カエルの公式

暑い日が続きますが、相変わらず電気は足りていますねー。

さて、先週末の25日、マガ9学校で俳優の山本太郎さんと一緒に「非暴力行動」についてのワークショップを開きました。興味深いワークショップになったので、「カエルの公式」でも複数回にわけて内容を書いてみたいと思います。

今回は、「非暴力行動」という本題に入る前に、ワークショップでも好意的な反応が多かった「社会が変わるプロセス」とそのプロセスへの「あなたの役割」について紹介します。

このコラムを読んでいただければ、脱原発に向けて動くいろいろなタイプの人たちがそれぞれ重要な役割を担っていることが論理的にわかっていただけると思います。

あなたはどのタイプ?

それでは、さっそく性格診断です。あなたは、以下の4つのどのタイプですか?

社会問題に少しでも興味のある方は「関心高い市民派」に当てはまります。このコラムを読んでいる人は、他の3つに当てはまらなくてもこのタイプに当てはまると考えていただいて結構です。

「行動派」というのは、デモや抗議活動に参加したいと思う、問題に「NO」とはっきりと立ち向かう人です。基本的に問題点に焦点を当てることが得意な人です。

「提案派」というのは、ビジネス、選挙、法的措置という既存の仕組みの中で解決しようと模索する人です。「代替案」を強調したい人、自然エネルギーのビジネスを始めている人、始めたい人、選挙に出たい人などはこのカテゴリーに入ると言えます。

「啓蒙派」というのは、人に状況を広く伝えることで社会全体の底上げを目指して、確実かつ長期的な変化、社会構造の根本的な解決をもたらそうと考える人たちです。勉強会などを実施している市民グループの方々もこのタイプに入ります。

脱原発に取り組む人でわかりやすい例を挙げるとしたら「行動派」は山本太郎さん、「提案派」は飯田哲也さん、「啓蒙派」は田中優さんという感じでしょうか。もちろん一人で複数のタイプに当てはまるということもありますが、一番合っているだろうというタイプを選んでみてください。

ちなみに私は、今は「啓蒙派」でしょうか。最近までは「行動派」でしたが…。私が事務局長を務めるグリーンピースという団体としては、行動派、提案派、啓蒙派まで必要に応じて帽子を脱ぎかえられるように心がけています。

当日のワークショップでも同じ質問をしましたが、非暴力行動のワークショップに参加されている方々だけに「行動派」の人が多かったです。

社会変化のプロセスとあなたの役割

さて、あなたのタイプがわかったら、次に社会変化のプロセスにおける「あなたの役割」について紹介します。

ちなみにここで紹介している図は、ビル・モイヤーさんという米国の著名な社会活動家が80年代、90年代にまとめたものを参考に、私が簡潔化したものです。

以下の表を理解すると、社会変化がどのように起こり、その変化のためにはすべてのタイプの人が必要であることがわかると思いますので、ぜひゆっくりと眺めてみてください。

まず表の見方ですが、横軸に社会変化が起こる8つのステージを示していて、表中の4本のグラフ線が、先ほど選んでいただいた4つのタイプをそれぞれ表しています。グラフが上に膨らむほど、そのタイプの人が社会的に増えて影響力を持つということです。

すこしわかりにくいと思うので脱原発への動きを例に説明していきます。

無視されてきた原発の危険性と自然エネルギーの可能性

ステージ1、2、3は、東電の福島第一原発事故前だと思ってください。残念ながら、この段階で原発の危険性を指摘してきた人々は多数派ではなく、訴えても社会から無視されてしまっていました。

先見性のある「提案派」が太陽光発電などの普及を訴えたのもこの時期ですが、原発優先の社会システム自体を変えようというタイプではないので、世界一位だった太陽光発電普及は、原発優遇政策の中で世界に乗り遅れてしまうことになってしまいました。

東電の原発事故で「行動派」が増える

そこにステージ3とステージ4の間にある「きっかけとなる出来事 1」が起こります。それは今回の例では、紛れもなく東電の原発事故です。今回の原発事故をきっかけに、「行動派」が立ち上がるわけです。

「行動派」は、いつの時代も「何をやっているんだ、あいつらは」と最初は笑われる運命です。しかし「笑われること」は、社会変化への重要なプロセスです。社会の「常識」に挑戦するときには、かならず「笑われる」からです。逆に「笑われなければ」社会変化を十分に起こしているのか心配したほうが良いでしょう。

日本の大手メディアは「笑われている」段階での市民の行動を報道しない傾向があります。よって、これまでの「行動派」の意見は広がりにくく、賛同してくれる仲間を見つけられずにいたわけです。

しかし、今回はツイッターやフェイスブックなどのソーシャルネットワークやユーストリームなどを使った市民メディアが機能したことにより、「行動派」が既存の報道に頼らず、広がっていきました。これがステージ4の「不満爆発」につながったわけです。

