この人に聞きたい

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司法は、真実の追求を約束しているはずだけど…

編集部 ドラマ作品は、ドキュメンタリーに比べるとわかりやすさが増しますね。

齊藤 事件を知らない人でもスッと入れるわかりやすさは、ドラマの利点の1つだと思います。一方で、わかりやすいだけでは、チープな内容になってしまう。そのさじ加減は難しいところでした。全編通してわかりやすいということは、見ている人が受け身になるんですね。制作者としては、作品を見て「どういうことだろう?」と考えて欲しいところもあるので、せりふの言い回しやナレーションの書き方は、あえて説明しきらないように工夫しました。

編集部 『約束』というタイトルも、ちょっと「なんだろう?」と思います。

齊藤 奥西さんとお母さんの約束、支援者との約束、そして我々と司法の約束。さまざまな意味を込めたタイトルです。司法は、真実を追求する約束をしているはずですが、それが破られているんじゃないかということも含めて、見た方が自由に考え、感じてもらえたらと思います。

編集部 拘置所の面会室で、奥西さんと支援者がアクリル板越しに「次は外で握手しましょうね」という場面は、実話なんですか?

齊藤 そうです。進行中の裁判のことですから、ドラマとはいえ事実を曲げるわけにはいきません。脚本は、膨大な裁判資料と支援者の面会ノート、そしてお母さんの手紙を元にして作りました。もちろん、死刑囚の生活は知り得ませんから、想像で書いたり、えん罪被害者の免田栄さんに取材して教えてもらったりもしました。あと、名古屋拘置所といえば戸塚宏さんが長いこと入っていましたから、彼にアドバイスをもらったこともありましたね。

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(C)東海テレビ放送

「日の当たらない」部分をクローズアップしたい

編集部 戸塚さんも、『死刑弁護人』の安田好弘弁護士も、世間では風当たりが強いですよね。そうした方々の作品を撮るのは、どんな意図があるのでしょうか?

齊藤 多くの人が取材して日の当たっているところより、そうではないところをクローズアップしたい。それは、制作者としてのポリシーです。あまり知られていないことを伝えて、「えー!」と思って欲しいといいますか。毒ぶどう酒事件は、名古屋は地元なのである程度知られていますが、東京ではほとんどの方がご存じありません。”ぶどう酒”という言葉のインパクトで「聞いたことあるような…」という人がたまにいるくらいです。光市の母子殺害事件(注)のときも、世間では安田弁護士を”悪魔の弁護士”などと言っていましたが、実際にどんな人なのかは取材してみないとわかりません。戸塚宏さんも同じです。そうしたグレーな部分に飛び込んでみたい思いもありました。

注:1999年、山口県の光市で発生した殺人事件。容疑者として逮捕された事件。当時18歳の少年に対し、山口地裁はいったん無期懲役の判決を下したが、検察の上告により審理差し戻しとなり、2008年に差し戻し審で死刑判決が出された(2012年に弁護側上告棄却で死刑確定)。被害者遺族の「極刑を求める」発言などが繰り返しメディアで取り上げられたこともあって大きな注目を集め、差し戻し審から弁護を担当した安田好弘弁護士ら弁護団に対する激しいバッシングが巻き起こった。

編集部 テレビドキュメンタリーの「光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~」は、安田弁護士ら差し戻し審弁護団へのバッシングが激しかった頃(08年)の作品ですよね。番組を作ること自体がバッシングされる可能性もあるなか、それでも撮りたかったのはなぜですか?

齊藤 東海テレビとしては、あまり触れたくないテーマだったでしょうね。テレビや週刊誌では”鬼畜弁護団”と言われている人たちを、ある意味で擁護する内容です。視聴者の反響を考えると慎重になりますし、そもそも公共の電波を使うテレビ局は公正中立が大原則です。基本的に、偏った情報を伝えるわけにはいきません。でも、東海テレビには、もともとそういう気質があるんですね。局の中でもかなり賛否がありましたが、最終的にはOKが出ました。

編集部 とはいえあの番組は、特定の主張に肩入れするのではなく、弁護士が法廷で主張していることをそのまま伝えているだけですよね。だけど情報が偏っていると言われてしまうなんて…。

齊藤 それは報道の影響が大きいでしょうね。確かに、被害者の本村洋さんは大変な経験をされていて、味方をしたくなります。でも冷静に考えれば、弁護団は被告人の主張を代弁しているだけで、それ自体は普通のことなんですよね。でも、マスコミの世論形成によって「悪いこと」にされてしまう。そうした風潮に抵抗したかった気持ちもあります。
 一方、毒ぶどう酒事件については、今の段階ではえん罪と決まったわけではありません。それを私ははっきり「えん罪である」として作品を撮っています。私自身、非常に覚悟や度胸がいる作品ですが、局も相当、覚悟しているのだと思います。事件が起きた1961年は、東海テレビが開局した3年後。毒ぶどう酒事件は地元で起きた事件ということもあって、私の前も先輩がずっと追っていました。長い取材に基づいて「えん罪の可能性が高い」という東海テレビとしての主張、そして覚悟があるのです。

編集部 司法をテーマにした作品が多いのは、なにかわけがあるのでしょうか?

齊藤 実はたまたまなんですよ。私には「今の司法はけしからん!」と大声を上げる正義感はないですし、「司法はこうあるべき」という知識もありません。でも、毒ぶどう酒事件の取材を通じて「ちょっと裁判所っておかしいんじゃないの?」と疑問がわいたから「裁判長のお弁当」という番組を撮りました。その次は「検事ってどんな人?」と思って、「検事のふろしき」を撮りました。次は弁護士だ、というときに、光市事件の取材を通じて安田弁護士にたどり着きました。特別、司法にこだわっているというよりは、1つ作ると次のテーマが見つかって、結果的に司法に関する作品が多くなっています。みんなが疑問に思うようなことを、「私が代わりに調べてきましたよ」というスタンスなのです。

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