1月12日、参議院議員会館内で行われた「山城博治さんらの釈放を求める」記者会見と、それに続く集会に行ってきた。沖縄での辺野古新基地及び高江ヘリパッド建設反対運動で逮捕され、長期間拘束されている山城さんら3名の即時釈放を求める集会だった。
記者会見場は100人ほどの報道陣でごった返していた。これだけの報道陣が集まるのは、最近では珍しい。集会のほうは350人もの参加者で、議員会館のいちばん広い講堂がぎっしり。立っている人も多かった。それだけ、この問題が関心を広く集めているということだろう。
しかし残念なことに、あれだけの記者が集まりながら、翌日の新聞では、ぼくが見る限り「朝日」と「東京」にしかこの記事が載っていなかった。テレビは完全にスルーだった。
逆に、ネット上ではかなりの関連情報が流れていた。ということは、あそこに集まったのは、その多くがフリーランスの記者だったのだろうか。それとも、例によって安倍政権への“忖度”で、取材はしたけれど紙面化やオンエアはできなかったということなのか。
この国のマスメディアはいったいどうしちまったのだろう。しかし、これが悲しい現実なんだ、残念ながら…。
ところで、山城博治さんとはどんな人物か。なぜ彼がいま、沖縄問題の焦点のひとつになっているのか?
山城さんは、沖縄平和運動センター議長で、辺野古の米軍新基地建設反対や、東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対の先頭に立って頑張ってきた人だ。彼がなぜ米軍基地建設にこれほどまで反対するのか。その一端は「マガジン9」のインタビュー「この人に聞きたい」で知ることができる。これはぜひ読んでほしい記事だ。
集会で「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」(2016年12月28日付)というメッセージが配られた。
これは、63人(2017年1月10日現在)にも及ぶ刑事法の大学教員たちの共同声明である。刑事法学者の見解だけに、山城さんの逮捕勾留がどんなに不当なものかがよく分かる。
以下に、やや長いけれど、その声明を引用する。
沖縄平和運動センターの山城博治議長(64)が、70日間を超えて長期勾留されている。山城さんは次々に3度逮捕され、起訴された。接見禁止の処分に付され、家族との面会も許されていない山城氏…(略)
この長期勾留は、正当な理由のない拘禁であり(憲法34条違反)、速やかに釈放されねばならない。以下にその理由を述べる。
山城氏は、①2016年10月17日、米軍北部訓練場のオスプレイ訓練用ヘリパッド建設に対する抗議行動中、沖縄防衛局職員の設置する侵入防止用フェンス上に張られた有刺鉄線一本を切ったとされ、準現行犯逮捕された。同月20日午後、那覇簡裁は、那覇地検の勾留請求を却下するが、地検が準抗告し、同日夜、那覇地裁が勾留を決定した。これに先立ち、②同日午後4時頃、沖縄県警は、沖縄防衛局職員に対する公務執行妨害と傷害の疑いで逮捕状を執行し、山城氏を再逮捕した。11月11日、山城氏は①と②の件で起訴され、翌12日、保釈請求が却下された(準抗告も棄却、また接見禁止決定に対する準抗告、特別抗告も棄却)。さらに山城氏は、③11月29日、名護市辺野古の新基地建設事業に対する威力業務妨害の疑いでまたしても逮捕され、12月20日、追起訴された。
山城氏は、以上の3件で「罪を犯したことを疑うに足る相当な理由」(犯罪の嫌疑)と「証拠を隠滅すると疑うに足る相当な理由」があるとされて勾留されている(刑訴法60条)。
しかし、まず、犯罪の嫌疑についていえば、以上の3件が、辺野古新基地建設断念とオスプレイ配備撤回を掲げたいわゆる「オール沖縄」の民意を表明する政治的表現行為として行われたことは明らかであり、このような憲法上の権利行為に「罪を犯したことを疑うに足る相当の理由」があるのは、その権利性を上回る優越的利益の侵害が認められた場合だけである。政治的表現行為の自由は、最大限尊重されなければならない。いずれの事件も抗議行動を阻止しようとする機動隊等との衝突で偶発的、不可避的に発生した可能性が高く、違法性の程度は極めて低いものばかりである。
