この人に聞きたい

前作『やぎの冒険』で評判となった中学生監督は大学生になっていました。基地問題に揺れる沖縄の若者たちを活写した『人魚に会える日。』の監督、仲村颯悟さんです。戦後70年、整理縮小が一向に進まないどころか根を生やし居座り続ける米軍基地。若い世代は「基地のない沖縄」を見たことがありません。賛成、反対に割り切れず、葛藤する彼ら。映像の疾走感と内に沈澱する思いの対比が印象に残りました。本作にどのような思いをこめたのか、仲村さんに伺いました。

仲村颯悟(なかむら・りゅうご) 1996年沖縄県沖縄市生まれ。小学生の頃から映像制作を行う。第1回沖縄映像コンペティションに応募した「やぎの散歩」が絶賛されたことをきっかけに、『やぎの冒険』(2010年)で全国デビュー。同作は沖縄県内で大ヒットを記録したほか、上海国際映画祭をはじめ海外の映画祭に正式招待され話題を呼んだ。現在、慶應義塾大学に在学中。最新作『人魚に会える日。』は、すでに14歳の頃に書き上げていたオリジナル脚本を元にした⻑編2作目となる。
本土の大学に進学して

編集部
 最新作『人魚に会える日。』をたいへん興味深く拝見しました。この映画の着想はどこからだったのでしょうか?

仲村
 この映画をつくろうと思ったきっかけは、高校まで沖縄にいて、関東の大学に進学したことです。内側から見た沖縄と、外側から見た沖縄の温度差、違和感を覚えました。内側の人間の思いが組み込まれていないんじゃないか、ならば外側の人間に沖縄の思いを伝えたい、それに映画という手段を選びました。今回に限っては、自分の思いを伝えるのに、小説や芝居などいろいろありますが、一番表現できるのは映画しかありませんでした。映画をつくろうと思ってつくったというより、映画しか手段がなかったんです。

編集部
 前作『やぎの冒険』から5年のブランクが空きましたね。

仲村
 『やぎの冒険』は撮影したのが中学2年生、公開が中学3年生のときで、6年前の作品です。小学生のときから映画を撮り、地域の公民館を借りて上映会を行っていました。身内で収まっていた映画製作だったのが、『やぎの冒険』で大人と一緒に仕事し、あちこちで上映されました。映画の世界が広がっていくのは嬉しかったんですが、自分の知らない人に映画を評価されるということに心が追いついていなかったんですね。素晴らしいと言ってくれる人もいましたが、「どうせ大人が撮っているのだろう」という意見をもらったときに、自分は一生懸命撮っているのに、何でそんなことまで言われなきゃいけないんだ、こんなにつらいのなら撮らなくてもいいや、となってしまいました。

編集部
 『やぎの冒険』のDVDに『「人魚に会える日。」予告編』が特典映像として入っていました。子どもたちがジュゴンを探しに辺野古を訪れていましたが、その子どもたちが成長したのが、本作の結介という設定でしょうか?

仲村
 そうなんです。予告編を撮ったときも中学生で、結局それは完成させられなかったんですが、自分自身、基地問題についての思いをどこかで伝えなくてはいけない、とずっと思っていて、関東に来てその思いが強くなったときに、そういえばあの脚本があったな、と。で、あの子どもたちが大きくなった設定で映画をつくろうと再スタートをしました。

編集部
 ジュゴンに対しての子どもだからこそのピュアな視点と、否応なしに成長して基地問題に直面させられる苦しさが、予告編と本作との違いでしたね。
 「かぎやで風」という、琉球舞踊のおめでたい曲で始まり、衝撃的なカットにつながる。畳み掛けるような冒頭の展開が印象的でした。

仲村
 最初で観客を食いつかせようと思ったので、そこに集約させました。個人的には「つかみはOK」的に。三線を弾ける人がいなかったので、自分で弾きました。

(c)映画『人魚に会える日。』製作委員会

キーワードは「無力」と「犠牲」

編集部
 この映画のキーワードは、「無力」と「犠牲」だと思いました。戦後70年、沖縄の人々は日本やアメリカを向こうにまわして、さまざまな形で抵抗したり、あるいは受け入れたりして対応してきた。本土の人間は沖縄について無責任に言うが、もう十分闘っているのではないか。作中で 川満聡さん演じる山田先生が「もう疲れましたよ」というのは、沖縄の人々の偽らざる気持ちなんでしょうか。

仲村
 鳩山政権の「少なくとも県外」まではあまり知られていなかった辺野古。そこから「沖縄の矛盾」が噴出したわけではなく、戦争のときから、さらに遡れば琉球王国の時代からずっと沖縄の人たちは、アメリカからも中国からも日本からも振り回されてきました。例えば、選挙で結果が出てもその通りにはならないような状況があったり、そこで、自分たちがどんなにもがいても無力なんじゃないかと思い始めているんじゃないか、と思っちゃうところがありますね。登場するキャラクターに共通するのは、全員が「無力」感を抱えているということです。

