この人に聞きたい

作りやすくて親しみやすく、もちろんおいしい。そんなレシピが人気の料理研究家・枝元なほみさん。テレビや雑誌で活躍するほか、生産者支援や被災地支援、脱原発などの活動にも積極的に取り組んでいます。お話ししているとこちらまで元気になってくる、そのパワーの源泉はどこにあるのか? 農業支援団体「チームむかご」の活動について、「食」への思いについて、たっぷりお話を伺いました。

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枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家。明治大学卒業後、劇場の研究生になり役者をしながらレストランで働く。劇団解散後、料理研究家に。料理本の執筆の他、料理番組への出演多数。また農業支援団体チームむかごを立ち上げ、現在は社団法人「チームむかご」の代表理事。東日本大震災の後は被災地支援の活動(にこまるプロジェクト)も同法人で行っている。ツイッター(@eda_neko
「このままじゃ、日本の農業がなくなっちゃう」と思った

編集部
 枝元さんは、料理研究家として活躍される一方、農業支援団体「チームむかご」を立ち上げるなど、日本全国の農業・漁業生産者との交流やその支援にも積極的に取り組まれていますね。そうした活動を始められたきっかけを教えていただけますか?

枝元
 「チームむかご」を立ち上げたのは5年くらい前ですが、その前から料理の仕事を通じて、生産者やJAの方とお会いしてお話を聞く機会がたくさんあったんですね。畑を見せてもらったり、有機栽培をする農家の方と一緒に「畑の見える料理教室」をやったり…。でも、その中でいろんなことを見聞きするうちに、「このままじゃ、ほんとに日本の農業がなくなっちゃう」と思うようになったんです。

編集部
 どういうことでしょう?

枝元
 実際に畑に行ってわかることがすごくいっぱいありました。たとえば、大根の出荷作業って見たことありますか?

 大根がいっぱい詰まった一つ10キロ以上あるコンテナを、まずどんどん軽トラに積んでいくんですね。私はこの時点で持ち上げられなかったけど(笑)、それを作業場に運んで下ろして、そこできれいに土を落として洗って、拭く。で、それを新品の段ボールに10本単位とかキロ単位とかで詰め直して、また軽トラに積み直して、出荷場に持っていって、また下ろす。もし私がやるんだったら、大根1本2000円くらいじゃないとイヤだと思った(笑)。

 でも、実際には大根1本100円、150円とかで売られてることもあるでしょう。しかも、150円で売ったとしても、流通や小売りで持って行かれるから、農家の取り分ってそのうちの30%くらいなんですって。土をつくって、種撒いて、芽が出たら植え替えて、間引いて、雑草を取って、場合によっては農薬撒いて、雨が降ったといっては心配して、降らないといっては心配して…それでやっと出荷して、利益は50円以下ですよ。しかも、段ボールとかの資材費ももちろん全部農家もち。正直、とてもやってられないと思った。

編集部
 まず経済的に成り立ちにくいんですね。

枝元
 あと、日本の野菜って見た目による選別が中心になっちゃう。サイズもすごく細かく等級付けされるし…一度、あるブランド葱を作ってる葱農家さんを訪ねたことがあるんですけど、ちょっとでも太かったり曲がったりしてたら全部廃棄。それどころか、緑の部分と白の部分はこのくらいの長さって決まってて、長さを揃えるために、青々しておいしそうな先っちょの部分も全部切り捨てちゃう。ブランドを保つためだっていうんだけど、食べ物ですからね。私、その捨てる部分を全部もらってきて、もう意地みたいになって料理して、周りの人に食べてもらいました。でも、農家の人たち自身の多くも、そういう「見た目重視」がイヤになってるところ、あるのじゃないかしら。

 あと、これはまた別の葱農家で聞いた話だけど、スーパーマーケットに葱を卸すことになって、そのためのミーティングで「鮮度のいい、おいしい葱を入れますから」と言ったら、先方の担当者に「鮮度は別にいいんです」と言われた、と。「鮮度は水をかければ分からないから。それより欠品しないことのほうが大事です」。もう、あんまり腹が立って椅子を蹴って帰ってきた、と言ってました。

編集部
 食べ物というよりは、工業製品みたいですね。

枝元
 そうなの。もっと言えば、私はなるべく有機栽培が広がったらいいなと思っているんです。それは食べ物の安全のためだけじゃなくて、生産者自身の体への影響もあるんじゃないかと思うし、農薬が見た目をよくするためだけに使われることも多いので。よく「有機栽培は儲からない」というけど、いろいろ調べていくと、農薬って今けっこう高くて、有機ならそのお金がかからないから、十分やっていけるという農家さんもいらっしゃる。もちろん、その分手間はかかりますけど。

 でも「この新しい農薬を使うと作りやすいですよ」と農家さんにどんどん勧めたりする方向もあるし、そういうことをやらないと、安くたくさん作ってどんどん売る、という形が成り立たないようでもあるし…。今、専業農家の人の数よりJA職員の数のほうが多いくらいなんだそうです。

 なんだか、今の日本の農業が、食べ物を作る農家の人たちのプライドを守りきれないシステムになっちゃってる。原発と同じで、システムが古びて機能停止を起こしてるのに、そこにしがみついてる部分、変われない部分があると思う。

編集部
 そう考えると、農家の人手不足、慢性的な人手不足は必然といえるかもしれません。

枝元
 でもね、農家の人たちっていろいろ話を聞いてると、かっこいいんですよ。働き者で、元気良くててきぱきしてて。「食べるものを作る」ことに誇りを持って、研修生を受け入れて若い人たちを育てようとしてる人もたくさんいて。やりがいのあるいい仕事だな、と思った。

 だったら――仕事として素敵なんだとしたら、あとはどうやって経済的に成り立たせるかということ。実際、経済的にうまくいってる農家は子どもも「跡を継ぎたい」って言うところが多いと思う。

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枝元なほみさんに聞いた(その1) どんなときも、
人は食べて生きていく
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    料理を作って食べること、食べてもらうこと。
    それがどんなに人を力づけるか、
    3・11の後に実感した方は多かったのではないでしょうか。
    その「食」につながる「農」を、どう支えていくのかは、
    私たち一人ひとりが「生きること」にかかわる、重要な課題です。
    次回、3・11から2年を経た今の思いについて伺います。

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