活動家シンドローム

次のステージ5が、とても重要な岐路となります。もともと少数派だった「行動派」が社会的な影響力を発揮し始める段階です。

ここでは、3つのことが起きます。

(1)「行動派」への批判

(2)「行動派」の仲間割れ

(3)「行動派」のおかげで問題が一般にも理解され始め「関心高い市民派」が増加

この段階になると、それまで「行動派」の行動を嘲笑していた「変化を嫌う人たち」が積極的に「行動派」を批判・攻撃するようになります。「無視したり、冷笑したり」するだけでは止められないと思うのでしょう。「デモでなにが変わるんだ」とか「経済への影響が甚大だ」なんていう言葉もこの段階でよく聞かれる批判です。

その攻撃がどの程度功を奏するかにもよりますが、この攻撃や活動への意見の違いから「行動派」の仲間割れや疲労感も広がってしまいます。これがステージ5の「活動家シンドローム」です。

しかし、「行動派」の重要な役割は問題点にスポットライトを当てることです。つまり「誹謗中傷」や「攻撃」も含めて、議論が活発になることで問題を社会の中枢に引っ張り出すことなのです。この段階では、大手メディアも賛否を報道するようになりますので、問題が広く認識され、「関心高い市民派」が増えてきます。

現在行われている官邸前の抗議行動を行っている「行動派」は、確実に「関心の高い市民派」を増やすことに役立ち、次のステージへと社会変化を動かすことに成功していると言えるでしょう。

いよいよ、問題が一般的に理解される

ステージ6になると、社会の多数に「問題」が「解決すべき問題」として公式に認められるようになります。

先週、将来のエネルギー政策について全国11都市で開かれた意見聴取会、パブリックコメント(意見公募)、討論型世論調査の結果が出ましたが、いずれも「原発ゼロ」を支持する割合が最も高かったという結果でした。

これは脱原発への社会変化が、ステージ6に入ったと言える現象だと思います。ステージ6で「きっかけとなる出来事 2」として、政府が「原発ゼロを目指す」と明確に打ち出せば、いよいよステージ7にむけて急速に社会が動き出すでしょう。

提案派が動き出し、社会が変化していく

「原発ゼロ」という方針が、政府からも出されると、既存のシステムが変わるという合図になります。この合図は、例えば経済市場に大きな影響を与えます。その段階では一気に「提案派」が増えていきます。なぜなら、既存のシステムが変化するという合図は、ビジネスチャンスが生まれる合図にもなるからです。

市場が変化していけば、あとはステージ7で「変化を宣言する」だけです。脱原発の例で行けば、「きっかけとなる出来事 3」として総選挙で脱原発派が勝利したり、脱原発法が制定されたりすることでしょうか。

こうなれば、ステージ7の「成功」となります。

あとは、ステージ8として、脱原発が社会の常識となるように社会全体が具体的に取り組んでいくことになります。「啓蒙派」と呼ばれる人たち増え、教育などを通じてその変化を確実なものとしていく段階です。

新たな問題が起これば、またステージ1からのプロセスが繰り返されるわけです。

あらゆるタイプの人が活躍する社会変化

これがステージ1ではまったく起こると思っていなかった「脱原発」がステージ8では「常識」に変わるプロセスです。

もちろん例外も多々あると思いますが、この図を見ながら身の回りで起きた変化に当てはめてみると、意外と当てはまることが多いのに驚かされると思います。

このプロセスで重要なのは、図で示したように社会変化は様々なタイプの人がバトンをリレーすることで起こります。つまり、様々な人が共通の目的を目指すという「多様性」が変化を起こすためには不可欠なのです。

ガンディーも同じプロセスを訴えていた

以前このカエルの公式でも取り上げたガンディーの有名な言葉をもう一度ご紹介します。

 「はじめに彼等は無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろう。そうしてわれわれは勝つのだ。」
“First they ignore you, then they laugh at you, then they fight you, then you win.”

(マハトマ・ガンディー)

この言葉は、社会変化を4つの現象で表現しています。ビル・モイヤーさんはこの4つの現象をさらに8つのステージにして表現していますが、基本的に社会が変化する同じプロセスを端的に言い表していると思います。

次回は、非暴力の役割

さて、今回は社会変化が起こるプロセスとさまざまな人の役割を紹介しました。次回は、このプロセスの中で重要な役割を果たしている「行動派」の人たちが主に使う手法としての「非暴力行動」について詳しく説明できればと思います。

「行動派」による非暴力行動がないと、「関心高い市民派」の形成にはなかなかつながらない状況を理解していただけると思います。

お楽しみに!

参考:
1) Bill Moyer”The Eight Stages of Successful Social Movements”(英語)
2) Bill Moyer ” The Movement Action Plan” (英語 PDF)

 

  

※コメントは承認制です。
第9回 あなたはどのタイプ?
脱原発人のための性格診断
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「マガ9学校」にお越しいただいたみなさま、ありがとうございました!
    グラフを参照しながらの、「変革にはすべてのタイプの人が必要」という説明、会場でも皆さん、なるほど、という様子で頷いてらっしゃいました。さて、あなたはどのタイプですか?
    ご意見・ご感想をお寄せください。

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佐藤潤一

佐藤潤一(さとうじゅんいち): グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

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