エネルギー問題を“普通の商習慣”に戻そう
編集部 “顔の見える電力”をつくるというわけですね。それには、やはり再生可能エネルギーが相応しいのでしょうか。
鈴木 日本は、地域にマッチした再生可能エネルギーの技術をすでに持っています。小田原は資源の宝庫で、昔、実際に小水力発電をやっていました。今は「小田原電力」とも言うべき官民一体となった太陽光発電を皮切りに、様々な再生可能エネルギーでのまちづくりに取り組み始めています。島根県浜田市でも風力発電事業が進んでいますし、ほかにも各地で新しい取り組みが始まっており、そこでは中小企業の技術が使われるケースも少なくありません。
残念ながら、中小企業は技術を実用レベルまで持ち上げる資金力と、事業化する横のつながりが不足していますが、仮に、これまで原発に使われてきた財政的・人的サポートを受けられるようになれば、あっという間に実用システムができるでしょう。
こうした話は、特に目新しくはなく、いろんな方がおっしゃっています。言ってみれば、エネルギー問題も“普通の商習慣”に戻そうというシンプルなことなのです。普通の商売は、大企業も中小企業も協力あるいは競争して商品を作り、販売していますよね。電力だって、顔の見える関係を大切にしながら、まっとうな取り引きをすればいいじゃないですか。
国はアジア諸国への原発輸出を進めていますが、輸出すべきは原発ではなく、持続可能なエネルギーによる持続可能なまちづくりのモデルです。実現すれば、国家の安全保障にもつながるでしょう。
私たちの体は常に自然とつながっている
編集部 エネルギーも経済も、大きく方向転換する時期に来ているのですね。でも、経営者の立場での脱原発宣言は、少なからずリスクもあると思いますが…。
鈴木 もちろん、そうです。私たちは会社を成長させ、社員の生活を守らなければなりません。中小零細である私たちの会社がこんな声を上げることは、商売上のリスクがあるかも知れません。だけど、今は腹をくくってやらねばならないときなのです。
それは、私自身が食品を扱う会社の経営者であることも関係しているかもしれません。「食」という字は、人を良くすると書きますよね。食べ物にはすべて命があり、人間は食べ物の命を使って生きています。英語のことわざで You are what you eat. といいますが、あなたはあなたが食べたものでできているのです。それを商売にしている私たちは、食べものの命をお客様の命に移していく。その一点で存在を許されています。
エネ経会議の設立総会の朝、いつもより早く目が覚めたので家の屋上に出て、海を眺めながら思いました。人間の体の内と外を分けるものってなんだろう? 私たちの体は、空気を吸って水を飲み、食べ物を食べて作られている。内と外を分けているのは意識だけで、実際には常に自然と体はつながっている。自然を汚す原発を維持するのは、私たちの体を汚すことと同じなんだと。おかしいなと思うことは、声をあげていかなければなりません。大切な地域を、できるだけきれいなかたちで残すのが、地域で生まれ、暮らして、仕事をしている私たちの責任です。
今後の具体的な行動計画は、4月末をメドにまとめますが、再生可能エネルギーに関する勉強会やシンポジウム、映画の上映などを検討しています。全国のメンバーの取り組みを集約したプラットホームとなり、再生可能エネルギーや新しい経済についての情報を発信していきます。
中小企業の経営者は、経済全体から見たら小さい存在ですが、小さいからこそ顔の見える関係で連携することができます。理論だけでなく、実践すること。各地で結果を示して、確実に前に進みたいと思います。
(構成/越膳綾子・撮影/塚田壽子)