野菜市場で出会った仲間で
「ハハレンジャー」を結成
編集部
るりさんは、そうした中でお母さん同士のコミュニティーを作られているそうですね。
佐々木
お寺に届いた県外の野菜をお分けする「青空市場」を始めました。毎日、朝から夕方まで、お寺の広い会館に野菜を並べて、都合のいい時にとりにきてもらうのですが、ここでは「甲状腺の検査、お宅はどうだった?」といった会話もよく聞こえます。あるお母さんは、原発事故からそれほどたっていない時期に子どもをつれて散歩したことをずっと気に病んでいたそうです。ほかのお母さんは、原発事故直後、避難しようとしていた人を「ちょっと待ってよ、国が大丈夫って言っているんだから、パニックにならないで」と引き留めてしまったことを今も後悔していると泣きながら話してくれました。
野菜をお分けするために始めた青空市場でしたが、お母さんが誰にも言えなかった思いを打ち明けられる場になっています。最近は、毎日のように青空市場に来てくれるお母さんたちが協力して、子どもたちの安全を守る「ハハレンジャー」を結成しました(笑)。
編集部
ハハレンジャーの取り組みについて教えてください。
佐々木
食べ物の線量測定と、子どもたちの保養です。学校給食のお米も測っているのですが、小学校や教育委員会とかけ合ったのもハハレンジャーのメンバーです。最初は「学校給食は持ち帰るためのものじゃない」と相手にされませんでした。でも「私たちは食べさせたくないから測るのではありません。食べさせたいから測るんです」と粘り強く交渉して、ようやく許可がおりました。ゲルマニウムの測定器で測ってみても、今のところ白米は不検出です。
編集部
青空市場がつなげた、心強い仲間ですね。
佐々木
もともとは、ほとんど話をしたことのなかったお母さん同士でしたが、本当にありがたいですね。週1回は、お寺に届いた野菜を測定して、放射性物質不検出の昼食を作ることもしています。行政のルール上、「給食」とするには色々と手続きが必要になるので、園のお母さんたちがボランティアで提供するお昼ご飯ということにしています。ハハレンジャーのメンバーが「るりめし」と名付けてくれました。園児100人分をお寺の大きな台所で作っています。最初はどのくらいの量を作るか検討もつきませんでしたが、今はだいぶ慣れました。食べ物は、ちゃんと測定して放射能が検出されないとわかって、ようやく「安全安心」が得られます。
編集部
子どもたちの保養は、どのように行っているのですか?
佐々木
大谷派の寺院が募金をしてくれて、夏は180人くらいの大所帯で時期や行き先をずらしながら、保養に連れて行っています。あるいは、青空市場の基金も使っています。青空市場でお分けしている食べ物のうち、お米や果物は人気があるので一部有料にしています。お米1kgあたり100円くらいで、市販よりはずっと安くしていて、そのお金を保養の資金にしています。去年までは、民間のNPO団体主催の保養に行政の補助があったのですが、だいぶ打ち切られてしまって。やむを得ず定員をしぼったり、一部有料にしたりしている団体も増えてきました。
編集部
そうした地元の雰囲気は、なかなか報道で知ることができません。日本全体として、福島に関する情報の発信がトーンダウンしたような気がします。
佐々木
そうですね。本当は、メディアの仕事のはずなのですが、復興復興と言われるなかで、地元の人が今も感じている不安や心細さはかき消されてしまいます。だから、話せる人が話して、少しでも地元のことを伝えていくしかないのかなと思っています。私は人前で話すのが苦手で、震災前まではあまり表に出たくないと思っていました。今も苦手ですが、黙っていたら福島のことをどんどん忘れられちゃう。何事もなかったかのようにされていくのは、子どもたちに対してあまりにも申し訳ないと思って、できる限り、声をあげています。
(構成/越膳綾子 写真/塚田壽子)
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原発事故から3年目を迎えている福島。
置かれた状況や考えは人によってさまざまですが、
多くの人たちが今も、さまざまな不安や困難と闘いながら、
懸命に毎日を暮らし続けています。
「地元のことをできる限り伝えていく」というるりさんのような声に、
県外の私たちはどう応えられるのか。
次回、「原発再稼働」のニュースに抱いた思いや、
国や市の政策についてなど、さらにお話を伺います。