ようやく少し涼しくなった。
ぼくにとっては、なんとも鬱陶しかった夏が、ようやく終ろうとしている。夏よ、さっさと過ぎ去れ、というのがぼくの今の心境である。
ぼく自身の身の周りで次々にあまり嬉しくないことが重なり、毎年の楽しみだった小旅行も、今年はついにできなかった。行くつもりで準備していた沖縄にも、とうとう行けなかった…。
そんな齢回りになったのだなあ…と苦虫を噛み潰しながら、酷暑を耐えた。でも、きっとそれはぼくだけじゃない。この国にとっても、ちっともいいことのない夏じゃなかったか。
・ヘイトクライム
神奈川県相模原市の障がい者施設における、凄惨な大量殺人事件。せせら笑う容疑者。「役に立たない者を殺すのは、むしろ必要なことだ」と、ナチスばりの思想(いや「痴想」というほうが正しいだろう)を得々と口走る男に、ネットでは賛同の声すらあがる。
世を席巻しつつあるヘイトスピーチが、とうとうヘイトクライムに行き着いたというしかない。
これがイヤな夏の幕開けだった。
・カネのばら撒きと巡視船供与
この夏も、安倍首相は外国へ出かけてはカネをばらまき「中国包囲網」の構築に精を出す。
まず、アフリカ諸国の投資に3兆円。フィリピンには大型巡視船2隻の建造費約165億円を円借款供与。フィリピンに対しては、すでに沿岸警備隊用巡視船10隻の供与を決定済みだが、今回はそれに上乗せする気前の良さ。しかも「巡視船は武器ではない」と、例の「安倍話法」(言葉の言い換えで物事をごまかす安倍式言語法)を用いて、武器輸出三原則をないがしろにする。
さらに、ベトナムのフック首相との会談でも、安倍首相は巡視船の供与を伝えた。これも中国を牽制するためのカネのばら撒き。それでも足りないと思ったか、気候変動対策などに228億円の支援。
安倍首相の周辺ではカネがあり余っているらしい。まだまだ続く大盤振る舞い。次はミャンマーへ、なんと1250億円もの貧困対策、農村開発のための援助を決めた(以上、東京、朝日、毎日各紙による)。
むろん、途上国支援は大切だし、それによって助かる命があるとすれば、立派な国際貢献といえる。だが安倍首相の場合、あまりにその意図が見え透いている。どれをとっても「中国包囲網構築」のためだ。アフリカでのばら撒きは、アフリカで影響力を増す中国に対抗するためだろうし、東南アジア各国については、南沙諸島での中国の活動活発化が背景にある。だが巡視船の供与が、途上国の民生上の役に立つとはとても思えない。
とにかくカネで、という手法が目に余る。カネで尊敬が買えると思っているのだろうか?
国内での切羽つまった人たちへの配慮よりも、国外でいい顔をしようとする安倍首相。カネの使い道の順位が違うよ、と言いたい。
・原発再稼働と地元合意
三反園訓鹿児島県知事による「川内原発の一時停止要請」を、瓜生道明九州電力社長は、けんもほろろに一蹴した。いい根性している、としか言いようがない。というより、後先を考えられない失格経営者だ。
10月11月に、2基の川内原発は相次いで定期点検に入る。点検後の再稼働時に、三反園知事が反撃に出るのは間違いないだろう。突っぱねて損をするのは、結局、九電側だということが理解できないのであれば、瓜生氏は社長の器とはいえない。
原発事故が起きた際の住民避難の計画がとにかくずさんだと、三反園知事は指摘している。避難計画の完璧な策定や、事故の際の免震重要棟の設置、津波対策など、実は課題は山積みのままだ。再稼働には、電力会社と地元自治体の「合意(同意)」が必要とされる。それを盾に、三反園知事が再稼働に合意しなかったら、さて、九電側はどうするつもりなのか。
・逃げ道なしの避難計画
伊方原発が多くの反対にもかかわらず、8月12日に再稼働した。それを受けて、9月4日に初の大規模避難訓練を実施した。これが「お笑い避難訓練」としか言いようのない代物。むろん、参加した住民約400人は真面目そのものだったのだが、中身がひどすぎる。
これは「風塵だより89」にも書いたことけれど、大事なことだから、簡単に復習しておこう。
伊方原発は愛媛県の佐田岬半島の付け根に立地しているが、この半島は東西に細長く伸びていて、約4000人が暮らしている。半島には主要道路が1本しかなく、それは原発のすぐ南側を走っている。避難計画ではなんと、原発のすぐわきの道路を使って逃げることになっているという。つまり、事故を起こした原発を横目に見ながら住民は避難せざるを得ない。もう放射性物質は浴び放題ということになる。
さすがにそれはまずい。となれば、原発とは反対の西へ避難。半島の西端部の三崎港から船で脱出。ところが実際の訓練の4日の際には、台風接近で海が荒れていたため、船を出すことができなかった。
陸路は遮断、海路もダメとなれば、住民は立ち往生だ。それが今回の避難訓練の、最悪の教訓だったのだ。
・ああ、10万年!
