先日、愛知県で、ある弁護士が国を相手取り、「秘密保全法」を巡る情報開示の徹底を求めて提訴したとのニュースが伝えられました。成立すれば、国民の知る権利や報道の自由が厳しく制限されるともいわれるこの秘密保全法、 いったいなぜ制定されようとしているのか? そして、その危険性とは? 伊藤先生に詳しく解説いただきました。
あらゆる秘密、あらゆる行為、
あらゆる人を対象とし、
あらゆる人権侵害の恐れのある制度
編集部 秘密保全法については、マガ9の連載コラムにおいて、「国家の情報を秘密にする【秘密保全法】」として、その危険性について述べられています。また伊藤塾ホームページにある、第203回の「塾長雑感」にも、メッセージを出されていますね。
改めて、秘密保全法がどういう性質の法律で、何が目的なのか、そして国民の側からみた問題点について、お聞きしたいと思います。
伊藤 秘密保全法制には大きな問題がいくつもありますから、私も東京弁護士会の憲法委員会や日本弁護士連合会の憲法問題対策センターにおいて、弁護士間で問題意識を共有できるようにレクチャーを行ってきました。
まず、憲法上の大きな問題として挙げられるのは、国民の「知る権利」を大きく制約することです。2011年1月に学者による「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)が政府内に設置され、同年8月に報告書が公表されました。その中身を見ると、規制対象が、国の安全、防衛秘密に限らず、外交、公共の安全、秩序の維持に関する情報まで拡大しています。これは「あらゆる秘密」が対象になっているということです。
また、規制される行為は情報の漏洩に限らず、探知・収集行為にまで及んでいるため、正当な取材・報道行為まで処罰の対象となる恐れがあります。つまり、「あらゆる情報にかかわる行為」が対象となっているのです。さらに規制対象は、単に公務員だけではなく、関連する大学や民間企業の従業員、職員の方々やインターネットなどで情報を収集しようとする一般市民も対象になりえますから、「あらゆる人が対象」となります。
そして、秘密保全の手法として、単に違反した人に罰則を科すだけではなくて、適性評価制度というものを導入することになっています。適性評価制度とは、国家の秘密を取り扱う上で、国が不適切であると思う人をあらかじめ排除するものであり、その調査の過程でプライバシーを含めた「あらゆる人権が侵害」される恐れがあるのです。
このように秘密保全法制とは、「あらゆる秘密を対象とし、あらゆる行為を対象とし、あらゆる人を対象とし、あらゆる人権侵害の恐れのある制度」であり、本当にとんでもない法律が今、作られようとしているのだなと強い危機感を持つと同時に、このことを広く市民の皆さんに知っていただきたいと思っています。
特に、公共の安全、秩序維持というところまで網を広げてしまっていることから、私たち一般市民が自分の生活にとって必要と考える情報が、官僚によって規制対象である秘密として指定されてしまうと、それを探し求めたり、調査したりすること、すなわち自らの意思でそれを知ろうとする行為自体が処罰される恐れがあるので、主権者として自ら国家の情報を収集しようと考える市民の活動に大きな萎縮効果を与えてしまうことになります。
例えば、皆さんの関心の高い原発問題で考えてみると、「福島第一原発はどうなっているんだろうか」とか、「建設を再開した大間原発の活断層はどういうことになっているんだろうか」など、本当の情報を入手したいと思ったところで、仮にそれが国民の不安をあおり、公共の安全・秩序の維持を乱すものとして、秘密にするべきだと政府が判断した場合には、一切その情報にタッチすることはできなくなります。具体的には、情報を入手しようとする行為そのものが処罰対象になりますし、共謀、教唆、煽動というような情報取得以前の行為も処罰対象になります。
ですから、インターネットなどで「●●について教えてください」というふうに誰かにお願いをすることも処罰の対象になってしまうのです。国民自身が国家のやり方に疑問を持ち、自分の判断に必要な情報を入手しようとする行為自体を、大きく萎縮させてしまう結果、国民が主権者として行動し、判断するために必要な情報を得ることができなくなってしまうのです。