魚沼での米作りにチャレンジして
見えてきたこと
編集部 自らもやってみたいと飛び込んで行った魚沼の米作りの方はどうでしたか?
岩佐 魚沼は国産米のトップブランドというイメージがあり、そこの米作りを学ぶぞ、と思って行ったのですが、実際に現地に入ってみるとブランドは揺らいでおり、トップの地位にはぎりぎりのところで踏みとどまっているように見えました。一方で福島や山形の米農家さんが、すごく米作りをがんばっていることもわかりました。
編集部 トップブランドの地位をかけて、各地の米どころで競争があったわけですか?
岩佐 そうですね。でも、トップブランドの地位ということで言えば、福島の米農家さんは魚沼を抜きたいと思っていたのかもしれないけれど、競争によって魚沼の米価がくずれてしまうと、結局は福島の米価も上がっていかない。日本の場合、お米が足りないわけでもないし、消費者の米離れはやはり続いていますからね。だからそういう価格競争をやっていても、下のピラミッドが広がるばかりで、美味しいお米を作っている米農家さんを守ることにはならないだろうな、と思いました。
実際問題、美味しいお米ができている地域の農家さんは、本当に手間暇かけて作っています。だからお米の値段はむしろ適正な価格になるように引き上げなければならないのでは? そう思うようになりました。「魚沼産こしひかりが美味しい」、というだけでなくて、その中でも特に美味しいお米を作っている生産者の名前をブランドにしていく。福島でも山形でも同じようなことをする。こうしたことが、日本のトップクラスの米価の適正価格を維持することにつながるのではないか。そんなことを考えるようになりました。
編集部 米作りを学びながら、現地に入ってからこそ見えてきたことですね。他にも何か気になった問題点はありましたか?
岩佐 いわゆる農村の高齢化の問題ですね。農村に若者を呼び戻すためにはどうしたらいいのか? という話もよく聞きました。農村のインフラを整え、りっぱな施設を作る、という政策もありますが、そういうことよりもまず、ちゃんと農業専業で自立した生活ができて、友達にも自慢ができること。そういう環境があれば、外に出ていった若者も戻ってきますよ。
そのためにも、米農家をやっている親父を有名にして、外からの評価がちゃんと見えるようになり、お米も適正な価格で売られるようになることが大事だと思ったのです。そうなると息子さんもちゃんと考えるわけですよ。
そしてこれは、雑誌というメディアをもっていて、食品の流通・販売もやっている僕らができることだと思ったんです。そのためには、米作りについても、きちんと学ぶ必要があったわけです。じゃないと地元の皆さんに対して、説得力が持てませんからね。
編集部 しかしそういったことは、地元の農協がこれまでやってきたことではないでしょうか?
岩佐 農協は生産者の「スター」を作ったりはしません。全体をボトムアップしていくのが彼らの仕事で、地域みんなで一緒にまとまってやっていきましょう、というのが農協の方針ですから。それはそれで大事なことです。だから、僕らは農協さんができないことをやろうとしたのです。僕らは日本の米価の値崩れが起きないように、トップを引き上げたいと考えたのです。
編集部 そうすると、ある地域の中で農協にも属しながら、岩佐さんとも一緒にやっていく生産者ができるわけですね。ブランドに認定された生産者さんは、他からやっかみをうけたりすることは、ないんでしょうか?
岩佐 それはないでしょう。僕らは、農業生産法人を魚沼で初めて作ったということで、地元の人からは「外資」という呼ばれ方をしていましたから、ちょっと変わったことをする外から来た人たち、という見られ方はされていたと思いますが。僕らも、最終的には魚沼の地域全体が良くなっていかないと、意味がないと思っているし、がんばっている人だけ救えばいい、という考えは持っていませんから。
編集部 なるほど。それにしても「外資」ですか?
岩佐 「米」は日本の食糧ですから、従来からとても保守的で閉鎖的な環境にあるものなんです。例えば、米農家は、外国人研修生の受け入れをしていません。制度がないのです。日本の稲作制度は守らなくてはいけないもの、という考えからのことでしょう。僕も日本の米は、守らなくてはいけないと思っていますよ。だから市場の安売り競争の中で、値崩れを起こしてほしくないのです。そうなると、どうしても米づくりが雑になってしまう。当然お米の味も落ちます。
編集部 でも米の輸入が自由化されたら、安い輸入米がどっと日本市場に入ってきますよね。
岩佐 僕はそうなったら、逆においしいお米を日本から世界に輸出していくべきだと思っていました。日本の米は、抜群に旨いんですよ。確かにカリフォルニアで作っている「こしひかり」もそこそこには美味しいけれど、新潟、福島、山形で作られている米は、他の地域でそう簡単に作ることができない高品質の米です。特に福島は、有機栽培の技術も圧倒的に進んでいます。日本食ブームも背景にあるので、寿司だけでなく、「おにぎり」を輸出したいと考えていました。日本のお米の一番のポイントはあのもちもち感で、冷えてもおいしいところです。
TPPの是非の議論もあるけれど、いつかはいやがおうでも市場は開放される。ならばその時には日本の美味しいお米を、海外への輸出品として打って出る。それは、日本の米価の値崩れを防ぐことにつながるはずだ。その時に日本の食糧基地になるのは、間違いなく新潟、福島、山形を中心とした東北だろう。そういったことを、自分たちも米作りをしながらいろいろ考えて、仕組みづくりもやってきたわけです。その下準備の最中に3・11が起こったのです。当然、これらの計画は、すべて吹っ飛びました。