映画、テレビ、舞台と幅広く活躍してきた女優の木内みどりさん。
3・11以降は、脱原発についても積極的に活動しています。
脱原発への思いや憲法のこと、政治や社会参加についてなど、
日々の暮らしや活動のなかで感じていること、気になっていることを
「本音」で綴っていただきます。月2回の連載でお届けします。
第6回
日本が崩れかかっている
ここは、パレスチナの死海のそば、海抜0メートル地点。
死海は海抜マイナス420mの塩水湖。
普通の海水が塩分濃度3%なのに比べ、ここは33%と濃いので人体は浮きます。
魚などいっさいの生物は住めないので「死の海」。たくさんの観光旅行客で賑やかでした。でも、「海」が苦手のわたしには入って行って浮いてみる元気はありませんでした。
「大地を守る会」のツアーに混ぜていただいて実現したパレスチナ旅行ですから、わたしのわがままはご法度、です。死海に行くより市場に行きたい、とか、通りを見通せる角度のレストランに陣取って道行く人を眺めていたい、なんてわがままは、はい、言いませんでした。バスが死海に着いて、みなさんが海水パンツに着替え海に入り、プカプカ浮いてるのを眺めてお荷物番してました。
でも、せっかくの死海。記念にとこんな写真を。
死海で、WORLD WIDE NUCLEAR BAN NOW。
撮ってくださった「大地を守る会」の豊島さんが、こんな写真も撮ってくださいました。
イスラエル軍の若い兵隊さん2人と。
肩に掛けているのはなにしろ本物の銃(カラシニコフとか言っていました)ですから、わたしは心身ともに複雑。ちょっと恐怖でした。
この前日、パレスチナ人が運転する車がイスラエル兵士のところに突っ込み、3人死亡。その場に居合わせた何十人もの人が重軽傷を負ったと、ランチタイムにテレビの生中継で見たばかりなのでした。
イスラエルの教育制度は、小学校6年・中学校3年・高校3年と6・3・3制で日本と同じですが、違うのが徴兵制です。
高校卒業する18歳から、男子は3年間、女子は2年間の兵役が義務づけられています。大学へ行くとしても、兵役を果たしてからなのだそうです。
こんな動画があります。
入隊してから204日間の変化を自撮りした様子を90秒にまとめた動画です。
パレスチナを20年以上取材されているジャーナリスト・土井敏邦さんがつくられた映画『沈黙を破る』は、フツーの若者を「殺人鬼」に仕立てていくプロセスが描かれています。
こんな訓練を受けた若い若い兵士がパレスチナ自治区のあちこちにいます。ほんとに、あちこちにいます。パレスチナ人を見張り、監視し、弾圧しています。
わたしのようなフラリとやってくる「外国人」が珍しいらしく話しかけてきます。「一緒に写真を撮ろうよ」って。
でも、次第にわかってきました。
写真を撮って世界に知らせてと言っているのです。この現実を、イスラエルのやり口を、あなたの国に知らせて、パレスチナの現実に目を向けて、できれば力を貸してほしい…って言ってるのです。
そう、思い出すと、「歓迎の挨拶をしたい」とバスの中にまで乗りこんで話してくれた故・アラファト議長の甥御さん。
パレスチナ自治政府の女性お役人と、去年まで18年も拘束されていて、今も、移動を禁じられているという男性。
占領軍が、他国の国会議員の22%も不当に拘束しているという事実。パレスチナ自治政府の国会議員132人中、29人が何の理由もなく、不当にイスラエルに拘束されているそうです。
AQRABAという村の村長さんも、イスラエル人が侵略してきてどれだけ壊されたことかと、昔の写真と同位置から撮った現在の写真集を見てほしい、伝えてほしい…と。
イスラエル側へのチェックボイントでバスを待っているイスラエル兵士たち。金髪ロングヘアーは女性で、まるでテニスラケットを肩に掛けているかのように自動小銃を持っている。
女子は2年・男子は3年。相手が幼児であろうと老人であろうと、学校であれ病院であれ、「標的」と指示されたものに発射する訓練をされている。
この土漠のような景色の中で会った羊飼いの青年は、わたしを見据えて、こう言いました。
「ここで生きていくのはたいへんなんだ。大学を出たけれど仕事なんてなにもない。いつだって丘の上でイスラエル兵士が監視している。『Cゾーン』のこの地域では時に不当に荒らされるし、井戸を掘るのも許可されない。つまり、出てけってこと。代々僕たちの土地なのにだよ」
時に涙しながら訴えるのでした、このわたしに、です。
キリスト教の聖地に行きたいという亡き母の想いと一緒に旅したかっただけのわたしにも、パレスチナとイスラエルの長い対立の歴史が迫ってきました。
