異例とも言える国会への強い進言
編集部 多数意見の他にも意見があるのでしょうか?
伊藤 はい。最高裁の判決は、通常の地裁、高裁の判決とは違って、裁判官の個別の意見、というものを載せることになっています。これは裁判所法という法律で決められています。憲法79条2項にあるように、最高裁判所の裁判官は国民審査の対象になるものですから、この裁判官を罷免すべきかどうか、の判断に必要な情報として、個別意見を書くことになっています。
今回の判決文では、その個別意見がたくさん書かれています。個別意見には、3種類あって「補足意見」「意見」「反対意見」とあります。「補足意見」というのは、多数意見と結論も理由も同じ。ただ付け加えたいことを書きます。
「意見」は、結論は同じですがそこに至った理由が違うときに書きます。「反対意見」は、意見も結論も違います、というときに書くわけです。
今回は反対意見を書いた人が3人、補足意見を書いた人が3人、意見を書いた人が1人いましたが、これらの中身がとても充実していて、裁判官が本当に真剣にこの問題に取り組まれてきたことがよくわかります。しかも政治部門に対して、相当に強いメッセージを出している。読んでいて、(国会は)「何やっているんだ」という思いがひしひしと伝わってきました。
反対意見の3人の方は皆、(このまま格差を改めないでやったら)次は選挙無効にしますよ、とはっきりと示しています。田原判事においては、「選挙の無効判決の可能性」にまで具体的に言及しており、このような方法をとれば、不都合なく選挙のやり直しも実施できる、という案まで示しているのですから、「選挙無効は、大混乱になるから、実際にはできるわけないよ」というこれまでのイメージを翻し、「選挙無効は実際にできるし、こうやれば社会的な混乱もない」ということを示しています。この個別意見の充実ぶりからも、裁判官の「このままこの不平等を放置させることは、承知しないぞ」という強いメッセージが受け取れました。
しかし、反対意見を書かれた中でも、「一人一票でなくてはいけない」という方がいなかったことが残念です。違憲判決を出した大橋裁判官においても、投票価値の平等について「2倍」という数字を出されて論じていますので、そのあたりは、国会に対して誤ったメッセージを与えてしまう、マイナスな面だとみています。
編集部 見方によっては「2倍なら許容範囲」とも受け取れますよね。
さて、現在参議院の改革案は、国会で継続審議になっておりますが、先生からご覧になっても、この法案は今回の判決を受けて練り直すというか、出し直す必要があるのではないでしょうか。
伊藤 出し直す必要があるでしょうね。最高裁の多数意見が増減ではダメだ、とはっきり言っているのですから。
編集部 しかしまだ、国会の反応はにぶいようですね。
伊藤 議員たちはこの判決文をちゃんと読めていないのでしょう。
編集部
大手新聞も判決翌日は大きくこの判決を取り上げましたが、その後のフォロー記事が少ないようです。司法がこれだけの判断を出したのですから、主権者である国民の側からも、これからいろいろ追及していく必要がありますね。
(聞き手 南部義典 写真・構成 塚田壽子)
その2へつづきます
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