カエルの公式

 こんにちは!

 いよいよ東京も冷え込んできました。
 いよいよ今週末に迫った選挙。日本の将来を左右することにもなるのでぜひ自らの意思で投票に行ってくださいね。

 さて、今回は最近グリーンピースの活動で話題になっている事例をご紹介しながら、私たちが”理想”として愛用している「変える」公式をご紹介します。

次から次へと変わる大企業

 ZARAというブランドをご存知ですか?

 そう、スペインのアパレルメーカーであるインディテックス社が展開する売上高世界1位、2位を争うファッションブランドです。

 このインディテックス社が、たったの9日間の交渉でグリーンピースに対して2020年までに有害化学物質を全廃すると宣言し、同社のウェブサイトでもその方針を発表したのです。

 グリーンピースは、約一年間で、同様に世界最大のH&M社、さらにはNIKE、アディダス、PUMA、C&Aなどの大企業からも2020年までに有害化学物質を全廃するとの方針を約束させてきました。(グリーンピースがH&Mに要請して実現した方針はこちらから)

 ZARAの宣言後の10日間で、スペインのMango、そしてつい先週の金曜日には香港のESPRITがさらに厳しい約束をしてくれました。

 それでは、どうやってグリーンピースは次々と大企業にその有害化学物質の取り扱い方針を変えてもらうことに成功したのでしょうか?

北京でファッションショー

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 グリーンピースは11月20日に北京で本格的なファッションショーを展開しました。とは言っても、衣服を売ることが目的のファッションショーではなく、ZARAをはじめとするファッションブランドの衣服に含まれる有害化学物質が、中国などの河川を汚染していることを広く知らせるためのものです。

 このファッションショーとともに、グリーンピースはZARAに有害化学物質の使用を2020年までに全廃するようにと訴えたというわけです。

 このファッションショーの様子は、日本の新聞でも取り上げられていますが、世界中で多くのメディアに掲載されました。

 「ファッションショーで衣類の有害化学物質を警告」(サンケイ 11月21日)

ZARAの店舗の前ではマネキンが抗議!?

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 このファッションショーと時を同じくして、世界20か国、80都市のZARA店舗前でマネキンが有害化学物質の使用をやめてほしいと抗議を開始します。

 「マネキンの抗議?」と思われるかもしれないので、まずはこちらのビデオをご覧ください。

 こぶしを振り上げての「抗議」というイメージとはずいぶん違いますよね。

 無言のパフォーマンスですが、通常とは違う空間をZARAの店舗前に創り上げることによって、通りがかりの人たちは写真を撮るなどして話題にします。これが、FacebookやTwitterに投稿されて「なにこれ」と口コミで広がるというわけです。

ZARAのパロディーサイトが登場

 口コミでの広がりは、大企業にとってみればとても扱いにくいものです。

 そこに追い打ちをかけるように、グリーンピースが用意しておいたのが、ZARAの本物ウェブサイトそっくりなパロディーサイト。

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 ZARAのサイトそっくりに作られたグリーンピースのサイトですが、モデルさんの服装は有害化学物質を象徴するものになっていて、サイトを訪れた人たちはZARAに「化学物質で河川を汚染するのはやめてほしい」というメッセージを表明することができたりするようになっているのです。

 このサイトも北京でのファッションショーとともに、公開されました。

 ファッションショーというインパクトのあるイベントで新聞テレビなどのメディアにニュースとして取り上げてもらい、店舗前でのマネキンの抗議活動で口コミ(バイラル)を巻き起こし、そしてオンラインでのパロディーサイトから消費者のメッセージを企業に伝えることができるようになっているという仕組みが完成したわけです。

 どれもこぶしを突き上げての抗議とは一味違います。なぜでしょうか? それは、ZARAにとっての顧客は「おしゃれでクールなこと」に反応する人たちだからです。企業が一番恐れているのは、その常連客が離れてしまうことですから、グリーンピースはその顧客層に響く話題を提供したのです。

でも重要なのは科学的証拠

 ここまで読んだ方は「ちょっとまってよ」と言いたくなるかもしれません。

 「これじゃあ、企業への脅しじゃないの」との声も聞こえてきそうです。

 実は、目に見えないところで一連の活動を成功に導いているのが「科学的証拠」です。グリーンピースは、ZARAやその他ファッションブランドの衣類を世界中の店舗で購入し、どのような化学物質が衣類に含まれるかをテストしていたのです。