あまりに知らなさすぎる自分に呆れつつ、一枚の写真に狼狽え、涙し、動揺したことを思い出します。
悲惨な写真をたくさん見たガザ攻撃のあの時期、この写真は特別、わたしに響きました。破壊された家の中で母親なのか左手に立っている女性は外を見ている。少女は食べものを手に座っている。静かな静かな悲しみが伝わってくる。
そして、いきなり込み上げるものがありました。
「申し訳ない…、ほんとに、申し訳ない…」
わたしはこの少女と目を合わせることができるだろうか…。
そして、思い出します。
以前、同じように動揺してしまった写真があります。
「焼き場に立つ少年」
ジョー・オダネルという米軍カメラマンが撮影した有名な一枚。この写真を見た時も「申し訳ない、ほんとに、申し訳ない…」とうなだれたのでした。
今、平和なこの日本にいて、温かいお日様の中で書いています。が、ちょっと思い出してみると、あの恐ろしい3・11から、自分の体の中で起きた決定的な変化。政府もマスコミも信用できない、自分の人生の手綱は誰にも渡さない、委ねないという決意の元に、原発反対、寄付、署名、デモ、集会、選挙の応援、自分なりにできることをじりじり続けてきたけれど、なんの効果もないという絶望感があり、つい最近の、身近な友人・北原 みのりさんが不当逮捕されたことで味わった恐怖・・・。
そして決定打となりそうな衆議院選挙。
自民圧勝とマスコミが煽るけれど、自民が圧勝しては、もう戻れない道へ転がり落ちていく、と敬愛する方々が警告し教えてくれている。
12月14日、目前です。
できることをしていかなければ。
平和な日本が崩れかかっています。
イスラエル国防軍に入隊した少年の90秒の動画。楽しい音楽にのせていますが、最初の若者らしい無邪気な笑顔が、次第に硬くなり、ときには泣きそうにも見えるのは気のせいでしょうか・・・。どんな日本にしたいかは、どんな世界を望むのかと同じこと。パレスチナの出来事も、どこかで私たちとつながっているはずです。どんな国にしたいのか、投票する権利が私たちにはあります。
とても素晴らしいレポートでした。ありがとうございます。同じ時間を生きるかの地の人々の息吹を感じました。
イスラエルのユダヤ人とパレスチナ(アラブ)人・・・。イスラエルを思うと、今の日本と同様政治の閉塞状況が続いているのがつらい。私はイスラエルに学生として十数年住んでいたことがあります。パレスチナ占領に反対のユダヤ人もたくさんいます。街角や首相官邸前では平和と和解を訴えるデモが頻繁にありました。私も封鎖されたパレスチナの村に救援物資を届けるデモに友人と参加したことがあります。ユダヤの市民団体とパレスチナの市民団体が共同で行なったものでした。イスラエルには徴兵拒否者連合も活動しています。
つまり言いたいことは! 政府は国民ではない! 政府は、国だ民族だと言って対立構造を作ろうとしますが、誤魔化されてはいけない。どちらの側にも平和主義者と暴力主義者がいます。だから、国同士、民族同士が争うことを許さないためには、平和を希求する者同士が国や民族を超えて手をつなぎ続けることこそが大事と考えます。 対抗するのなら、国対国ではなく、平和主義対暴力主義であるべきです。
イスラエルの人々と風景の写真、とても懐かしかったです。旧市街を散歩したい。イスラエルのユダヤ人・アラブ人、皆の幸福を祈りながら涙します!
吉田よしみさま。
感想を書いてくださってありがとうございました。
感激です。
そう、吉田さんのようにふと心に響いたらそれを相手に伝えるってことが大切、と思いました。
書いてくださったから反応してわたしがこうして書いている。
せっかく「双方向」ツールを手にしたのですもの活用したいです
今、これを読んでくださっているあなたもぜひ、「双方向の人」になってくださいまし。
よしみさん、また、ね。
tabascoさま
丁寧なコメント、ありがとうございました。
イスラエルに住んでいらしたのですね。
十数年!
たくさんの経験をされたことと思います。
怖ろしい現実の前に非力な自分が悲しいのですが、
羊飼いの青年のそむけた顔に涙があったことを知ってしまったのですから、
これからも交流を続けていきます。
それにしても、私たちの国は・・・・・・。
14日の12:41にこれを書いていますが、
20:00過ぎにどんな結果を知るのでしょう・・・。
もう、かなり絶望の気分です。
戦争する国に転がり落ちていく・・・。
パレスチナ人を殺す弾薬のひとつくらいは責任がある、
わたしにもあなたにも。
お元気でいらしてください。
ありがとう〜