つながって考えよう

●寮内工場は、つねに「空き待ち」の満杯だった

今村 ところで、病気や障害を抱えている人といってもさまざまですが、16工場にいるのはどんな人たちだったんですか?

本間 まず、一つのボーダーラインになるのは「昼間は座って仕事ができる」ことのようですね。それができないくらい障害や病気が重いと判断された人は、最初から医療刑務所に行くことになります。

今村 僕みたいに車椅子ユーザーだと、医療刑務所ですか?

本間 いや、僕がいた当時の16工場にも、車椅子を使ってる受刑者が2人いましたよ。ただ、自分の部屋の中では車椅子が使えないので、這って歩くようにして移動していましたね。正直なところ、そのあたりのラインは割とあいまいで、どういう基準なのかよく分からないことも多いです。
 あと逆に、じゃあほかの工場にいる受刑者がみんな「健常者」なのかというと、それもちょっと微妙な部分があって。調査の手法によって数値に差はありますが、全国の刑務所に、障害のある受刑者は実際には3割以上はいると言われています。さらに、生活するのに特に支障はないけれど、軽度の知的障害といえなくもない、いわば「ボーダーライン」の人を加えれば、5割近いのではないかという説もあるんです。

今村 相当な割合ですね。

本間 でも、実際には当時黒羽刑務所に約2300人いた受刑者のうち、15・16工場にいたのは約200名。だから、「何らかの障害や病気がある」と認められていたのは、約10分の1ということになりますね。ただ、あと若い連中とうまくやれない高齢受刑者が移されてくることもあったりして、その結果15・16工場はいつも満杯で、常に空きを待っているような感じでした。誰かが出所すると、すぐに次が入ってくる。最初はびっくりしたけれど、よく考えてみたら当たり前のことなんですよね。社会には、障害のある人も高齢者もたくさん暮らしていて、その人たちも罪を犯してしまうことは当然あるわけですから…。
 ただ、認知症の人などには、自分が刑務所にいるという意識もない人もいる。そういう人を刑務所に入れておく意味は何だろう? とも思いました。朝、部屋から出て自分の作業する席にたどりつけない、終了後も1人では部屋に戻れないおじいさんとかね。中には、認知症と、あと病気で飲んでいた薬の影響で現実と夢の境が分からなくなって、夢の中で奥さんの首を絞めているつもりが本当に殺してしまい、刑務所に入ることになった、なんていう受刑者もいましたよ。

今村 ちなみに、黒羽刑務所は基本的に、初犯の受刑者を収容するところだと聞きましたが、累犯者を収容する刑務所にも、そういうふうに介護が必要な人ばかりを集めた工場があるんでしょうか。

本間 あるはずですよ。ホリエモンも長野刑務所で同じような仕事をしていたと発言していますけど、そうして口に出す人が少ないというだけで、実際には全国どこの刑務所にでもあると思います。介護が必要な受刑者は必ず一定の割合でいるわけで、そうなると用務者の仕事も絶対に必要になるわけですよね。

●再犯率は、社会の「暮らしやすさ」のバロメーター?

今村 本間さんは『名もなき受刑者たちへ』の最後で、刑務所での体験を通じて、「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の必要性を強く感じた」ということを書かれていますよね。そう思われたのは、なぜですか?

本間 刑務所の中にいる人たちが、「社会から弾き出されて、そのままじゃ生きていけない」から罪を犯すんだという構図が非常によく見えたということだと思います。もちろん、それまでにもテレビなどで事件報道は見ていたけれど、その事件を起こした人のことをリアルに考えたことなんかなかったわけです。
 でも、刑務所で、いわゆる「犯罪者」と1年足らずでも一緒に過ごしてみたら、その多くはどうみても「刑務所になんて来なくてよかった」人たちなんです。自転車泥棒を年に何回もやっただけ、とかね。他人の家の庭先に置いてあった赤いチェーンソーに「一目ぼれ」して盗みに入って、1回目は執行猶予がついたのに、また同じ家に盗みに行って懲役3年の実刑判決を受けた、なんて人もいました。

今村 そのケースだと、発達障害か何か、軽度の知的障害があるのかもしれないですね。

本間 そうでしょうね。彼を刑務所に入れていても、何の治療にも訓練にもならないし、外に出たらきっとまた同じことをやる。当時は出所のときに、例えばそうした知的障害の可能性がある受刑者を障害者福祉施設などに誘導するルートもほとんどありませんでした。正確に言えば、今は各刑務所に社会福祉士が1人配置されて、出所後に福祉につなげたりするケアを担当することになっているんですが、何百人も受刑者がいる刑務所にわずか1人ですから、ちゃんと全員をケアできているかというと…。特に、身寄りがなかったり、あっても誰も会いに来ないというようなケースだと、出所しても行くところがなくて、結局すぐに再犯して刑務所に戻ってくることも多い。
 実は最近、日本では再犯率がすごく上がっているんですよね。ある調査では43%という数字が出ています。

今村 43%ですか!

本間 今、年間出所者が約3万人なんですが、その半分近くの人が、もう1回刑務所に戻ってしまうということですね。

今村 僕はよく、その国の「暮らしやすさ」は、障害者の暮らしを見ればわかる、という話をするんですよ。障害者が安心して暮らせる国は、障害者だけじゃなくすべての人が安心して暮らせる国なんじゃないか、と。再犯率の話や刑務所での処遇の話も同じで、犯罪に限らず何か失敗した人がちゃんとやり直しできる社会なのかどうか、あるいは、多くの人と違う状況、境遇になった人が困り続けることがない社会なのかどうかが暮らしやすさのバロメーターになるかもしれないですね。

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第2回 「刑務所の〈福祉施設化〉から考える」(前編)本間龍さん×今村登さん」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    今回は、障害者の問題と出所者の社会復帰の問題を「つながって」考えてみよう! ということで、本間龍さんにご登場いただきました。お話の中からは、本間さんが見た「塀の中」の光景は、実は「塀の外」の状況の裏返しでもある――そんな図式が見えてくるように思います。

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