
 「食べ物」の持つ力を実感するエピソードですね。枝元さんが東日本大震災の後に出された著書に『今日もフツーにごはんを食べる』というタイトルの本がありますけど、そうして「ごはんを食べる」「作る」ことが、本当にすごく力を与えてくれるんだと思います。

枝元
 私は料理を仕事にしていますけれど、レシピの小さじ1、大さじ1にばかりこだわるより、「食べる」ということの根源を常に考える料理人でいたい、と思っています。「人は食べて生きていく」ということを、いつも肝に銘じていないとダメだ、と。

 食べるっていうことと生きるっていうことは、ものすごくつながっていて。食べることは、命を養うことなんですよね。だけど、その「食」が今、どんどんビジネスというか、お金儲けの道具になっていってしまってる。昔ももちろんそういうことはあったけれど、もっと規模が小さかったでしょ。今はお金のための、お金儲けのための食べ物とのかかわり、みたいな部分がどんどん大きくなっていっている気がします。

 その中で、私の仕事は「キッチンの敷居をすごく低くすること」だと思ってるんです。気がついたらキッチンに入って自分で料理してた、みたいな人を増やしたい(笑)。畑に行ってみるのと同じで、頭の中だけで考えてると分からないけど、台所っていう「現場」に来て、冷蔵庫を開けて、自分で料理したり食べたりすることで、生きる力をつけていくことができると思うんです。

その2へつづきます

(構成/仲藤里美 写真/塚田壽子)

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枝元なほみさんに聞いた(その1) どんなときも、
人は食べて生きていく
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    料理を作って食べること、食べてもらうこと。
    それがどんなに人を力づけるか、
    3・11の後に実感した方は多かったのではないでしょうか。
    その「食」につながる「農」を、どう支えていくのかは、
    私たち一人ひとりが「生きること」にかかわる、重要な課題です。
    次回、3・11から2年を経た今の思いについて伺います。

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