●始まった「出所後」支援のための取り組み
今村 そういえば先ほど、寮内工場で用務者をやりとげた人には、ヘルパー資格を与えればいいのに…なんていう話をしたんですけど、今の刑務所には、そうした「出所後」につながる取り組みはないんでしょうか。
本間 一応、薬物中毒者や性犯罪者については改善プログラムというのがあるんですけど、あまり効果があるようには見えなかったですね。もちろん人によるとは思いますが、懲役作業もあるので1日中そのプログラムを受けられるわけではないし。
その懲役作業も、日本の場合は古い技術しか教えてもらえなくて、しかも部分部分、「パーツ」の仕事しかやれないんですよ。よく「刑務所でこんな立派な箪笥をつくっています」なんて展示があったりしますよね。1人でそれを全部つくれるのなら立派な「技術」になるでしょうけど、たいていの人は流れ作業の中の一部を担っているだけ。社会に出た後で役に立つ技術は、ほとんど何も身につかないんですよ。ヨーロッパなんかだと社会復帰のための職業訓練コースがあったりするんですけどね。
ただ、そうした点については法務省も、ここ10年くらいでかなり動いて改善しようとはしています。やっぱり、山本譲司さんが刑務所の現状について本を書いて、いろいろと発言してきたことの影響が大きいですよね。
今村 具体的にはどういうことですか?
本間 例えば2007年から、全国4か所に「社会復帰促進センター」という、半官半民で運営される新しい形の刑務所ができていて、これは従来の刑務所とは発想がまったく逆。いわゆる懲役作業は1日1~2時間しかなくて、職業訓練など社会復帰のためのプログラムがメインなんです。理容師や調理師の資格が取れたり、女性だったらネイリストとか。ホームヘルパー2級の資格も取れたはずですよ。
法務省もバカじゃないから、そういう取り組みを促進したほうが出所後の社会復帰が進んで再犯率も下がると分かってはいるのでしょうが、予算の問題もあってなかなかすぐには広げられない。それで今は初犯の、中でも「社会復帰の見込みが高い」と判断された「スーパーA級」の受刑者だけが社会復帰促進センターに集められる仕組みになっています。実は、僕が黒羽刑務所に入っていたときも、すぐ近くに喜連川社会復帰促進センターができて、16工場からもそちらへ移されていった受刑者がいたので、刑務官に「僕も移してほしい」と言ったんですが、「バカ野郎、お前がいなくなったらこいつらの面倒を誰が見るんだ」と、聞き入れてもらえなかった(笑)。
ともかく、法務省の取り組みはそうして少しずつでも、後戻りせずによくはなってきていると思います。問題はそれよりも社会の意識なんじゃないでしょうか。
(後編につづきます)
今回は、障害者の問題と出所者の社会復帰の問題を「つながって」考えてみよう! ということで、本間龍さんにご登場いただきました。お話の中からは、本間さんが見た「塀の中」の光景は、実は「塀の外」の状況の裏返しでもある――そんな図式が見えてくるように思います。