それでも再稼働したい原発マフィアどもが、苦肉の策でひねり出した案。処理の難しい高レベル核廃棄物は“地震や火山活動の影響を受けにくい場所”で地中深く埋め、それを電力会社が責任を持って(!)300~400年間管理し、その後は国が引き継いで10万年間保管する…という。もはや常識では考えられない。これは、原子力規制委員会が了承した案だという。だいたい、地震大国であり火山大国でもある日本列島のどこに“影響を受けにくい場所”があるというのか?
天を仰いで、ああ、と深い溜息つくしか反応のしようがない。
この国は、まるごと狂い始めたか。
10万年後の世界を真面目な顔で議論している連中が、超危険な原発を弄んでいるという現実。SF小説もハリウッド映画も顔負けだ。映画『猿の惑星』くらいは観ておけ!
・ぼくは廃炉費用を負担したくない!
まだまだ「原発ビックリ話」は尽きない。
毎日新聞(9月8日付)によれば、日本国政府は原発の廃炉費用を「新電力」にも負担させようと調整し始めたという。
新電力とは、電力自由化によって新しく電力を供給できるようになったエネルギー会社のこと。原発に抵抗感のある人や、料金体系を見比べて少しでも安いところへ、などの理由で新電力会社へ移行したのは、7月現在で148万件に及ぶ。その新電力にも、「廃炉費用」を負担させようというのだ。
ぼくもこの4月から東京電力を解約、新電力に移った。そんなぼくでも、廃炉費用を負担しなければいけなくなる? んなバカな話があるか。
某食品会社の商品が大きな食中毒事件を引き起こした。膨大な処理費用がかかった。同じ食品業界の他社も、その費用を負担すべきだ。そう言われて同意する会社があると思うのか! 財界のおじいさんたちは、原発費用だからみんなで負担しましょうね、というつもりか。
それほど「原発廃炉」という後処理には、巨額のカネがかかるということの証拠である。そんなにカネがかかるのなら、もう止めたらいいものを、それでもまだ再稼働と騒いでいる。ぼくにはわけが分からない。
・原子炉は強度不足?
フランスの原発で、相次いで強度不足の疑いがある重要施設の存在が指摘されている。これを製造したのは日本のメーカー「日本鋳鍛鋼(ちゅうたんこう)」という会社だが、実は日本国内でも、稼働中の川内1、2号機を含む8原発13基の圧力容器がこの会社製だったという(東京新聞9月3日付)。
福島第二の2、4号機(東京電力)、志賀1号機(北陸電力)、高浜2号機、大飯1、2号機(関西電力)、敦賀2号機(日本原電)、伊方2号機(四国電力)、玄海2、3、4号機、川内1、2号機(九州電力)がそれだ。
このうち九電は稼働中の川内原発について「運転を止めず、メーカーに確認する」が、強度不足が判明したらどうするかについいては「仮の話なので答えられない」とした。恐ろしい話である。
・超危険な自衛隊の新任務
違憲の色濃い安保法制によって自衛隊の任務が大きく変換、ついに具体的な戦闘行為も視野に入れた「駆けつけ警護」の訓練が始まった。アドレナリン出まくりの様子の稲田朋美防衛相の指令による。
南スーダンでのPKO(国連平和維持活動)に、自衛隊青森の部隊がこの11月にも派遣されるという。
もう説明の必要もないと思うが、簡単に言えば、どこかの国の軍隊や国際機関の職員などが、ある勢力の攻撃にさらされているような場合、武装した自衛隊がその救援に駆けつける、というもの。現に戦闘状態にあるのだから、そこへ一方の味方をしに出かければ、攻撃側からは「敵対勢力」とみなされる。撃ち合いになるのは当然だ。死者や負傷者が出るのは避けられまい。
日本という国が、少なくとも71年間にわたって、ひとりの戦死者も出さず、ひとりの敵兵も殺さずに来た、という実績はここで終わる。それがもうすぐ現実になろうとしている。むろん、安倍首相も稲田防衛相も、それは承知しているはずだ。承知の上で、なぜ殺し合いの場に自衛隊員を送り込むのか。それが彼らの言う「普通の国」ならば、ぼくは「特殊な国」を選ぶ。
もし、自衛隊員が異国の地で「戦死」するような状況が起きたとしたら、彼らはいったい誰を守るために死ぬのか? それが「御国のため」なのか?
