世界から見た今のニッポン

 ベルリンの地元紙『ターゲスツァイトゥンク』(9月21日付)が「日本人はもううんざりしている。さよなら、原子力――デモは変人がすることと見なされがちな日本で、6万人が反原発を訴えて通りに出た」とのタイトルで、9月19日に東京の明治公園で行われた「さようなら原発5万人集会」を報じた。日本における新しいデモの形としても注目する同記事の抄訳を以下に紹介する(訳:芳地隆之)。

彼らは「さよなら原発!」と叫び、福島第一原発の事業者である東京電力に補償を求めた。デモ参加者は蒸し暑さの中、数時間にわたって東京を行進し、集会において勇気を奮い立たせた。

 主催者側の発表によると参加者は約6万人と過去最高である。警察は非公式で3万人と発表。いずれにせよ、月曜日の日本の反原発運動を担う人々自身がデモの力に驚いた。

 ゆっくり、しかし確実に福島原発事故は国民の精神の奥深くまで迫り、多くの日本人の抵抗の意志を呼び覚ましたようだ。「事故から6カ月が経ち、人々は少しでも真実に近づこうとしている」。福島県から来た反原発デモのスピーカーの1人、武藤類子は世の中の変化についてそう語った。58才の活動家は集会で「私たちは今や、真実が明らかにされず、政府が国民を守らないことを、知ってしまいました」と述べた。日本には原子力を推進する人々は今もいるのである。

 ノーベル文学賞作家の大江健三郎は、イタリアは国民投票で原発の再稼働を拒否したが、日本では原発が推進されようとしているとし、「原発を止める唯一の道は公の集会とデモ」であることを強調した。拍手は同じく集会に参加したドイツ環境・自然保護連盟のフーベルト・ワイガー議長にも送られた。

 世論調査によると日本国民の70%が新たな原発の稼働に反対だという。これまでデモ参加者は極端な思想の持ち主だとみなされてきた。しかし、反原発運動はこれまでとは違うイメージを与えている。参加者のなかには多くの子供を連れた家族や年配者の姿もあった。「私はかつて政治的には受け身な人間でした。でも、いろいろと調べていくうちに懐疑的になってきたのです」。ある主婦はデモ参加の理由をこう語った。また多くの福島県の住民は通行人から励まされながら行進をした。

 反原発デモの要求の中心は、健康の不安から移住した原発周辺の住民すべてに対しての補償である。現在、東京電力から補償を受けているのは原発から半径20kmの地域、もしくは特に汚染のひどい地域の住民に限られている。そしてデモ参加者は新たなエネルギー政策を日本政府に迫っている。「省エネを伴った再生可能エネルギーへの参入、日本でもエネルギー政策の転換を実現させる」とフレンズ・オブ・アースの吉田明子は言う。

 これは下からの運動だ。警察はこれまでのように、デモ参加者を長い時間待たせ、狭い空間に押しとどめようとした。日本で最大の購読数を誇る読売新聞はデモについて小さな記事を載せるだけだった。しかし、この勢いは止まらない。「私たちは転換期にいる」と語るのは政治学者の森田実である。人々のなかには、自らの力で、共同体の力で立ちあがらなければならないという意識が生まれた。反原発運動の次なる活動は、脱原発を求める1,000万人の署名を集めることである。

 

  

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第57回サヨナラ、ゲンパツ」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    原発事故から半年。
    6万人を集めた集会の様子を、世界各地のメディアが大きく取り上げました。
    こちらにそのリンク集があります)
    日本がこれから、どんな道を選択していくのか。
    私たちがどんなメッセージを発していくのか。
    世界から、注目が集まっています。

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