この国のリーダーの無反省、
無責任ぶりが経済をダメにしている
編集部 冒頭の話にもどりますが、今、テレビでも新聞でも各政党の政策を比較する際、経済政策と原発問題は、分けて論じられていることがほとんどですね。そこがそもそも間違っていると。
金子 そうです。そして原発をやらないと経済成長できないという言い方もされますが、まったく逆です。原発を動かし続けたら、経済成長はできません。なぜかというと、僕はブログでも書いていますが、今、日本は20世型の「集中メインフレーム型」から21世紀の「地域分散ネットワーク型」へと、転換していく過程にあります。明らかに、いわゆる分散ネットワーク型経済のシステムへと変わろうとしているんです。
集中メインフレーム型とは、大量生産、大量販売、大量消費することで、コストを削減していくモデルです。人口が増加し経済が成長している時は、それでも物がどんどん売れていく。しかし、人口増加がなくなり経済が成長しなくなると、それだけ買う人が減り、物がはけません。こういうやり方はやがて行き詰まります。
その典型が、スーパーです。かつては、大量に仕入れ、大量販売して、価格を下げた。それで流行ったのが、ダイエーのような大型スーパーであり、「消費者革命」とも呼ばれました。それがある時から、人口が増えなくなって、成長率が落ちてくると、巨大な複合施設を郊外に建てるようになって、30km圏内を吸い尽くすような販売方法をとるようになる。でも今はそれも行き詰まってきています。
編集部 そういう話は全国各地で聞きますね。
金子 その一方で、今やイトーヨーカドーよりも、セブンイレブンの方が全店舗の売り上げ規模は大きくなっています。コンビニは一つ一つは小さな店舗です。でも全国の店舗がPOSシステムで結びつき、レジスターを端末としてデータが本部の大きなコンピューターに集積されて、どこで何がどれだけ売れているかがすぐにわかる。ということは、どこの店舗で何が足りないかが瞬時にわかる。つまりニーズに素早く応えられることで、必要なものだけが仕入れられ、定価で販売できるので成り立つわけです。小規模店舗の場合は、売り上げが不安定だと、普通つぶれてしまうものですが、ネットワーク化されることで、効率がよく、小回りがきくシステムになる。こんな社会がもうすでにあるんです。コンビニを再生可能エネルギーに置き換えればいいんですね。
それなのに、再生エネルギーは不安定だから普及が難しいとか言っているのを聞くと、頭が20年前で止まってしまっているんじゃないかと思うわけですよ。
結局、これからそのエネルギーの新しいシステムをいかに構築するかが、勝負になるんです。再生エネルギーは、特別なことをやらなくても、電源の20%くらいまでは賄えるんです。従来型でも、コージェネレーションで効果的なガス発電と組み合わせたり、蓄電システムを取り入れたりしていけば、できるはずです。ただし、今、ドイツもこの壁にぶち当たっているんですが、その率を35%~50%にあげていこうとすると、新しい送電網のシステムを作らなくてはならない。太陽、風、バイオマス、小水力…一つひとつでは小規模で供給が不安定だったりコストが高くついたりするかもしれないけれど、それをネットワークで結びつけ、需要と供給のバランスを瞬時にコントロールできる、賢い送配電網(スマートグリッド)を開発するんですね。
原発を立てるという集中メインフレームでは、リスクの分散ができないわけですが、ネットワーク型でひろまっていくと、リスクが極小化していくわけ。そういう仕組みを技術的にもどう突破できるのか、というのがこれからの課題。まだ始まったばかりで、次の段階にこれから日本がどんどん入っていけるかどうか、なんです。こういうシステム構築をしていくことが世界の競争の的になり、次世代で勝つことにつながるんです。
もちろん、スマートグリッドがすぐに整わないからといって再生可能エネルギーが普及できないわけではない。スマートファクトリー、スマートハウスが集まった、スマートシティ構想など、創エネ・省エネ・蓄エネと結びついたシステムが、点や面で徐々に広がっていくんです。そこは電機産業、IT産業、住宅産業などが新しく伸びていける分野です。しかし、背後ではビックデータを集積できるスパコン、そのデータを使ってソフトやコンテンツを開発する技術者の力とそれを引き出す国家戦略が、求められている。ところが、今、日本企業は、半導体にしても、台湾企業の下請けになってしまうぐらい、衰退してきている。先ほど述べたように、小泉構造改革の時の、バブル志向の「IT革命」の失敗が今も響いているわけです。だから今こそ、新しい経済と社会システムに転換させなくてはならないんです。