編集部
 もうひとつのキーワードは「犠牲」です。沖縄に対して辺野座が犠牲になり、日本に対して沖縄が犠牲になるように、犠牲が再生産されてしまっていると感じました。「犠牲」というのは必要なんでしょうか。

仲村
 シナリオを書いているときに最初に思い立ったのが「犠牲」という言葉で、そこから構想を広げていきました。「日本対沖縄」というより、もっと世界的に考えたのです。人類が生活するには自然をある程度は破壊しなくてはならない。今回は主人公のユメとその周りというふうに小さなところで収めましたが、そこに込めたものは世界的なものです。

編集部
 知念臣悟さん演じる良太先生が「屋良ムルチ」(※)の話をしますが、こういった犠牲に関する民間伝承は沖縄には多いのでしょうか?

屋良ムルチ=嘉手納町と沖縄市の境にある沼で、以下のような民間伝承が伝わっている。ここに住む大蛇の禍を鎮めるため、少女を生贄にする慣習があった。ある年、親孝行の娘が選ばれ、年老いた母を遺して池に臨んだ時に天神様が現れ、その大蛇を退治した。これを聞いた王様は喜び、娘を王子の妃に迎え入れ、娘は母と一緒に幸せに暮らした。

仲村
 生贄を捧げるという慣習や民話はけっこうありますね。豚を海に沈めることもあったそうです。これは沖縄だからこそリアリティがある、何かを秘めた島なんだろうな、と思いますね。

(c)映画『人魚に会える日。』製作委員会

沖縄ばかりがなぜ問われる?

編集部
 基地が普通にある日常。作中でも「基地はあったほうがいい」という女の子も出てくる。本土の人間が考えるほど沖縄の人々の基地に対しての感情は単純ではないということでしょうか。

仲村
 メディアを通すと「賛成派」「反対派」だけになってしまいますが、世代によってもさまざまです。実際に沖縄戦を体験し、土地を奪われた僕たちの祖父母は、戦争反対、基地反対。50代くらいは米兵がらみの事件を知っている一方、米軍がいるからこその景気がよかった過去も知っています。
 僕らの世代は生まれたときから基地があって、基地のない沖縄を見たことがありません。本土から見ると、そのさまざまな思いが二極化されていますが、「賛成派」の中にも、「容認」と言い続けている人がいるように、賛成派にも反対派にもいろいろな層がある。その思いを、沖縄で育ってきた者として伝えたい、という…。

編集部
 一言で「基地問題の解決」というが、そう簡単なものではない、ということでしょうか。

仲村
 そうです。「基地のない沖縄」が本当に平和なのか、実際に基地のないところを見たことがないもので…。中国が攻めてくるかもしれないと言われたり、あるいは基地があることで狙われるかもしれないと言われたり…。どちらを信じるのか、このような状態に置かれているのは「沖縄だけ」になってしまっている。「じゃあ、あなたはどちらを選択するんですか」と問われる状況に沖縄だけが置かれてしまっている状況を、同じ日本の中でもっと考えていくべきなんじゃないかと思います。

大学生だからこそ生まれた作品

編集部
 本作はクラウドファンディングでの資金調達をされていて、学生応援団の結成など、盛り上がっているようですね。

仲村
 おかげさまでクラウドファンディングでは目標額以上が集まりました(現在は終了)。沖縄県内で活動してくれている学生応援団は、直接制作に関わっていない人たちなんですが、ありがたいです。

編集部
 出演している高校生以外の人たちは沖縄県内のメディアや舞台で活躍している錚々たる面々でしたが、どういう形でキャストを決めたんですか?

仲村
 脚本を書いているときから、この役にはこの人だという感じで宛て書きして、自主制作でお金もない中、直接連絡を取りお願いしたところ快諾していただき、第一希望の皆さんが揃いました。キャストの多くは芸人さんなので、人間観察を普段からやっているのだろうなと思うくらい、凄みを感じましたね。その人物のバックグラウンドの表現や、間の取り方などもすごく上手いなと思いました。撮影時期も短かったので、実力のある方に、というのもありました。これまでの付き合いもあるので、こちらの思いを汲み取ってくださったと思います。

編集部
 どのくらいの撮影期間だったのですか?

