カエルの公式

 こんにちは。
 今回のカエルの公式は、国内の企業への働きかけについてご紹介する予定でしたが、その前にNGOと企業の関係を考える上で歴史的に重要な事例を紹介するのを忘れていた(汗)ので、そちらを先にご紹介します。

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CSRとは何?

 CSR(企業の社会的責任)ってご存知ですか?
 最近では、ほとんどの企業のWebサイトに行くとCSRや環境・社会活動というページがあります。CSRとは企業が利益をあげることに専念するだけではなく、社会へ与える影響に責任をもち、さらにどのように貢献しているのかを示す取り組みと言われていますが、様々な定義や解釈があります。
 企業の慈善活動やボランティア活動をCSRとしている企業もありますが、私は企業の本業に関連する責任を果たすことが本来の主旨だと思っています。

グリーンピースの活動がCSRの基礎をつくった!?

 今回ご紹介するのは、「企業の環境対策のあり方、特に市民への情報開示、NGOとの対話について、欧州の産業界に少なからぬ影響を与えたもの」と日本の経済産業省も通商白書に記載して紹介した事例です(注:参考文献は、文末にまとめてあります)。
 ご存知の方もいるかもしれませんが「ブレント・スパー」として知られているグリーンピースのロイヤル・ダッチ・シェル社(以下、シェル)に対する活動です。
 1995年に起きたこの事例がきっかけで、企業の間に利益だけではなく「経済」「社会」「環境」という3つの要素を経営に反映し、さまざまな利害関係者に説明すべきだという「トリプルボトムライン」の考えが広まったとされています。

英国シェルが海洋プラットフォームを海洋投棄計画

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 1995年、英国のシェル(以下、英国シェル)が管理する大型のプラットフォーム、ブレント・スパーは老朽化を迎えていました。同社は巨大なプラットフォームをそのまま海洋に投棄することを政府に申請し、了承を受けていました。しかし、グリーンピースがその計画を暴露すると、その処分方法をめぐってヨーロッパを中心に大きな議論がおこったのです。

ブレント・スパーも他のプラットフォームも海に捨てません

 当初、英国シェルは環境にも最善で最も費用かからない廃棄の方法として海洋投棄を計画し、英国政府もこれを許可していました。

 しかし、グリーンピースは、巨大なプラットフォームには、まだ石油や有害物質が残されていたこと、そして、近いうちに役目を終えるプラットフォームが他にも多くあることから、海洋への影響があるとして、海洋投棄ではなく地上での解体を要請したのです。

 海洋投棄を続行しようとする英国シェルの計画を止めようと、グリーンピースはブレント・スパーに船やヘリコプターで向かったのです。

 グリーンピースのスタッフやボランティアが、洋上に高くそびえたつブレント・スパーの頂上にあるヘリパッドに居座ることに成功し、このニュースがヨーロッパ全土に伝えられると、消費者はシェルの態度を変えるために不買運動をスタートしたのです。この運動は瞬く間にヨーロッパ各国に広がりました。

(グリーンピースのスタッフやボランティアが、ブレント・スパーで座り込みを開始する様子。シェルの船がグリーンピースのスタッフやボランティアに放水。この映像が広くニュースで伝わり、シェルに対するボイコット運動が広がった)
 結局、市民の声に押され、ヨーロッパでは海洋投棄反対を表明する政府も現れ、国際議論にまで発展します。そして、ついに英国シェルは海洋投棄の計画を撤回し、ブレント・スパーを陸上で解体し、ノルウェーで埠頭の土台としてリサイクルすることを決定します。さらに、これを機に同様の設備を海に投棄することが国際的に禁止されました。

企業の教訓としてのブレント・スパー

 その後、シェルは同様の問題を起こさないためにグリーンピースと会合を持ったり、グリーンピースのセミナーで当時の経験を話したりするなど、積極的にNGOとの情報交換を行いました。

 さらに、シェルは英国サステイナビリティ社のジョン・エルキントン氏が提唱した「トリプルボトムライン」の考え方を1998年、1999年に公表したシェルレポートという報告書で採用しブレント・スパーの教訓を振り返ったのです。その後、この「トリプルボトムライン」の考え方に基づくCSRレポートが国際的にも国内的にも一般的になってきたというわけです。

緊張感のある企業・政府との関係

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 NGOが企業や政府に向かってはっきりと問題を指摘すること、そして環境を守るという共通の目標に対して緊張感をもって協力し合うことは、これからますます必要とされているNGOの役割だと思います。

 これは、長年グリーンピースが大切にしてきた考え方です。それを実現するために、グリーンピースは、企業からも政府からも財政的な援助を受けず、個人の方々からの寄付で活動をまかなうようにしています。

 詳しくはグリーンピース・ジャパンのウェブサイトをご覧ください。
 次回こそは、国内の事例をご紹介しますのでお楽しみに(笑)。

参考・参照文献:

長坂 寿久(2009). CSR=企業とNGOの新しい関係 (季刊 国際貿易と投資 Winter 2009/No.78)
The Shell Report (1998) Profit and Principles – Does there have to be a choice?
The Shell Report (1999) People, Planet and Profits. An Act of Commitment
Elkington, J. 1998. Cannibals with forks: the triple bottom line of the 21st century business. Oxford: Capstone 

経済産業省 通商白書 (2003) コラム6 ブレントスパー事件

 

  

※コメントは承認制です。
第14回 海はゴミ捨て場ではない! グリーンピースの活動がきっかけで広がったCSR」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    企業も社会の一員である以上、
    利益を追求するだけではなくそれに伴う責任を果たす必要がある。
    その考え方を確立させてきたのは、
    グリーンピースのようなNGOや市民団体の活動でした。
    では、日本国内ではどんな動きが? というわけで、
    次回(こそ)、国内企業への働きかけの事例についてです。

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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