木内みどりの「発熱中!」

映画、テレビ、舞台と幅広く活躍してきた女優の木内みどりさん。
3・11以降は、脱原発についても積極的に活動しています。
脱原発への思いや憲法のこと、政治や社会参加についてなど、
日々の暮らしや活動のなかで感じていること、気になっていることを
「本音」で綴っていただきます。月2回の連載でお届けします。

第7回

はい、わたし学習魔です。

 前回のコラム「日本が崩れかかっている」を書いたのは衆議院選挙の投・開票日の午後でした。選挙結果を知るのが怖い…日本が崩れかかっている…と書いたのでした。
 
 で、結果はみなさまご存知の通り。
 あれから10日間。脱原発・再稼働阻止・憲法改正反対と動いてきた方達、みなさまの心はこの10日間でどう変化したでしょうか? わたしは、あの晩、開票速報を知るのも嫌で、夕食をすませてすぐ部屋に閉じこもり音楽漬けになっていました。翌日もその翌日も音楽に逃避、散歩に逃避、焚き火に逃避、暗闇に逃避していました。

 そうだ、あの本に答えが書いてあった…と思い出し、ひと月前に読んだ『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治著/集英社インターナショナル)を読み返しました。

 なぜ、「基地」も「原発」も止められないのか、
 なぜ、こんなにも自民党が圧勝するのか。

 ちょっと、わかりました。でも、ちょっとだけなので、もう一度、用心深く読みました。えぇぇぇっと思うことが書いてある行には赤鉛筆で線を引き、そのページに付箋を付けて読み進めたら、付箋だらけになりました。目から鱗がポロポロ落ちました。

 ほんとになにもわかっていないんだな、この国のことを。わたしは中卒で勉強が足りてないから、基礎知識が不充分。中学高校で学ぶ社会の仕組みの基礎がないから、日本の歴史・経済・社会、いまいち、理解できていない。

 「でも、だったら学べばいいじゃないの自分」と心に自分の声があり、考えがまとまって、身が軽くなりました。そして、石垣りんさんの詩を思い出しました。
 長いけれど引用します。

「わたしの前にある鍋とお釜と燃える火と」

それはながい間
私たち女のまえに
いつも置かれてあったもの

自分の力にかなう
ほどよい大きさの鍋や
お米がぷつぷつとふくらんで
光り出すに都合のいい釜や
劫初からうけつがれた火のほてりの前には
母や 祖母や またその母たちがいつも居た

その人たちは
どれほどの愛や誠実の分量を
これらの器物にそそぎ入れたことだろう
ある時はそれが赤いにんじんだったり
くろい昆布だったり
たたきつぶされた魚だったり

台所では
いつも正確に朝昼晩への用意がなされ
用意の前にはいつも幾たりかの
あたたかい膝や手が並んでいた

ああその並ぶべきいくたりかの人がなくて
どうして女がいそいそと炊事など
繰り返せたろう?
それはたゆみないいつくしみ
無意識なまでに日常化した奉仕の姿

炊事が奇しくも分けられた
女の役目であったのは
不幸なこととは思われない
そのために知識や世間での地位が
たちおくれたとしても
おそくはない
私たちの前にあるものは
鍋とお釜と燃える火と

それらなつかしい器物の前で
お芋や肉を料理するように
深い思いをこめて
政治や経済や文学も勉強しよう

それはおごりや栄達のためでなく
全部が
人間のために供せられるように
全部が愛情の対象あって励むように

 石垣りんさんがこの詩を書いた時期からきっと50年は経過しているから、女性・男性の性差や環境の差は大きいと思う。

 高1で学校に行くことをやめて、役者の道を選んだわたしはこの詩が好きで、石垣りんさんともお目にかかっています。会いたい人と対談していいという企画が、資生堂のイベントであった時、わたしは石垣りんさんを希望、実現したのでした。 それをきっかけに連絡をするようになり、我が家でご飯をご一緒したりもしました。
 亡くなって西伊豆に記念館が出来る時には、りんさんから頂いた手紙を寄付しました。

 いまや、この詩と「表札」という詩は、わたしの精神の背骨になっています。
 そう、だから、絶望などしていられない。りんさんが教えてくれたことを、今こそ、しっかり受け継いでいかなければ。

深い思いをこめて
政治や経済や文学も勉強しよう
それはおごりや栄達のためでなく、
全部が
人間のために供せられるように
全部が愛情の対象あって励むように

 あのおそろしい3・11から、自分の体の中で起きた決定的な変化。政府もマスコミも信用できないから自分の人生の手綱は誰にも渡さない、委ねないという決意のもと、原発を止めるために自分なりにできることはなんでもしてきた、重ねてきた。寄付、署名、デモ、集会、選挙の応援…。

 でも、その結果はいつだってなんとも無残な現実。

 10日前の自民党圧勝という結果には決定的に打ちのめされました。
 政治家は嘘のつき放題、ばれなきゃいいとばかりに愚劣なことが横行、たいせつなことは報道されず正義がつぶされる…。
 こんな世界で子どもを育てていくの? なぜ? なぜ、何も変わらないの?

