この人に聞きたい

マスメディアで伝えられる経済界の意見というと「原発がないと電気代が上がり、国内産業は空洞化する」という後ろ向きの話ばかりです。しかし、個々の経営者の考えは必ずしもそうではありません。3月20日、全国の中小企業経営者で脱原発を目指す『エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議』(エネ経会議)が発足しました。飯田哲也さん(ISEP)や河野太郎衆議院議員をアドバイザーに、地域でエネルギーの自立に向けた勉強会やイベントの開催、調査研究などを計画しています。世話役代表は、神奈川県小田原市の鈴廣かまぼこ副社長・鈴木悌介さん(56歳)。企業側からの脱原発を宣言した背景と、今後のエネルギーのあり方について伺いました。

すずき・ていすけ1955年、神奈川県小田原市の鈴廣かまぼこの次男として生まれる。上智大学経済学部卒業後、アメリカにかまぼこ、すり身を普及させるため、現地法人の立ち上げと経営にあたる。91年に帰国し家業の経営に参画。00~01年小田原箱根商工会議所青年部会長、03年日本商工会議所青年部会長、2009年第3回ローカルサミット実行委員長などを歴任。現在、小田原箱根商工会議所副会頭、場所文化フォーラム会員など。
どんな商売でも、生活の安全がなければ成り立たない

編集部 経営者の方々から脱原発の声があがったということで、注目を集めています。エネ経会議は、どのように発足したのでしょうか。

鈴木 原発の危険性については、震災以前からずっと気になっていました。万が一の事故の甚大さと、使用済み核燃料の処理が未解決というエネルギーとしての問題点はもとより、地方にある原発の電力によって便利な都市生活が営まれる構図そのものがいびつだと思います。今になってみれば、もっと早くから声を上げなかったことに忸怩たる思いです。
 震災後しばらく続いた自粛ムードに加えて、福島の原発事故で地元の小田原や箱根も大きな影響を受けました。ホテルや旅館、おみやげ店は軒並み開店休業。地元の名産の足柄茶からも放射性物質が検出されました。このとき、つくづく思ったのです。どんな商売でも、生活の安全がなければ成り立たない。安心して町を歩けて、水を飲めて、深呼吸ができてはじめて消費が行われて経済がまわると。
 私たち中小企業の経営者は、地域とともに生き、地域を活動の中心として、地域経済の一翼を担っています。小さな存在ですが、商売人として責任があります。次の世代が住みたいと思うふるさとを残すために、原発がなくても安心して暮らせる社会をつくらなくてはなりません。
 今年1月から全国をまわって経営者仲間に声をかけると、みんな同じように考えていました。かつて私が日本商工会議所青年部の会長を務めていたときの仲間たちです。最初は120社ほどでスタートの予定でしたが、仲間同士のネットワークでどんどん広がり、400社近くの経営者がメンバーに加わり、現在も増え続けています。

編集部 新聞やテレビでは、経済界は原発推進一色かのように伝えられています。あれは大企業の意見であって、中小企業は違うということなのでしょうか?

鈴木 大企業、中小企業とわけることはあまり重要ではありません。私たちは誰かと敵対するつもりはないし、意見の異なる人を説得しようとも思っていません。いわゆる反原発運動ではなく、原発がないほうが健全な暮らしができるという実例を示し、豊かな地域経済をつくることが目的です。商売人として、自分の仕事で、自分たちが暮らす地域の安心・安全を守りたいのです。
 エネ経会議を具体化する前、日本商工会議所に話をしに行っているんですよ。マスメディアでは色々報じられていますが、日本商工会議所も原発の危険性は感じていますし、私たちの行動を否定はしませんでした。

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