カエルの公式

 こんにちは。

 今日7月10日は、国際環境NGOグリーンピースにとって重要な日です。

 28年前の今日は、グリーンピースの環境保護活動を支え続けてきた船「虹の戦士号」が、フランス政府のスパイによって爆破・沈没させられ、ボランティアのカメラマンが一名亡くなった日です。

 「え! 爆破??? そんなことあるわけないでしょ」と言われるかもしれません。しかし、その信じられないような出来事が28年前の今日、起きたのです。

 1985年7月10日、虹の戦士号は、ニュージーランドで、フランスの核実験への平和的な抗議活動の準備をしていました。このとき、フランス政府は虹の戦士号の活動を阻止するため、ボランティアを装って女性スパイをグリーンピースに送り込み、虹の戦士号を爆破、沈没させたのです。

 その後フランス首相が、スパイ活動であったことを認めて一大スキャンダルに発展。グリーンピースはフランスから賠償金を受け取り、そのお金を「虹の戦士号II世」の購入にあて、世界中の市民と一緒にフランス核実験への抗議を続けることを選びます。そして、1996年にその核実験を停止に追い込むのです。

 この時に掲げていたメッセージが、「You Can’t Sink a Rainbow (虹は沈められない)」で、グリーンピースが掲げたメッセージの中で私が最も気に入っているうちの一つ。

 グリーンピースの「不公正な社会に対して妥協しない姿勢」をよく示しているなーと思っています。

 ちなみに、この爆破事件は、『スパイ・バウンド』という題名で映画化もされています。

ストーリーで伝える

 最近にはじまったことではないですが、さまざまな場所でグリーンピースについて紹介することがあります。

 そんな時、私が気を付けているのは、できるかぎり物語(ストーリー)でグリーンピースを伝えるということです。上記の虹の戦士号爆破事件もそうですが、人々の興味・関心を引くにはストーリーが不可欠だと感じています。

 ということで、今日は、「物語」によるコミュニケーションの必要性についてお話します(今回は特に、自分ができていない分野なので、自戒を込めて書いています)。

 それでは試しに、以下の文章を声にしながら読んでみてください。

 「グリーンピースは、世界40か国以上で活動する国際環境NGOです。企業からも政府からも独立した市民の立場で活動するために企業からも政府からも支援を受けず、個人からの支援で活動しています。目に見えない環境破壊の現場を世界中に伝え、行動を起こすことによって環境問題を解決に導いています。」

 どうでしょうか? この説明を聞いて、あなたの頭の中にグリーンピースという団体のイメージが描かれましたか?

 それでは、以下ではどうでしょうか?

 「1971年、カナダのバンクーバーに、アメリカによるアラスカ沖での核実験を止めたいと強く願う数人の若者たちがいました。彼らは、船をチャーターして実験海域に行けば核実験を実行することはできないはずだと思いつきます。おんぼろ船で核実験に対峙しようと出航した無鉄砲な若者のニュースが報じられると、北米全土で彼らを応援する世論が瞬く間に拡大したのです。その世論の広がりを受け、結局、米国政府はその海域での核実験の中止を宣言します。数人の若者が実現したこのサクセスストーリーこそが、目に見えない環境破壊の現場を世界中に伝え、市民と一緒に行動を起こすことによって環境問題を解決に導こうと活動するグリーンピースの原点です。」

 今度はいかがでしょうか? 

 グリーンピース設立の物語を通じて、当時の情景を頭に思い浮かべながら、グリーンピースの価値観である「行動力」「現場主義」などがイメージしやすかったのではないでしょうか。

共感はストーリーで生まれる

 昔から、大事な教訓は、物語を通じて伝承されてきました。

 身近な例で言うと、「ウサギとカメ」では「コツコツと努力を積み重ねることが重要」だというメッセージが込められていますよね。これも「コツコツと努力を積み重ねることが重要だ」という論理だけでは、おそらくここまで伝承されていないでしょう。

 NGOや市民活動をしているとどうしても「問題点とその解決策」を伝えたいと論文のような話の展開をしがちで、どうしても小難しくなってしまいます。

 でも、人に「共感」、さらに「拡散」してもらいたいなら、「ストーリー」で話を展開する方が効果的です。

 みなさんの団体やグループにも必ずストーリーが存在します。

 まずは、「誰」が「どんなきっかけ」でみなさんの団体、グループを始めたのかをストーリー化してみてはいかがでしょうか?

 そして、「どんな団体なのですか?」と質問を受けた時に、形式ばった団体紹介ではなく、そのストーリーを語ってみてください。必ず共感してくれる人は増えるはずです。

 その時には、主語を「私」にして語るとより「共感」を得られると思います。

 グリーンピースのホームページで、3・11以降にいろいろな問題について立ち上がった人たちのストーリーをお伝えしています。第3回目は、千葉県で水産加工業を営む大野さんのお話です。漁師としての苦悩、そしてそれに負けない思い、ぜひご一読ください。

 

  

※コメントは承認制です。
第29回「虹は沈められない」
―ストーリーが「共感」を呼ぶ―
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    どんなに小難しく聞こえる問題やテーマでも、
    そこには必ず血の通った〈人〉の存在があります。
    理念や理論よりも、その〈ストーリー〉を最初に伝えることで、
    より共感を持ってもらいやすくなる。
    誰かに何かを伝えるとき、心に留めておきたいことの一つです。

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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