すなわち、①で切断されたのは価格2000円相当の有刺鉄線1本であるにすぎない。②は、沖縄防衛局職員が、山城氏らに腕や肩をつかまれて揺すぶられるなどしたことで、右上肢打撲を負ったとして被害を届け出たものであり、任意の事情聴取を優先すべき軽微な事案である。そして③は、10カ月も前のことであるが、(2016年)1月下旬にキャンプ・シュワブのゲート前路上で、工事車両の進入を阻止するために、座り込んでは機動隊員に強制排除されていた非暴力の市民らが、座り込む代わりにコンクリートブロックを積み上げたのであり、車両進入の度にこれも難なく撤去されていた。つまり、山城氏のしたことは、犯罪であると疑ってかかり、身体拘束できるような行為ではなかったのである。
百歩譲り、仮に嫌疑を認めたとしても、次に、情状事実は罪証隠滅の対象には含まれない、と考えるのが刑事訴訟法学の有力説である。②の件を除けば、山城氏はあえて事実自体を争おうとはしないだろう。しかも現在の山城氏は起訴後の勾留の状態にある。検察は公判維持のために必要な捜査を終えている。被告人の身体拘束は、裁判所への出頭を確保するための例外中の例外の手段でなければならない。もはや証拠隠滅のおそれを認めることはできない。以上の通り、山城氏を勾留する相当の理由は認められない。(略)
山城氏の長期勾留は、従来から問題視されてきた日本の「人質司法」が、在日米軍基地をめぐる日本政府と沖縄県の対立の深まる中で、政治的に問題化したとみられる非常に憂慮すべき事態である。(略)◎呼びかけ人 春日勉(神戸学院大教授)、中野正剛(沖縄国際大教授)、本庄武(一橋大教授)、前田朗(東京造形大教授)、森川恭剛(琉球大教授)
引用が長くなってしまったが、山城さんの長期勾留が刑事法の面から見ても不当だということがよく分かると思う。
ほんとうに軽微な罪(それも難癖に近い)を作り上げ、もう3カ月にも及ぶ身体拘束を続ける権力という怪物。権力が山城さんらに対して行っていることは、もはや非人道的、人権侵害の極みというしかない。
山城さんは、悪性リンパ腫という難病からやっと生還したばかりの病み上がりである。そんな体をおしてでも、彼は沖縄を思い、米兵犯罪に憤り、米軍基地の縮小撤廃を願って、反対運動のリーダーとして活動してきた。そのカリスマ性には、現場の警備指揮官さえ一目を置くほどだった。
山城さんが病から闘争現場へ復帰したとき、警備の現場指揮官が笑顔で「お帰りなさい」と声をかけたほど、彼の非暴力抵抗運動は高く評価されていたのだ。だからよけい、安倍政権にとっては目障りな存在だったのだろう。そう考えなければ、こんな理不尽な長期勾留は説明がつかない。
集会では、山城さんの現況についての報告もあった。
長期にわたる拘束は、山城さんの健康をかなり蝕んでいるという。白血球の数値がそうとう減少しており、カミソリでヒゲを剃り、あやまって出血すると血が止まらなく恐れがあるということでカミソリ使用をやめており、現在はヒゲぼうぼうの状態だという。
だがその様子も、家族は接見を許されず、かろうじて接見できた弁護士を通じての情報だ。
沖縄といえども、冬の夜はそれなりに冷え込む。病を持つ山城さんはことに足が冷える。ところが、靴下は差し入れ禁止。理由は「靴下で首を吊ることもできるから…」なのだという。病の進行を進めるような長期勾留をしておきながら、こんなアホなリクツで靴下さえ差し入れを拒む。そこまで人権無視をするのか。いったい誰の指図なのか。
懸命に山城さんらの支援運動を続ける大木晴子さんは、ご自身も同じ病の闘病者だから、その辛さを身に沁みて知っている。そこで大木さんは、東京から沖縄へ出かけ(もちろん日当など出ていない、すべて自費、持ち出しです。→TOKYO-MXテレビ「ニュース女子」へ怒りを込めて)、山城さんが勾留されている名護署へ出向き、粘り強い交渉の末、ついに靴下の差し入れを実現した。
「でも、長い靴下はやはりダメということなので、短い靴下をようやく認めてもらいました」と、この集会で語っていた。
ぼくは、大木さんの行動に深く感謝する。
ぼくらはいま、残念なことに、こんな社会の中に生きている。
しかし、厳しいけれど、人間の尊厳をかけたこの闘いを、放棄するわけにはいかない。