憲法論議を
「サボタージュ」してきた
日本の政治
編集部今、次の総選挙のテーマの一つは「原発」だという声がありますが、おっしゃるとおり、原発の是非というのは選挙のプロセスでは、必ずしも有権者の意思が反映された結果が出ないテーマだと思います。その認識のもとで、例えば国会議員の中から「まず諮問型の国民投票をやるべきだ」という意見は出てこないのでしょうか?
南部 国会議員1人ひとりに、自分たちは憲法の命令を受けて、憲法に従って仕事をしているという意識があれば、そういう声が出てきてもおかしくないと思います。しかし実際には、国会見学の延長みたいな感覚で登院している議員が非常に多い。質問主意書も1回も書いたことがない、議員生活3年目なのに議会での質問回数は1〜2回、そういう人がかなりの数、いるわけです。議員立法を一度もやったことがない、その手続きさえ知らないという人も想像以上に多いのです。憲法政治を超越した世界の住人と称すべき、そういう経験値の低い人たちが、いきなり「立憲主義を守るために」とか「有権者の意思を反映するために」みたいな発想には立てませんよね。現時点ではおそらく、原発国民投票に対して党として反対だ、賛成だ、といった意見もまとまっていないんじゃないでしょうか。
編集部 前回の「立憲主義という言葉さえ議論の中に出てきていない」という話ともつながると思いますが、どうしてそんな「レベルの低い」状況になってしまっているのでしょう?
南部 一つ、今の状況に影響を与えているのかなと思うのが、特に東日本大震災以降、法律のつくり方が圧倒的に変わってしまったことですね。
復興基本法、東日本大震災事業者再生支援機構法、国会事故調の設置法、再生可能エネルギー特別措置法、大阪都構想法(改正地方自治法)なども全部そうなんですが、民自公中心としたメンバーによる「実務者協議」といって、各党から数人がちょこちょこっと集まって、そこでもう政府案の修正協議を全部やっちゃうんですね。議事録にも残らないし、立法者意思が確認されないままにいろんな法律ができちゃっているというのが、今の永田町の状況なんです。ねじれ国会を乗り越える知恵としてはいいのかもしれないけれど、そうした閉鎖的なところでどんどん法案がまとめられてしまうのはどうなのか? という問題がありますよね。立法事実をどう取捨選択し、評価したのか。立法過程を事後検証しようとしても記録はないし、担当した議員が落選してしまうということになれば、確かめようがありません。
編集部 法案を国会で審議しているようでいて、実は場外で内容がほぼ決まってしまっている・・・。
南部 昨今、そういう例ばかりなんです。結果として、立法府の一員としての仕事に関われない議員がどんどん増えている。経験値もいっこうに上がらない。そんな状況で、憲法論議どころではないんですよ。憲法改正が党是のはずの自民党ですら、4月に憲法改正草案を出した後、一度も党内でそれについての議論をしていませんからね。条文の有権解釈すら示されていないんですよ。それでもって国民的論議とか国民運動とか、誰も信用しないでしょう。
そうしてずっと憲法論議を「サボタージュ」してきたことが、今いろんな形でツケになって出てきていると思います。原発国民投票のような、大きな意思決定プロセスをつくろうというときに、政治家が誰も手を挙げない、市民の側も誰に相談していいのかわからない、というのはまさにそうですよね。