・いまや戒厳令下の沖縄
沖縄・高江は「いまや戒厳令下にある」と現地のジャーナリストからの悲痛な報告。
ヘリパッド建設反対を訴える中年の女性が、屈強な機動隊員らによって車から引きずり出され、地面に押し倒されて手錠をかけられ、逮捕された。抵抗もできない女性に数人がかりの機動隊員。島袋文子おばあ(87歳)は、孫よりも若そうな機動隊員に引きずられて、手に5針も縫う裂傷を負った。
そんな状況を取材しようとしていた沖縄タイムスと琉球新報の記者たちは、一時機動隊員に拘束され、装甲車の間に数時間にわたって監禁状態にされたという。「社員証を見せ、身分を明かして取材だと抗議したが、まるで聞き入れてもらえなかった」…。
何が起きているかを伝えることさえ許さない、圧倒的な暴力と弾圧。それを本土のマスメディアはほとんど伝えない。
これはやがて、日本全国で起きることの前哨戦ではないか。そんな危機感を持つジャーナリストは、日本のマスメディアの中では絶滅危惧種になってしまったようだ。だが、レッドデータブック並みだとはいえ、ごく少数のジャーナリストはいるはずだ。ぼくの、ささやかな期待…。
・「共謀罪」と公明党
市民運動、抵抗行動を完全に抑え込もうというのが、3度も廃案に追い込まれながら、ゾンビのごとく甦ろうとしている「共謀罪」だ。
これについては「風塵だより88」に書いたから、詳しくはそちらを読んでほしい。ただ、ひとつだけ「共謀罪」に関して触れておきたいことがある。それは、公明党の動きだ。
例によって公明党の山口那津男代表は、「慎重に議論しなければならないが、テロ等が起きないように法的根拠を整えておくことは重要だ」と、まるで鵺(ぬえ)のような発言。「特定秘密保護法」の際も「安保関連法」のときも、最初は「慎重に議論を」と言いながら、結局は自民党案を丸呑みしてしまった。この「共謀罪」(安倍内閣はいつもの手で、これを「テロ等組織犯罪準備罪」と言い替え)も同じこと。結局は、苦そうな顔をして呑み込んでしまうのだろう。
いまの政界で、もっともたちの悪いのが「自民党の暴走の歯止めになる」と言いながら、結果として暴走に加担し続ける公明党の存在ではないかと、残念ながら思わざるを得ない。
もし「改憲国民投票」が提起された場合、公明党は例のごとく「憲法9条は守る」などと言いながら、最後は安倍自民党と一蓮托生の道を選ぶだろう。
鬱陶しい夏が終わっても、鬱陶しい秋が来るだけだろうか…。
公明党の山口那津男代表は最初は「慎重に議論を」と言いながら、結局は自民党案を丸呑みしてしまう。立て板に水がながれるような彼の定型パターン。 「あいつはいいやつだ。ただ少し癖がある」。一方「あいつは少し癖がある。しかし、とてもいいやつだ」。言い方を逆にしただけです。響きは全く違います。惑わされないようにしなければならないと思います。 私事ですが、「安保違憲訴訟」原告に入れて貰いました。政治が憲法を強引に降り超えるさまを目撃したからです。戦後、過去に今ほどの恐るべき政治状況があったでしょうか。未来を生きる子、孫達へ戦争のない未来を手渡せるか,正念場です。
また、先日「敬老会」への招待券が届いたので初めて出席してみました。老人は主役ではなく、主役は主催者である「社会福祉協議会」でした。老人は癒しの対象に過ぎませんでした。交流の空間はゼロでした。老人の環境は50年前とでは激変しています。時計が止まって様な扱いに驚きました。一人一人の老人を敬う、というより、アトラクションを食事しながら見て下さい。アトラクションが終わると閉会です。「集団主義的」発想が地域社会へジワジワと忍んで来ている、というのが実感でした。「高齢者差別」が静かにの侵攻してるな、という感じを抱きながら帰宅したのです。