仲村
 大学の夏休みの2週間です。早朝から夜中まで、という感じでした。沖縄は天気も変わりやすく、本当に大変でした。キャストの皆さんは優しいのですが、マネージャーさんにいつも怒られていましたね。毎日謝っていました(笑)。

(c)映画『人魚に会える日。』製作委員会

編集部
 監督・撮影・脚本・編集の4役でしたが、いま振り返っていかがでしたか。

仲村
 いやー、もうやらないぞ、という感じです(笑)。
 キャストのうち高校生役には、スタッフの年齢が近い分、その頑張りがかえってプレッシャーになってしまったかもしれませんが、皆でつくりあげているという感じ、一体感がものすごくありました。
 また、宣伝に関しては、先ほどの学生応援団がチラシまきやポスター貼りの宣伝もやっていますが、若い僕らの世代が最初から最後まで関わることで、皆がどんどん作品を好きになっていってくれているのは嬉しいですね。

編集部
 基地問題を描いた最近作というと、仙頭武則監督の『ナッシングパーツ71』がありました。この作品も、また『アコークロー』『ハルサーエイカー THE MOVIE エイカーズ』などで知られる岸本司監督の作品も、映像としても切れ味鋭い印象です。沖縄の映像独特の感覚を仲村監督は受け継いでらっしゃるように思いました。

仲村
 沖縄で試写会をやったときに、『アンを探して』の宮平貴子監督から、岸本監督の感じを受け継いでいる、と言われました。沖縄のいろいろな監督の要素が映像の中に見えたとも。全然そんなつもりはなかったんですが、同じ沖縄出身として何かがあるんですね。

編集部
 『やぎの冒険』では大人のスタッフもいましたが、今回は全員大学生でした。大人がいることでできないこと、逆にできたことはありますか。

仲村
 基地問題を取り上げるに当たり、ここに大人が入ると、「大人が学生を利用した」ように思われてしまうのが嫌で、作品の意味合い自体が違ってしまうような気がしました。確かに大人がいたほうがちゃんとした作品になる気もしますが、大学生だからこそ生まれた作品であり、映像なので、後悔はしていません。

編集部
 作品を見て感じたのは「肝苦(ちむぐる)しさ」(※)。作中でその苦しさに結介は叫びます。そういう気持ちを私は受け取りましたが、それをどう人々に伝えていくかが重要なんでしょうね。県内、県外それぞれどういう人に見てもらいたいですか。

肝苦しい=沖縄のことばであるうちなーぐちで、友人や他の人の苦しみを知ったときに自分の心(肝)までもが苦しい、という意味の言葉。

仲村
 県内なら、自分の親世代に絶対に見てもらいたいです。よく大人から「沖縄の若者は何も考えていない」というようなことを言われるんですが、映画で描いたように考えているし、考えて、もがいて、答えが出ず、分からなくなっている。沖縄での試写会のとき、そういう世代の多くの人から「自分たちも若い頃そうだった、自分たちには何もできなかった」と言われました。沖縄で生まれ育って、20歳を前にして、自分たちの場所をもう一度見つめ直してみようとしたときに、基地の存在に対する複雑な思いを、いま大人になっている人たちも通過してきていると思うので、忘れている感情をもう一回思い出してほしいです。
 県外なら、沖縄の若者が何を考えているのかということは、テレビなどでもあまり報じられません。言葉にできないからこそ映像という手段を使いました。その思いを読み解いていってほしいですね。

編集部
 ラストシーンは、さまざまな解釈ができますね。

仲村
 僕はラストで、「はい終わり」と提示するのは映画じゃない、と思っているので。『やぎの冒険』のときにも、「あのヤギは食べられたの?」とよく聞かれました。あえてそういうことをやりたかった。
 『人魚に会える日。』でもいろいろな見方があるんですが、そうやって考えてもらうことで、いつまでも長いこと引きずってほしいな、と。映画の中だけで完結させるのではなくて、見終わった後、あのラストは何だったんだろう、と、自分なりに沖縄について考えてもらいたいと思います。

(構成・写真:マガジン9)

仲村颯悟監督
『人魚に会える日。』

2月21日(日)より沖縄・桜坂劇場(那覇)、27日(土)より、よしもと南の島パニパニシネマ(宮古島)ほか全国順次公開。東京では、3月3日(木)〜7日(月)にユーロライブ(渋谷)で限定公開されます。
公式サイト http://www.ningyoniaeruhi.com/

 

  

※コメントは承認制です。
仲村颯悟さんに聞いた
沖縄の若者の複雑な葛藤を、
映画でこそ伝えたい
」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    『人魚に会える日。』の主人公は、生まれたときからある米軍基地を当たり前のように思って暮らしてきたユメ。美しい海が基地で失われるのを気にやんで姿を消した同級生・結介を探すことから、物語が始まっていきます。広報宣伝のためのクラウドファンディングでは、目標額の300万円を18日間で達成。沖縄の若者たちの葛藤を、ぜひ映画で感じてください。

  2. 伊東孝知 より:

    映画観ました。観終わって思った感想を補完する内容が書かれていたのがこちらの記事でした。沖縄に寄り添って沖縄を理解するためには、「無力」と「犠牲」という概念があってこそですね。良記事です。

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