カエルの公式

 2012年の4月から1年間のつもりで続けていたこのカエルの公式。気がついたら、もう2年9ヶ月も経過していました。
 各地で始まっている市民活動のヒントになればと、豆知識的にいろいろな成功事例などを取り上げてきましたが、今回が最終回です。

 そこで、自分自身へのメッセージも込めて、社会を変えられる人にはこういう要素が必要なのでは、という公式をご紹介したいと思います。
 その公式が「変える力=自燃力×リソース×戦略力×運」です。

 それぞれを解説していきます。

1. 自燃(じねん)力

 好き嫌いは別として、経営者として有名な稲盛和夫さんは、物質と同様に人間も3種類に分かれると言います。
 自分で燃え上がれる自燃性(じねんせい)の人。燃え上がっている人が近くにいると燃え上がれる可燃性の人、そして、火を近づけても燃えない不燃性の人です。

 自分の心に自ら火をつけて突き進んでいく、そういう自燃の力(リーダーシップ)が社会問題を解決しようとする人には必須ですよね。自燃力のある人は、失敗を恐れない、楽観力にも優れていると思います。
 長く社会問題に関わっていくと、自らを鼓舞できる自燃の力と同時に、その志を維持することができる「持燃力」も必要になってくるのだろうと感じます。

2. リソース(資源)

 社会をより良くしていこうと効果的に行動するには、いろいろなリソース(資源)も必要です。例えば、仲間、お金、スキル、人脈、ネームバリューなど。

 「どうやったら多くの人を巻き込めるだろうか」

 「どうやって、文章を書けば読んだ人に響くだろうか」

 「どうやったらお金を集めることができるだろうか」

 「どうやったら新聞で記事として取り上げてくれるだろうか」などなど。

 リソースを効率的に増やすのにはある程度のノウハウを知る必要がありますが、この部分は経験のある人に教わったり、トレーニングを受けたり、本を読んだりすることでまかなえる部分でもあります。

3. 戦略力

 戦略は、決めたゴールに近づくためにどの道(手法)を通っていこうかと決めることです。
 ビジネスの手法を活用しながら社会を良くしたいと思う人もいれば、多くの人に投票に行ってもらうことで社会を変えたいと思う人もいます。子どもたちの教育を通じて長期的な社会変化を目指す人もいれば、座り込みなどの直接行動でスピーディーな変化を求める人もいます。
 その戦略がタイムリーであるか、社会の関心と関連付けられているか、働きかける相手が変わってくれそうか、などの違いによって、ゴールに近づけるかどうかが大きく変化していきます。さまざまな要因を分析して、戦略を適切にたてることができるかが、戦略力です。
 色々な個人や団体の特徴があるので、戦略は多種多様です。ただ、中長期的な戦略を持たずに活動すると行き当たりばったりの活動になってしまう危険性があります。

4. 運

 そして最後は運です。

 「え!そんな成り行き任せな」と言われてしまいそうですが、なにかが動くときには思いがけない出来事がきっかけになっていることがほとんどです。むしろ、社会が思い通りに動くことなどほとんどないのですから、「運」が果たす役割が大きいのは当然と言えます。
 しかし、「運」という漢字が「運ぶ」という意味で使われるように、運は「自らで運んでくるもの」です。
 同じ出来事でも、目標に向かって行動している場合には「幸運」に見え、行動していない場合には「ただの出来事」にすぎないことが多々あると思います。

 私が経験した例をあげると、グリーンピースでアパレル業界に有害化学物質の全廃を約束してほしいとキャンペーンをした例があります。このキャンペーンでは、業界トップのユニクロに変わってもらわなければいけないと思っていました。そんな中、ある日、ある人との話のなかで「佐藤くん、ユニクロの柳井社長の若い頃そっくりだね」と言われました。そこで、私たちのキャンペーンを説明し、後日その方が柳井社長に連絡をとってくださり、キャンペーンが動き出したことがありました。
 私たちが、このキャンペーンを用意していたから手にすることができた「運」ですが、もしなにもしていなければ、その時の顔が似ているという会話は「よく似ているって言われます」と笑って終わっていたことでしょう。

変える力=自燃力×リソース×戦略力×運

 何かうまくいっていないなと感じているグループは、主に2つに分かれるのかなと思います。

 ①自燃力に満ち溢れているけれど、リソースや戦略力に欠けているケース。
 ②リソースや戦略力はあるのだけれど、自燃力に欠けているケース。

 ①のケースには新しい団体が多く、②のケースには既存の大きめの団体に多く見られるケースです。
 逆に、うまくいくグループや団体は、自燃力、リソース、戦略力のバランスがしっかりしていると言えます。そういうグループや団体には「運」が運ばれてくる可能性が高まり、成功体験がそのグループをさらに強くしていきます。

 皆さん個人や、皆さんが所属しているグループや団体はいかがでしょうか?
 ぜひ、一度このカエルの公式「変える力=自燃力×リソース×戦略力×運」のどの要素が足りていないか分析してみてはいかがでしょうか?

 これをもってカエルの公式は終わりですが、これからもグリーンピース・ジャパンの事務局長ブログでいろいろとご紹介していきますので、今後はぜひこちらを御覧ください。

 ありがとうございました。

 

  

※コメントは承認制です。
 最終回 社会を変える力=自燃力×リソース×戦略力×運」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    今回の「カエルの公式」、市民活動に関わられている方には、思い当たるところがあったのではないでしょうか。
    「社会を変える『公式』は存在するの?」というテーマでスタートした連載も、これが最終回。脱原発、ダム問題、ファストファッション、ミツバチの激減など、さまざまなテーマを取り上げていただきました。これからも、グリーンピース・ジャパンでは、さまざまなキャンペーンを展開されていくことと思いますので、ぜひ今後は事務局長ブログをチェックしてみてください。
    佐藤さん、これまでどうもありがとうございました!

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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