木内みどりの「発熱中!」

映画、テレビ、舞台と幅広く活躍してきた女優の木内みどりさん。
3・11以降は、脱原発についても積極的に活動しています。
脱原発への思いや憲法のこと、政治や社会参加についてなど、
日々の暮らしや活動のなかで感じていること、気になっていることを
「本音」で綴っていただきます。月2回の連載でお届けします。

第1回

9月1日はわたしにとって
特別な記念日。

 こんにちは、「マガジン9」読者のみなさま。
 お元気でしょうか。
 3ヶ月前に「この人に聞きたい」でインタビューされた時に「コラムを書きませんか?」と誘っていただいたことがうれしくてお受けしたことが、やっと、実現しました。小さい頃から「言葉」が好きで「ひとり」が好き。2000字から2500字という枠で、あれだこれだと、ひとり悶々とする時間がうれしくて。頑張りますので、どうか、やさしい気持ちで見守ってくださるよう、お願いいたします。
               ***

 原子力の専門家・京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんに初めてお会いしたのが去年の9月1日。東京・日比谷公会堂で「さよなら原発1000万人集会」のイベントがあって、わたしは司会を務めていた。
 会の呼びかけ人、大江健三郎さん・澤地久枝さん・落合恵子さん・内橋克人さん・鎌田慧さんに加えて、この日のゲストが小出裕章さんで、前半に大江健三郎さんが45分講演、後半に小出裕章さんが45分の講演をしてくださった。
 「日本の知性」と「日本の良心」、おふたりはこの国の「宝」だと思った。

 2011年3月11日の福島第一原子力発電所の事故以降、私はテレビ・新聞の報道を信じられなくなり、インターネット上の情報を渡り歩いて、2011年4月初めに大阪・毎日放送「たね蒔きジャーナル」の小出裕章さんの発言に辿り着いた。
 ベント、サプレッションチェンバー、タービン建屋…聞きなれない単語ばかりのお話に慣れていった頃、ふと、気がついた。
 小出さんの声を聴いているとそこだけ「きれいな酸素」があるようで身体がホッと安らいでいる。

 目に見えない匂わない「放射能」に怯えるばかりの毎日。テレビ・新聞は本当のことを知らせてくれないという不安から憂鬱を抱えた時間の中で、小出さんの声を聴く時間が増えていった。iPhoneに「たね蒔きジャーナル」の全部と小出さんが各地でなさった講演(主催者や参加者が講演終了後すぐにYouTubeにupしてくれる) を入れ、なんどもなんども繰り返し繰り返し聴きつづけてきた。

 小出さんのお話を初めて聴いた2011年4月から2年半経過した頃、司会を依頼された2013年9月1日の日比谷公会堂での集会、この日のゲストが小出裕章さんと聞いて、飛びあがるほどうれしかった。
 会える。
 登壇者と司会者だからご挨拶もするし簡単な打ち合わせもする…。

 当日、当たり前のようにご挨拶して、当たり前のように、司会進行させていった、冷静に。
 でも、心の中でこの方とはもうお会いできないかもしれない、これが最初で最後かも…と思い、記念にと、舞台袖の司会者じゃなければ撮れない位置から、パソコン越しの小出さんの姿を撮った。

 会が終了後、幾人かがその流れで国会前まで歩いていって短いスピーチをすることになった。主催スタッフ、鎌田さん落合さんに交じって小出さんもいらっしゃる。
 前になったり横になったりしながら、ふと、信号待ちで小出さんとお喋り、最高にうれしかった。一緒にいた友人の写真家・田村玲央奈さんが撮ってくれた1枚。

・スピーチの順番が回ってきてわたしのスピーチ。

・わたしのすぐ後の小出さんのスピーチ。

 混雑した国会前エリアではぐれそうになりながらスタッフが言いました。
 「ちょっと一杯やりませんか?」
 ええぇっ!

 歩き出した先に小出さんもいらっしゃる。えっ、一緒っ?
 ドキドキドキドキ。

 溜池山王まで混雑の中歩いていって、小さなイタリアンレストランで小さなテーブルを囲んだ。ワインといろいろ。たのしい軽い会話が続く中、心に溢れる言葉を、ついに、言っちゃった。
 「わたし、小出裕章さんオタクです。毎日毎日、聴いています。真似できるほどです」
 小出さんは少し困ったような顔をして笑っていた。

 この記念日から、1年。

 いろんなイベントの司会をやり、新聞にコラムを書いたり、脱原発を表明する候補の応援に都知事選、沖縄名護市長選、鹿児島2区衆議院議員補欠選挙と走り回り、脱原発関連ドキュメントの宣伝にナレーション。
 こんなわたしでも役に立つと思って誘ってくださってるのだからと、怖がらず参加していたら、「NUCLEAR HOT SEAT」というカリフォルニアの核廃絶グループと繋がり、ロンドンの「JAN UK」というグループと繋がり、ついには、ロンドンの日本大使館前で抗議スピーチを英語でしてしまう展開に。

