この人に聞きたい

憲法審査会を、もっと広い憲法論議の場に

南部 憲法審査会にしても、本来は改憲についてだけではなくて、もっと「憲法」全体に関わる幅広い議論の場であるべきものです。世の中の、さまざまな憲法に関する問題を取り上げて、論点を整理して、「憲法に違反していないか」をチェックする。人が休んでいる間も、憲法は24時間、365日機能し続けています。憲法に立ち返って、いま政治に何が足らないのか、問い続けること。それが審査会の一つの大きな役割だと思うんですが。

編集部 具体的にはどういったことでしょうか?

南部 例えば、大阪市で制定された、「職員の政治的行為の制限に関する条例」。私は、ああした条例が生まれてくること自体も、憲法論議のサボタージュの結果だと思います。
 2月に、大阪市でも原発市民投票条例案が直接請求されました。私はその案の作成にも携わったのですが、中に「市の職員等が行う市民投票運動に関し、公務員法の政治的行為の制限規定の適用を除外する」という条文を設けたんです。条例案を作成したときには、直接請求までに、憲法審査会で先の二番目の宿題が済むことを見越し、例の適用除外条項を準用することを考えていたのですが、結局それは叶わず、その条文は法律の根拠がなく地方自治法違反だと、市長の反対意見が付きました。
 他方、今回の「職員の政治的行為の制限に関する条例」は、市の職員には地方公務員法に定めがない政治的行為まで、国家公務員並みに規制を拡大する内容です。公務員の政治的行為に関して、それを自由にする条例案は法律違反といいながら、規制を強化する条例はなぜ法律違反にはならないのか。この矛盾については、在阪メディアも含めて、誰も指摘していません。憲法の観点から、筋が通っているのかいないのか、はっきりさせるべきでしょう。
 国会がそのあたりの論議をきちんとやっていれば、多少は歯止めになったかもしれない。もちろん、永田町で直接的に大阪の条例案について審議するわけにはいきませんが、憲法審査会で日本国憲法と地方公務員法の解釈についてきちんと議論することができていれば…。

 あるいは、原発住民投票。都民投票条例については、30万人以上の署名が集まったにもかかわらず、議会に否決権があるために一日の議会で否決されて終わってしまうというのは、憲法から見ると地方自治法の欠陥じゃないかとか。アメリカ各州の間接イニシアティヴのように、必要署名数が集まれば、議会が否決したとしても、少なくとも住民投票は実施すべきです。
 また、今話題になっている生活保護の問題などもそうですね。財源が厳しいからそこの支給を切り詰めようというのは、憲法25条に違反しているのではないのか。そういう一つ一つの問題を、憲法に照らし合わせてチェックしていく役割が、審査会にはあると思うんです。
編集部 審査会の委員自身が、「あの問題を検証しましょう」と提案して議論する。もしくは、市民の側が「この問題を議論してよ」と働きかけることもできるんですよね。

南部 もちろんできます。請願には制限がありませんから、別に憲法改正原案に関することでなくても構わないんですよ。

 人間が寝ている間でも、心臓や肺はちゃんと動いていますよね。それと同じで、憲法論議というのは「改憲」といった、事態が大きく「動いている」ときだけに求められるものではありません。およそ立憲主義の政治体制をとっている国として、ちゃんと現実に憲法が守られているかということを確認する意味でも非常に重要なものです。最低限の仕事だと思うのです。それを、内閣法制局だけに頼るのではなくて、国会で少数会派も含めて議論をして、権威ある憲法解釈を培っていく、それは国会議員1人ひとりにとって、当然の仕事といえるのではないでしょうか。

(構成・仲藤里美 写真・塚田壽子)

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