選挙の大きな争点の一つが「景気対策」です。15年以上つづくデフレは、格差を助長し雇用を減らし、若い人たちの就職はますます厳しくなり、閉塞感がただよっています。日本社会が沈没しないために「デフレ脱却」「景気回復」しなければいけないのは、誰の目にも明らかです。しかし、話題になっている自民党の「経済政策」でそれは可能なのでしょうか? 選挙直前に金子勝さんに緊急インタビューしました。
過去の反省のない自民党の脱デフレ・景気対策は小手先だけの経済政策
編集部 最新の世論調査などによると、投票したい政党を選ぶ理由の第1位が「景気回復」で、原発問題は第3位になっていました。また、安倍晋三自民党総裁がマスコミの前で語る「これまでの次元をこえた大胆な金融緩和でデフレ脱却に挑む」という言葉が注目を集めていますが、彼らの政策でデフレ回復は期待できるのでしょうか?
金子 そもそも、脱原発と景気対策などを別に語ったり、世論調査の質問項目を分けることが間違いなんです。それについてはあとでお話しするとして、「日銀の改正法」などを言い出し、「日銀に物価目標達成の責任を負わせるべき」、というようなことを言ってるのは、安倍さんだけでなく、日本維新の会の政策ブレーンを務める竹中平蔵氏を始め、他にもいますが、ほとんどが小泉「構造改革」の失敗組と重なるんですね。自民党時代に行った金融緩和政策と市場原理主義、そしてIT戦略の失敗という組み合わせが、猛烈な格差社会とデフレを生んだんです。
理由は、自分たちの生活状況を考えればわかると思いますが、「構造改革」による雇用流動化政策で雇用が不安定になり非正規雇用が増えて、給料が下がっているのに、モノをジャンジャン買おうってなりますか? 我慢しておこう、生活費を切り詰めようということになるでしょう。量的金融緩和はこの10年間ほどずっと続けてきていました。96年からほぼずっとゼロ金利です。日銀がいくらマネーを供給しても、日銀にある各金融機関の当座預金に積み上がっていくだけです。要するに過剰準備になっている状態です。なぜか? 不良債権処理に失敗して長引くうちに、やがて産業や地域の衰退が進んでいき、雇用の解体で消費も停滞してしまうと、銀行もどこに投資、融資すればいいのか、「信用」でお金を融資する先がなくなってしまっている、というのが現状なのです。こういったことの原因を作り出した、すなわち「構造改革」をあおってきた張本人たちが、責任のがれのためにデフレを全部日銀のせいにしている、という無責任体制が事の本質なんだと私は考えています。
編集部 日本は先進国で唯一、15年間もデフレが続いているそうですね。
金子 その間、信用が回復していませんからね。経済というのは、投資したり融資したり消費したり、そしてローンが膨らんだりしていかないと拡大していかないものです。そもそもデフレを作り出した人たちが、自分の責任をとらないで、日銀のせいだと言っているわけです。わかりやすく言えば、結核にかかっているのに、風邪薬を与え薬がきかないからと、風邪薬をもっと飲ませなくちゃいけない、といっているようなもんなんです。
編集部 治療法が間違っているわけですね。
金子 彼らは広がった格差を是正しなくてはいけないとか、一言もいわないでしょう。で、景気が悪いのは日銀のせいだといっている。ただ、これはわかりにくいでしょうね。お金をどんどん刷って市中に大量に出せば、なんとなく景気がよくなると思うでしょうし。
編集部 お金が流通し、公共事業をやれば、とりあえず回るのかなとは思いますね。
金子 回らないんですね。ずっと金融緩和はやってきていたんです。でもデフレは続いているでしょう。この「失われた20年」はツケの先送りの繰り返しだったんですね。バブルがはじけて金融機関は不良債権を隠し、貸し渋りをし、その結果中小企業が衰退していった。これが最初の行き詰まりです。で、この状況を克服するために何をやったかというと…景気が悪くなると、公共事業をやって当面もたせる。多少よくなると、「構造改革」路線になる。また景気が悪くなると、公共事業で景気対策です。
「構造改革」論は一種の呪術のようです。「市場に任せれば、自動的に産業が生まれ、競争によって新しい企業が生まれてくる」という、「風が吹けば桶屋が儲かる」というようなロジックですね。でも現実は悲惨なものでした。小泉さんは「痛みを伴う構造改革だ。これを乗り越えれば必ず成長がやってくる」と言ったけれど、やってきたのは痛みだけ。この「構造改革」路線を引き継いでいるのが、みんなの党と維新。で、自民党はまた逆戻り路線です。「失われた20年」と何も変わっていない。このままでは「失われた30年」になります。