 こんな展開にわたし自身が驚いている。今は亡き父母が知ったらなんて言うかしら…。

 でも、今は、非常事態。できることはしなければ。
 事故は、起きた。人類史上初の放射性物質ばら撒き・汚染水流しっぱなしの最悪の事故。
 何が原因かわかっていない、事故現場にだれも行けない入れない、どの時点のだれの判断が良くなかったのか明らかにしない・させない。だれひとり責任をとらない無責任なこの国の在りように世界が怒り始めていると思う。
 ばら撒かれてしまった毒物は未来永劫、無毒化できない。ここからどこかに移動させても、見えなくさせてもそこには、在る。

 1年前より事態はさらに悪化、深刻になっていると思う。
 福島のあちこちに山積みされているフレコンバッグ。除染の名の下、集められて詰められた土の中から雑草が袋を突き破って繁っている。厄介なものを「ないこと」にして目の前からどけることしかしない愚かな私たち。

 誰でもみな、裸で生まれてきて裸で死んでいく、確実に。
 なにも持ってはいけない、お金も名誉も土地も家も伴侶もこどもも。ひとりで生まれ生きて、ひとりで死んでいく。
 だからこそ、原発・核廃絶を目指して生きて在る間に少しは役にたちたい。

 小出裕章さんは今も毎日、惜しげもなく「きれいな酸素」をくださっている。

☆「ラジオ・フォーラム」で電話越しにですが小出さんとお話をしました。9月19日放送、聞いてください!

 

  

※コメントは承認制です。
第1回 9月1日はわたしにとって特別な記念日。」 に7件のコメント

  1. magazine9 より:

    脱原発について積極的に発言されている女優の木内みどりさんのコラムがスタートしました。
    活動のきっかけとなった小出裕章さんへのあふれる想いが伝わってくるようです。
    コラムにもあるように「大切な記念日」の9月1日に、原稿を届けてくださいました。
    今年6月に「この人に聞きたい」のコーナーでも、木内さんがこうした活動を始めるまでの経緯を紹介していますので、
    こちらもぜひご 覧ください。
    http://www.magazine9.jp/article/konohito/13066/

  2. 原島 富男 より:

    木ノ内みどりさんのことは、「さよなら原発」の行動を通して知りました。私の印象では「とてもまっすぐな方」と感じました。まっすぐ過ぎるくらいです。でもそう言うところが「大好きで」遅ればせながら「ファン」になってしまいました。私も3.11以降「自分の無知」に気が付きました。小出先生の言う通りだと痛感しました。応援すると同時に自分自身もやれることを継続したいと思ってます。頑張りましょう。

  3. 宮前ゆかり より:

    みどりさんの言葉も「きれいな酸素」を生んでいます。地球の裏側で呼吸中。

  4. 木内みどり より:

    原島 富男さま
    コメント、ありがとうございます。
    あの、
    その、
    わたし、木ノ内みどりではなく木内みどりですが、いいですか?
    いいですかというのもヘンですね。w
    お元気でいらしてください。

  5. 木内みどり より:

    宮前ゆかりさま

    あの、宮前ゆかりさんですよね?
    アメリカのシアトルかどこかにお住まいの。
    コメント、ありがとうございます。
    わたしの言葉にも「きれいな酸素」があるとのお言葉、うれしいです。
    小出さんの濃度に比べたら1/100もないでしょうが、2/100を、目指します。
    おやすみなさい〜

  6. 「 きれいな酸素 」 なんて素敵なわかりやすい表現でしょうか! 

    小出裕章先生のお話に触れるときに得られる蘇生感は、まさに、そうですよね。
     
    木内みどりさんと同じく、わたしも小出先生オタクです、札幌へ2011/3/18に避難して以来の。。。

    そして、木内みどりさんのこのコラムでも、「 きれいな酸素 」で一息つけられるのも、感謝です。

  7. 木内みどり より:

    HIROMI ONUMAさま

    札幌に移られたのですね。
    きっとガラリと生活が変わったのでしょうね。
    過密な東京にいると酸素が足りなくなります。

    「 きれいな酸素 」なんて素敵なわかりやすい表現でしょうか!
    ↑ うれしい言葉でした!

    ありがとうございます。

    仰言ってくださったようにここでのコラムにも「きれいな酸素」がありますように。

    またね。
    お元気で。

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木内みどり

木内みどり(きうち みどり): 女優。’65年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(’67/NTV)、「安ベエの海」(’69/TBS)、「いちばん星」(’77/NHK)、「看護婦日記」(’83/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(’71/森谷司郎)、『死の棘』(’90/小栗康平)、『大病人』(’93/伊丹十三)、『陽だまりの彼女』(’14/三木孝浩)、『0.5ミリ』(’14/安藤桃子)など話題作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動。twitterでも発信中→水野木内みどり@kiuchi_midori

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