 はい、答えはこの本が教えてくれました。
 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
 そう、わたしたちのこの国は独立国じゃなかった、米国の属国だった。
 憲法より日米地位協定の方が上位にあり、たいせつなことはすべて日米合同会議が決めているのだった。

 この本を、ぜひ、読んでください。

 知りたいことが次から次へと、読みたい本が次から次へと、


 
 観たい映画、行きたいイベント、行きたいところ、会いたい人が次から次へと。
 ある人がわたしのことを「学習魔」と呼び、やさしく笑いました。
 はい、たとえ明日死ぬとわかっても行く先に明るい光を見出して、「深い思いをこめて」学習します。だって、昨日知らなかったことも今日も生きて学べば知ることができるのですもの。

 人生は生きるに値する。

 

  

※コメントは承認制です。
第7回 はい、わたし学習魔です。」 に9件のコメント

  1. magazine9 より:

    石垣りんの「表札」は、自分の寝泊りするところ、そして精神のあり方に対しては他人から表札をかけられてはいけない、という内容の詩です。社会は変わっていないようにみえて、3・11で木内みどりさんのように、大きな変化を体験した方もいます。どう生きたいのか、それは一人ひとりが自分の胸に聞いて、行動していくしかないのかもしれません。

  2. 石垣りんさんが大好きで、地元、大田区でもっと石垣りんさんに敬意を払うべきだと言い続けているのですが、なかなか形として実現されません。
    で、「わたしの前にある鍋とお釜と燃える火と」について、ブログで2回言及しているので、紹介させてください。
    「ユーモアの鎖国」というこの詩が掲載された本でのこの詩の本人の紹介なども引用してます。
    http://tu-ta.at.webry.info/200608/article_9.html
    http://tu-ta.at.webry.info/200803/article_19.html

  3. 小林洋一 より:

    「はい、わたし学習魔です。」なんて気持ちのいい、いさぎよいタイトルだ。この感覚こそ三無主義(無知、無関心、無責任)に陥ってしまっている今の日本国民にぜひとも必要なものなんだと思う。
    木内みどりさん、応援していますよ。おすすめの本も私、ネットで話していたフリージャーナリストの岩上安身さんにより知ることができました。一人でも多くの人がこの本を読んでくれるといいですね。そのうえで絶望するのではなく、「絶対あきらめないぞ」との覚悟で、自分にできることをやっていきたいと思います。

  4. Y Inoue より:

    マガジン9 第6 第7回偶然読ませて頂き
    感動しました 今はただそれだけお伝え
    したかったので。。

  5. ろばの子 より:

    最近は、日本でも名のある俳優さんやミュージシャンの方が政治的な発言もしてくださるようになって、心強いです。木内さんのエッセイ、新聞雑誌でも読ませていただいています。
    今回のでは、「自民党圧勝」という言葉が繰りかえされているのにちょっと違和感。マスコミもそんな言い方が多かったのかなと思うけど、ほんとは、自民党は「微減」でしたよね。沖縄は全滅だったし!! それに、投票率x得票率だと、ほんまにたいしたことないのにね。マスコミは当てにならないのが多いなあ。。。。。って感じてます。
    こないだの「シャルリーデモの首脳さん」たちの映像に私もダマサレて、相田さんのブログで真実を知って自分にガッカリしたんですけど、みどりさんが言ってくださるように、学ぶのに遅いってことはない。私の場合、日本の近現代史がとくに弱点、と分かっているんだから学ばなくちゃと、遅ればせながら分かりやすい児童書から手を伸ばしています。

  6. 木内みどり より:

    Y Inoueさま
    読んでくださってありがとうございます。
    続けていきますので、
    また、読みにきてくださいまし。

  7. 木内 みどり より:

    小林洋一さま

    書き込み、ありがとうございます。
    そう、諦めないでできることをしていく。
    できないことはさっさと諦めて、ゆっくり眠る事。
    最近ははっきりそう思うようになりました。
    書いてくださってからひと月近く経ってからのお返事なので読んでいただけないかもしれませんが、
    きっと、いつかは伝わると信じて・・・。

  8. 木内 みどり より:

    Masahide Tsurutaさま

    書き込み、ありがとうございました。
    そう、石垣りんさんのこと、もっと知ってほしいですね。

  9. 木内 みどり より:

    ろばの子さま

    書き込み、ありがとうございました。

    想田和弘さんの描かれることはわたしもいつも注目しています。
    そう、ほんとに、学ぶのに遅いってことはないですよね。
    みんなで「学習魔」になりましょう〜〜〜。

                      ✨

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木内みどり

木内みどり(きうち みどり): 女優。’65年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(’67/NTV)、「安ベエの海」(’69/TBS)、「いちばん星」(’77/NHK)、「看護婦日記」(’83/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(’71/森谷司郎)、『死の棘』(’90/小栗康平)、『大病人』(’93/伊丹十三)、『陽だまりの彼女』(’14/三木孝浩)、『0.5ミリ』(’14/安藤桃子)など話題作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動。twitterでも発信中→水野木内みどり@kiuchi_midori

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