どれだけ「つながり」の間口を
広げられるか
編集部 秋田県には、自殺対策に取り組む民間団体が40以上もあるそうですが、行政主体の自殺対策とはどこが違うのでしょう?
伸也 民間団体の活動は、必要な人が自主的に行動しているから、参加者にとっても間口が広く、受け入れられやすいんだと思います。
行政が主体だと、どうしても間口が狭くなったり、予算消化のためにタレントを呼んでイベントをするとか、ニーズに合わない対策になりがちです。上手に二人三脚ができるのが理想ですね。
袴田さんたちは、民間団体と行政や医師会、商工会などが一体となった『秋田ふきのとう県民運動実行委員会』を発足させ、自殺対策を深化させています。民間が行政を動かして、情報を共有するネットワークは、もっと強固になるといいと思います。
拓也 ネットワークができて、居場所が増えると、それぞれに合ったところを選べるようになります。自殺対策は当事者の相談だけでなく、精神障害者のケアも重要な位置を占めますが、秋田県には、精神障害者が気軽に立ち寄れる『こころの自由空間ユックリン』や、精神保健の問題に取り組む『佐藤工房』(さとこぼ)があります。
また、藤里町のよさこいの会『素波里 狢(すばり むじな)』のように、地域の人々がつながる場としての自殺対策もあります。
僕らの住んでいる北上市にも組織はありますが、お互いを知らないことが多い。もっと情報交換をして、それぞれの地域に合った対策が広がるといいと思います。
編集部 年間自殺者3万人という数字は、あまりに膨大で、何かをしようにもなす術がないと思わせます。でも、答えの1つは「つながる」というシンプルな方法だったんですね。
伸也 『希望のシグナル』は、本当に人のつながりでできた映画です。制作費は、地元の企業や、以前の作品でお世話になった方からのカンパをつのったほか、インターネットでサポーターを呼びかけてなんとか集まりました。エンドロールもふくめて、つながることの大事さを伝えられる作品になっています。
自殺を考えている当事者はもちろん、「自分にはなにができるんだろう」と思っている人に、ぜひ見に来てもらいたい作品です。
(構成/越膳綾子)