編集部 だから「スパコン」が2位ではだめだったんですね。
金子 当面の金融緩和と公共事業とで生き延びて、先に死んでいく年寄りはいいかもしれませんが、後に残った若い人たちはどうするんですか? 原発を残すということは、新しい産業の芽もない、世界の動きからすっかり取り残された荒野に若い人たちを放り出し、このまま日本が滅びる道を選ぶ、そういう選択なんですよ。
「脱原発、もうかりまっせ」
編集部 脱原発を言う方が、金融緩和を言うより、理にかなった経済政策と言えるわけですよね。
金子 そうです。理にかなっています。でも脱原発を言う人は、安全性のことばかりで、経済問題と絡めて話をあまりしませんね。多くの人が、「経済性より安全を優先しよう」と言う。「福島は原発の事故を受けて、あんなにひどいことになってしまった。経済成長は多少犠牲にしても命の方が大事でしょう。だから脱原発しましょう」と。私からいえば、その論理はまったくちがう。原発をやめることは、21世紀型の経済や社会システムを作っていく転換なんです。
福島の人がかわいそうとか、原発は事故が起きると危ないからということだけではなく、原発を続けていたのでは、そのうち日本が沈んでしまうんです。そういうロジックで、原発問題を考えていないから、経済政策と原発問題が別々のものとして扱われてしまうんです。
編集部 マスコミの印象操作もありますけれどね。日本未来の党は、脱原発だけれど、経済政策は未知数だとか…。
金子 どうして、エネルギーを変えることが経済政策なんだ、と言えないんだろう、とも思います。今、多くの原発反対を言っている人たちは、倫理的な見地から怒っている、それ自体は正しいことです。でも、それだけでは持続性が持てないし、多数派にもなれない。脱原発をしないと、経済からみて日本の未来はない、というところまで言っていかないとダメなんです。
編集部 地震が起きなくても、たとえ原発事故が起きなくても…ですね。
金子 私は昨年の8月に『「脱原発」成長論 新しい産業革命へ』(筑摩書房)という本を出しています。私としては、10年前から考えていたことなので、今こそこの考えをみんなが理解してくれるだろう、と思ったのですが、これが思ったほどには売れてない…出すのが早すぎたのかな(苦笑)。
編集部 成長なんてしなくても、いいじゃない、という考えもありますね。
金子 これだけ若い人の雇用の場が失われている現状があって、そんなことを言う人の神経が私はわからない。結局、それは公務員だったり、大学の先生だったり、年金生活者だったりなんです。自分は困っていない人の発言だと思います。「経済成長」という言葉が嫌いなら、「みんなが働ける場所を作ろう」でもいいですよ。バブルのような成長を言っているわけではなく、みんなが生業を成り立たせることができるように、環境にやさしい方法で、経済はちゃんとまわしていこうよ、と言っているのです。イノベーションは、絶対に必要です。私は江戸時代にもどりたくないし、清貧の思想は好きではないですよ。
原発産業に代表されるような、集中メインフレーム型の経済システムはもう断末魔の状況にあります。脱原発は、単に地球環境のことだけではなくて、経済や社会も持続可能にするものなんです。ビジネスチャンスが生まれ、イノベーションが生まれるんです。スマートグリッドが新しいインフラになり、皆が電気を作って儲けることができる。耐久消費財もスマート化していく。たとえば、電気自動車の普及で新しい技術開発の余地は多いし、食べていける人が増える。スマートハウスで建築や改修の需要が増え、住宅メーカーや電機メーカーの人たちの雇用が増える。そうやってこれからの若い人たちが食べていくことができる機会を増やすことです。
編集部 二者択一ではないですよね、利益ばかりおっかけるのか、清貧を選ぶのか? ではない。
金子 自民党、維新の会、みんなの党が、有権者をくすぐっているのは、「とりあえずあなた個人はもうかりまっせ」ということなんです。自己責任論もそうですね。「これがリアルな社会の論理だ」といっているわけです。しかしこれからは、社会に貢献することで生業を成り立たせていくような公共的な思想の入った資本主義が大事になっていく。そのスタンスに立って「脱原発はもうかりまっせ」なんです。
編集部
なるほど。でももう選挙まで日がないですね。「脱原発はあなたも、社会ももうかりまっせ」を広めていくことにします。
(構成 塚田壽子)