カエルの公式

 こんにちは。

 前回は、いかに「見える化」することが社会を変えようとする活動にも重要かという話をしました。

 今回は、その追加として「キャッチコピーの重要さ」についてお話します。

 とはいっても、私もこの分野の素人。ですから重要だとつくづく思いながらも日々試行錯誤しているというのが現状です…。よって今回は、最近の具体例を紹介しながら、私の感想をお伝えします。

 その具体例がこちら。

 MIND THE GAP(“ギャップ”にご注意)というグリーンピースが国際的に開始しているキャンペーンです。でもいったい何を言いたいのでしょうか?想像できますか?

深刻な河川の汚染

 続いて、クイズです。

 こちらの写真、なんだかわかりますか?

 何かの細胞を顕微鏡でのぞいたときのようなきれいな模様ですよね。

 実はこの写真、インドネシアのある川が工場の排水で汚染されている状況を写したものです。

 インドネシアのジャバ島を流れるチタラム川は、世界でももっとも汚染されている川のひとつとして知られています。上の写真は、チタラム川にそそぐ上流の川で撮影されました。

 チタラム川は、何百万人の生活を支える重要な川ですが、その汚染は深刻です。


 川に浮かぶゴミなど、目に見える汚染もとても深刻ですが、状況を深刻にしているのは、上流に存在する工場からの排水です。

 チタラム川の上流にある工場の68%が衣服類を生産している繊維工場です。最初にご紹介したピンクに染まる川の写真もそのひとつで、PT Gistexという企業の繊維工場の排水を写したものでした。

 グリーンピースが現地で排水をサンプルして調査を行ったところ、さまざまな有害化学物質が検出されました。

 詳しくは、グリーンピースのレポート 「Toxic Threads – Polluting Paradise」(英語)をご覧ください。

“ギャップ”にご注意

 みなさんは、このようなインドネシアの川の汚染をどこか遠い国の問題だと思っていませんか?

 しかし、みなさんもよくご存じのGAP(ギャップ)の服がこのPT Gistexという会社の工場で製造されていると聞いたらいかがでしょう。あなたの服のために、川や人々の生活が犠牲になっているのです。

 GAPのお店に並ぶきれいでカラフルな洋服と、インドネシアの汚染された川の写真にはとっても大きな“ギャップ”があります。でも、そこは私たちの目につかないところで確実につながっているのです。

重要なのは、「誰に伝えたいか」

 このような状況を改善しようと、ユニクロ、H&M、Zaraなど世界の17トップブランドがグリーンピースと有害化学物質の全廃を目指して動き出しています。ところが、GAPはグリーンピースからの呼びかけを無視し続けています。

 そこで、グリーンピースは世界中の国々で”MIND THE GAP (ギャップにご注意)”というキャッチフレーズで、GAPに有害化学物質の使用をやめてほしいというキャンペーンをはじめたというわけです。

 「MIND THE GAP」(マインド・ザ・ギャップ)というこの言葉、海外の空港や地下鉄で耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?日本語でいうならば「電車とホームのあいだの段差や隙間にご注意ください」という意味です。繰り返し使われるので、多くの人の頭に残っているフレーズです。

 「GAP」というブランド名が「段差」を意味する「ギャップ」と同じ単語だったことからこのキャンペーンにぴったりのキャッチコピーとして選ばれたわけです。重要なのは、そのメッセージが聞いてもらいたい人の頭に残り続けることです。

 一方で、例えば「繊維工場排水のインドネシア・チタラム川への深刻な汚染状況」というタイトルを使ってもなかなか問題が広く伝わりません。しかし、私たちが社会問題を日本で取り上げる時、どうしてもこの学術論文のようなタイトルで、すべてを説明しようとしがちになりませんか?

 今回のようにGAPの洋服を購入するような若者に「行動を促す」場合には、前者のようなキャッチフレーズで、「なにを言いたいの?」と興味をそそるぐらいが良いようです。

 ちなみに、このGAPのキャンペーンは、現在進行形で行われています。

 大手衣料品メーカーに化学物質による水汚染をなくすことを求める、グリーンピースの「デトックス・キャンペーン」については、こちらからご覧ください。

 

  

※コメントは承認制です。
第24回 “ギャップ”にご注意 - キャッチコピーの重要さ」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    たくさんの人に関心を持ってもらいたいなら、
    やっぱりその「出し方」にも工夫を凝らす必要がある。
    <重要なのは、そのメッセージが聞いてもらいたい人の頭に残り続けること>
    何のアピールをするときにも、参考になりそうです。

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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