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 これが、グリーンピースが北京でのファッションショーと共に発表した科学調査レポートです。このレポートにZARAなどのブランド衣類から有害化学物質が検出されている現状が詳しく報告されています。(実際の報告書はこちらからご覧ください
 このような科学調査の裏付けがあるからこそ、ファッションショー、マネキン抗議、パロディーサイトなどが効果的になるのです。また、抗議活動が表で展開されているときに、この科学調査を根拠に裏では企業との真剣な交渉が続くという仕組みです。

 日本ではグリーンピースの科学的調査の部分や、派手な活動の裏で行われている地道な交渉の部分がほとんど報道されないので、表面的にグリーンピースの活動が「過激だ」と思う方が多くなっている気がします。

 ちなみにこれもあまり知られていませんが、グリーンピースはイギリスのエクセター大学に独自の研究所を持ち、このような科学調査を専門に行っています。

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(写真はグリーンピース・エクセター研究所)

「理想」の公式

 結局、ZARAは9日間という短い期間で、2020年までに有害化学物質を全廃するという厳しいグリーンピースの要請を受け入れてくれました(インディテックスの発表原文はこちら)。ありがとうございます!
 このような活動が成功に導かれているのは、偶然ではありません。グリーンピースが大事にしている「理想」の公式があるのです。それがIDEAL(理想)原則です。

 IDEALとは、英語で「理想の」という意味ですが、グリーンピースが大事にしている行動方法の頭文字をとったものです。

Investigate (科学的調査をする)

Document  (報告書、写真などの証拠をまとめる)

Expose (公表する)

Act  (行動する)

Lobby (交渉する)

 この原則を知った上で、もう一度ZARAのキャンペーンの概要を読んでいただくと、一連の活動がこのIDEAL原則に沿って行われていることに気付いていただけると思います。

 IDEAL原則は、あらゆる市民活動を行う上でも、とても重要な原則だと思いますのでそれぞれの活動に当てはめて考えてみることをお勧めします。どこかの部分が抜けていると、失敗する可能性がとても高いです。

実は大きな目標の一部の活動

 世界最大規模のアパレルメーカーを次々に変えていくこのキャンペーンですが、企業に変わってもらうことを最終目標にしているわけではありません。

 大企業に変わってもらうのは、有害化学物質による汚染のない社会をめざす戦略の一部です。なぜならこのような大企業以外の企業が、大量に有害物質を使用してしまえばまったく意味がないからです。

 それでは何を目標にしているのでしょうか?

 グリーンピースは、中国などの国々で有害化学物質規制を強化することを目的にしています。そのためには、このような大企業が高い基準を自主的に採用し、中国などの工場で改善を進めることが重要なのです。これが始まれば、大企業自身が、企業の競争力を高めるためにそれぞれの製造拠点のある国々の法律を自主規制なみに高めるように要請してくれます。そうしないと自主規制が高ければ高いほど損をしてしまうからです。

 これでグリーンピースと同じ方向を目指してくれる大企業という強力な味方が出現し、地球規模で有害化学物質を全廃することにつながる一歩になるというわけです。

 最初は批判的なキャンペーンからスタートするグリーンピースの活動ですが、批判することが目的ではなく、このように同じ目的に向かってもらうことでのWin-Winな関係の構築を目指しています。

 このような長期的な戦略を考えて活動しているということも、グリーンピースの特徴です。これからグリーンピースの活動を見る時には、こんな観点からもご覧いただけるとより理解していただけるかもしれません。

 さてこのキャンペーンですが、次はリーバイスに働きかけています。さあ、リーバイスはどうするでしょうか? ご期待ください。

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 このようなグリーンピースの活動情報を知りたい方は、ぜひグリーンピースのメルマガに登録してください。こちらから登録できます。

 

  

※コメントは承認制です。
第16回 社会を変える“理想”の公式はこれ!
グリーンピースの“IDEAL”原則
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    科学的な裏付けがあるからこそ、展開するキャンペーンが説得力を持つ。
    グリーンピースの活動が、単に「注目を集める」ことだけを狙ったものではないことがわかります。
    ここまで大がかりなものでなくても、自分たちで何かの活動をするときの参考にもなりそう?

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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