10万人は集まる。集めなくちゃいけない
編集部 10万人集会をやろう、と思いつかれたのはいつごろですか。
鎌田 福島第一原発の事故の直後に新聞で、海外で20万人とかの反原発デモが起こっているのを見たんですね。でも肝心の日本では全然動きがないじゃないかというので、4月にインタビューを受けたときに「9月19日に10万人集会をやる」(「毎日新聞」4月28日付)と言ったんです。それがはじまりですね。
だから、僕は最初から「10万人」と言ってたんだけど、周りの人に声をかけて、「さよなら原発」の呼びかけ人8人にお願いして準備をはじめたら、みんなに「10万人は無理だ」と言われて(笑)。それで昨年の9月の集会は「5万人集会」になっちゃったんです。でも、あのときは6万人以上が来たから、今度こそ10万人だと。それを前提に準備を進めちゃっているから、集まらなかったら僕は夜逃げするしかないけど(笑)。
編集部 手ごたえはいかがですか。
鎌田 集まりそう、というか集めなくちゃいけないと思っています。それに、集まる可能性は十分にあると思う。1000万人署名だって、本当に地域も年齢もさまざまの、いろんな人が署名してくれて、沖縄県の竹富島みたいに、島の人口が300人くらいなのに、その約半数が署名して送ってくれたなんていうところもあるくらい。東京だって、以前は「運動の砂漠」といって100人集めるのも大変だったのに、今は300人、500人の集会なんてもう、当たり前になっているでしょう。そのくらい、思いが広がっているということだと思うんです。
編集部 実行委員会は今、何人くらいなんですか?
鎌田 最初は僕の個人的な知り合いや、これまでいろんな形で反原発の運動をやってきた人たちで、会議に来るのが今は80人くらい。最終的にはもっと増やしたいですね。これはかつての反原発運動みたいに、労働組合が中心の運動じゃないし、動員もありません。労働組合が動員する運動は人は集めやすいけど、外になかなか広がらないんですよ。
もちろん、最初は実行委員会の中でも立場や意見の違いがあったけど、少しずつ変わってきましたね。かつては対立していた人たちが、今は一緒にやろうというようになってきた。それに、「素人の乱」の松本哉さんとか、「首都圏反原発連合」のMisaoさんとか、若い人たちともどんどんかかわるようになって。彼らは身軽だし、僕らがやろうとすると連絡に時間がかかるようなことも、インターネットを使ってどんどん進めていきますよね。
編集部 以前、東京・杉並区で開かれた「住民による『脱原発杉並宣言』集会」では、若い世代に「(ちゃんと人が集まったという)成功体験を体感してほしい」という話もされていました。
鎌田 そうそう。やっぱり「やった」という達成感がないと、運動は広がりませんから。僕は60年安保世代で、人がどんどん集まってくるという瞬間をよく知ってるんです。毎日毎日、国会の周りに人が集まってくる。僕だって当時はまだ学生で運動の中ではペーペーだったけど、クラスでストをやって、毎日デモに参加してましたよ。そんなふうに、運動が高揚してくれば、どんどんじっとしていられない人たちは増えていくはずなんです。
編集部 たしかに、若い世代には正直なところ、デモや抗議で何が変わるんだ、という感覚もあるでしょうね。
鎌田 でも、それはやっぱり数が少ないからですよ。一定の量を超えると、政治の側だって脅威を感じる。先日、750万の署名を提出に行ったときにも感じたけれど、政権には、これだけ反原発の運動が広がっていることも、原発自体が本当に大変な問題だということも、ちゃんとわかっている政治家はいるんです。でも、どこかで彼らはまだ吹っ切れないでいる。一応、「脱原発」を表明しているけど、財界の古い層に依存し、官僚を説得できない。
だけど、運動の広がりを見て動揺している政治家は絶対に増えているわけで、それを決意させるにはやっぱり「数」です。10万人とかが集まってくれば、そんなに民衆の意向に逆らって政治はできないということは政治家にだってわかっているんだから、だんだん「決意する」人は増えていくはずです。
それにね、「人が集まる」って楽しいんだよ。これはもう、人間の本能だと思う。若い人にとっても、そういう体験をすることは、絶対これからの人生にプラスになると思う。集まってくる人たちを見ていると、人を信頼できるようになるし、人生観が変わりますよ。そういう体験を、ぜひしてもらいたいですね。
(構成/仲藤里美)